エンディングノートに書いておけば法的効力はあるの?遺言とのちがいと記述のメリット

はじめに

 あなたの身近に、「最近エンディングノートを書いた」という方、もしくは「書いてみようと思ってるんだよ」という方、どれくらいいらっしゃるでしょうか。終活がブームから一般常識になりつつある今日このごろのことですから、何人かはいらっしゃるのではないかと思います。

 そんな方に、「エンディングノートって、遺言と何が違うの?」と聞いてみてください。意外と「あら、そういえば何が違うのかしら」とおっしゃる方もいることでしょう。いや、豆知識クイズをしたり、知らない方に意地悪するのが目的ではありませんよ。

 この記事では、ちょっと似ているように見える「エンディングノート」と「遺言」について、どこがどう違うのか、それぞれどんなメリットがあるのかを考えてみたいと思います。

エンディングノートと遺言書

 では、まず「エンディングノートと遺言、何が違うの?」という質問の答え合わせから。

 それは、「法的な効力の有無」です。

 遺言は、亡くなった人の財産などを誰がどのように引き継ぐかを、書いた本人(遺言者、被相続人といいます)が意思表示した文書です。正しく書かれた遺言書には法的な効力があり、遺言書を勝手に開封した場合は、5万円以下の罰金が課せられる場合があります。それほど、遺言書には法的な効力があるのです。

 一方のエンディングノートには、そもそも法的な効力はありません。何をどのような形で書いても構いませんし、亡くなった後にエンディングノートを巡った骨肉の争いが起きる……ということもまずないでしょう。

 法的な効力も、正しい形式もないものですから、どんなタイミングでどんな内容を書いてもいいのです。紙のノートに手書きでもいいですし、パソコンやスマホを使って書いてもいいでしょう。

 自分なりの、オリジナルのエンディングノートを作ることができるのが、エンディングノートのメリットです。

遺言が持つ効力とは

 まずは、遺言書が持つ力について見ていきましょう。

 遺言書には、遺産相続に関する法的な効力があります。正しい書式・手続きに基づいて作成された遺言書は、以下のような事柄について効力を持ちます。

●財産の承継・処分に関する行為

 ・相続する財産の割合、財産の分割方法、遺贈などについて

 一般的な遺言書で、もっとも重要な部分です。ここで指定しない限り、相続する財産は法定相続人のあいだで一定の割合で分割されます。

 亡くなった方に配偶者と子供がいる場合は「配偶者1:1子供」となります。子供が複数人いる場合は等分に分割されます。

 配偶者と父母(親)がいる場合は、「配偶者2:1親」の割合です。複数名の親が生存している場合は等分で分割です。

 配偶者と兄弟姉妹がいる場合は、「配偶者3:1兄弟姉妹」です。同様に、兄弟姉妹が複数人いれば等分です。

 遺言で指定すれば、この割合を変更したり、第三者に遺贈することができます。例えば、「長男○○が遺産のすべてを相続する」と書いた場合、配偶者や他の子供は遺産を相続できないことになります。

 しかし、民法では「遺留分」として法定相続人のうち配偶者・子供・親にはそれぞれの法定相続分の半分を得る権利を認めています。

●相続人に関する行為

 ・相続人の廃除(相続人から外すこと)、廃除の取消し

上に挙げた「法定相続人」から、特定の人を外すことを「廃除」といいます。「排除」と混同しやすいのでご注意ください。

 相続の廃除は相続人に「著しい非行」があった場合などに行われます。「非行」には亡くなった人に対する虐待や暴行、不倫などで配偶者としての義務を果たしていない場合などがあります。

 しかし実際には、相続人の廃除には「権利の剥奪」という面もあるため、相続人側から異議の申立てがあった場合などはかなか行われないようです。

●身分に関する行為

 ・子供の認知、未成年後見人の指定など

ミステリーや韓流ドラマだとお馴染みの「子供の認知」です。法的には、子供の母親は出産の事実を持って確定します。結婚している夫婦から生まれた子供の場合は父親も確定となりますが、婚姻状態にない女性から生まれた子供の場合は父親による認知を経てはじめて父親であることが法的に確定します。

遺言による認知は、子供の出生時までさかのぼって適用されます。つまり、生まれたときから子供であることが法的に確定し、法定相続人としての権利も得るのです。

なお、遺言で認知しようとしている子供が成人に達している場合は本人の同意が必要です。また胎児である場合は母親の同意が必要になります。

●その他(祭祀承継者の指定、遺言執行者の指定など)

 ・祭祀承継者(お墓や仏壇などの管理、葬儀・仏事の運営をする者)の指定、遺言執行者(相続人の廃除・廃除の取り消し・子供の認知、第三者への遺贈手続きなどを執行する者)の指定

 「親の代からのお墓や仏壇をどうするか」という問題は、今後もより増えてくるでしょう。先祖代々のお墓やお位牌、仏壇などの管理や法事(仏事)などを受け継いでいく人のことを「祭祀承継者」といいます。

昔ながらの「家制度」では、これは長男の役目でした。家屋敷や田畑などの財産を受け継ぐ長男=家長のシンボルとして、お墓や仏壇を管理する役割も課せられていたのです。

 しかし核家族化と大都市への人口集中が進む現在、祭祀承継者としての役割は重荷になるという面も否めません。円が薄くなった田舎に、お墓の手入れや法事のためだけに行き来するのは難しいと考える人も増えています。

昨今、故郷にある昔からのお墓を「墓じまい」して都会の納骨堂に改葬したり、永代供養墓に移す例も増えています。法事も、葬儀と同様に簡略化が進んでいるのです。

「遺言執行者」は、遺言状に書かれた事項が確実に実現されるために必要な一切の行為を行う権限を持ちます。相続人のうち1人でもかまいませんし、弁護士などの有資格者や、さらには法人を執行者として指名することができます。

 遺言執行者は相続財産の目録を作ったり、預貯金などの解約、不動産などの名義変更を行うことができます。特に第三者への不動産の遺贈を行う際に重要です。本来は相続人全員が登記義務者として名義変更手続きを行わなければなりませんが、遺言執行者は単独で行えます。相続人のなかに認知症などで自分の意志を明らかにできない者や、重病などで移動できない者がいる場合は遺言執行者の存在は非常に有益です。

 遺言書は、自筆遺言書なら文面・日付・氏名を自筆して押印する、公正証書遺言なら公証人が立ち会って作成するなど、正式な遺言書として認められるためのさまざまな条件があります。

 それは、上で見たように遺言書には大きな効力があるためなのです。推理小説などで「遺言書の偽造」という話が出てくるのも、正しく作られた遺言書の効力はくつがえすのが難しいからです。

 大きな注意点として、たとえ家族や相続人でも、封をされた遺言状は勝手に開封してはいけません。家庭裁判所で、相続人の立ち会いのもとで開封し、裁判所の検認(有効な遺言書かどうか、加除訂正や日付、署名など開封した日現在の遺言書の状態を明確にし、偽造・変造を防ぐための手続き)を受けなければいけないのです。これは、故人から遺言状を預かって保管していた場合でも同様です。

 公証人の立会いのもとで作成された公正証書遺言書は、公証役場に控えが保管されているため、開封してもかまいません。

遺言書の種類

 遺言書には、大きく分けて「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」があります。

 「自筆証書遺言」は、遺言者が紙とペンなどを使って自分で遺言書を書くものです。遺言の全文・日付・氏名を自書し、印鑑を押すことで遺言書とすることができます。一般的に「遺言を残す」というときに感じるイメージと一番近いのがこれでしょう。

 自筆証書遺言を作ること自体に特別な手続きはいりませんが、遺言書を発見した相続人は家庭裁判所による「検認手続」を受けなければいけません。この手続きを経て、はじめて有効な遺言書としての効果を発揮します。

 また、遺言書は遺言者や家族が管理することになります。悪意のある家族がいれば、遺言書を隠したり偽造したりするリスクがあります。弁護士など専門家のチェックを受けていない場合には、遺言書に不備があって無効になる危険もあります。

 ただし、無効になってしまった自筆証書遺言でも生前に遺言者と相続人が合意していれば、資産を受け継ぐことができる場合があります(死因贈与)。

 「公正証書遺言」は、証人2名が立ち会った上で公証人が遺言書を作成するものです。被相続人である遺言者から聞き取りながら、公的な立場である公証人が遺言を作成しますから、偽造や変造のおそれがありません。また、公正証書遺言の原本は公証役場で保存されますから、紛失するおそれもありません。

 公正証書遺言の作成には、本人確認書類と戸籍謄本、不動産の登記簿謄本、固定資産税の課税明細書など必要な書類を用意しておきましょう。

 公正証書遺言は、以前は遺言者が口頭で公証人に遺言作成の意思を伝えたり、遺言書作成後に音読する必要がありました。しかし平成12(2000)年の民法改正で、耳や口に障害があって会話に不自由がある方でも、筆談によって公正証書遺言を作成することができるようになりました。このため、気管切開を受けているなど口がきけない状態の遺言者のもとを公証人が訪れて公正証書遺言を作ることも増えてきたといいます。

 「秘密証書遺言」は、遺言者が自分で用意した遺言書を2名の証人と共に公正役場に持ち込み、遺言書の存在を保証してもらうものです。公証人と証人が携わることでは公正証書遺言と似ています。しかし、遺言書の内容については公証人と証人は一切知ることができません。自筆証書遺言と同様に、形式が正しくなければ遺言としての効力を発揮できず、また、遺言書は自分で保管しなければいけないので、自筆証書遺言と同様に偽造や隠蔽などのリスクは避けられません。

遺言書を残した方がよい場合

 遺言書は、遺言者が亡くなった後に財産の承継などをどうするかを指定するための文書です。遺言を残すことは義務付けられているわけではなく、遺言がない場合には遺産は法律で定められた割合で相続人に分割されます。

 しかし、「遺言を残した方がよい」という場合もあります。以下、簡単に見ていきましょう。

●夫婦のあいだに子供がいない場合

 配偶者に遺産をすべて残したいという思いがある場合、遺言書を作っておけばすべての遺産を配偶者が相続できます。相続には「遺留分」があり、被相続人の親や子供には一定の割合の遺産を受け取る権利があります。しかし相続人の兄弟には遺留分がないため、遺産のすべてを配偶者に受け継ぐことができます。

●再婚し、先妻の子と後妻がいる場合

 「先妻の子」も「後妻」も、相続人としてはそれぞれ「子」と「配偶者」です。感情的なもつれがある場合は、遺産の行方については遺言ではっきり定めておくべきでしょう。

●子の配偶者に遺産を残したい場合

 遺言者の子供は亡くなっているが、その配偶者が介護などでたいへん尽くしてくれたので遺産を残したい……という場合です。子の配偶者は相続人にはなりませんので、遺言で指定する必要があります。

●内縁関係の場合

 法律的に結婚していない場合は、相続人になりません。籍を入れていないパートナーに遺産を残したい場合も、遺言は必須です。 

●個人で事業を行っている場合や、農林水産業を営んでいる場合

 法人として会社を経営している場合は事業承継ということになりますが、個人の事業や農業などを引き続き事業継続していこうという場合です。財政基盤となる現預金や不動産などを複数の相続人で分割してしまうと、ひとつの事業としては成り立たなくなってしまうことが考えられます。代々の家業をそんな形でやめてしまうのを避けるために、遺言を作っておく必要があります。

エンディングノートを書いた方がよい場合

 さて、エンディングノートについてです。先にも触れたように、エンディングノートは法的な力を持ちません。ということは、極端なことを言ってしまうと「書いても書かなくてもよい」ものでもあります。

 ですが、エンディングノートには大きなメリットがあります。それは、形式が自由だということ。追記も修正も、好きなように好きなタイミングで行うことができます。

 自筆証書遺言に修正した部分があれば、偽造や変造を疑うこともあるでしょう。偽造や変造、紛失を防ごうと思えば公正証書遺言を作ればよいのですが、こちらは公証人の方にお願いしなければいけないので、どうしても手間がかかります。

 その点、法的なバックグラウンドを求められないエンディングノートなら、気兼ねはいりません。

 そして、遺言をきちんと作ろうという人にとってもエンディングノートには意味があります。それは、遺言を補足する存在としての役割です。

 遺言書は、後々に争いのないように正確を期した文言で書く必要があります。つまり、「長男Aには次の不動産を相続させる。土地:○県○市○○○○ 建物:木造二階建て家屋」「次男Bには、上記以外のすべての財産を相続させる」というように、四角四面の文面でなければなりません。相続自体は問題なく進んだとしても、場合によっては「Bがもらう資産のほうが多いだろう」「A兄さんは長男だからって家屋敷をもらえるのか」など、兄弟間で感情のしこりが残ることも考えられます。

 しかし、エンディングノートはそうではありません。この例であれば、長男には土地建物、次男にはそれ以外と相続させる財産を分けた理由を書いておくことができるのです。

「長男Aには、わたしたち家族が30年に渡って暮らしてきた○市の土地・建物を相続してほしい。長男の妻C、孫D、Eの4人家族で生活するには、あの家ならぴったりだと思う。AとBが子供のころに遊んでいたあの庭で、DとEが元気に育っていく姿が目に見えるようだ。Cさんを大切にするんだぞ」

「残りの財産については、次男のBに継いでほしい。自営業を営むBには、換金しにくい不動産よりも現金などのほうが便利だろう。多くはないが○○銀行に定期預金口座と、××社の株券がある。××社はちょうど社長が代替わりしたばかりで経営はうまく行っているから、よっぽどの問題がない限り株は長く持っておいたほうがいいぞ」

 エンディングノートにこう書いてあれば、AとBの兄弟はもちろん、他の家族もしっくりと腑に落ちるでしょう。えこひいきではなく、親の気持ちがこもった遺産分割なのだという安心は、親を亡くした大きな悲しみを少しでも和らげる材料になるかもしれません。

 エンディングノートと遺言書は、法的な効力という観点から見れば全く異なるものです。しかし、本人の意思を次の世代につなぎ、想いをつなぐという意味では同じくらい大切なものなのです。

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