「争いになる前に相談に来てほしい」紛争予防に取り組む、経験豊かなベテラン弁護士
弁護士歴35年以上の秋田 徹先生。長年弁護士をやっていると樺太(カラフト)の戸籍を取り寄せる必要があったり、さまざまな場面に遭遇するそうです。
今回は先生がこれまでに経験した事例や、秋田先生が注力している予防法学についてお話を伺いました。
長年の弁護士経験を生かし、刑事事件から民事事件・商事事件など幅広い問題を解決。紛争になる前にトラブルを解決する「予防法学」に取り組み、短期間での課題解消を目指す。
紺野秋田法律事務所
相続は総合力を求められる分野
―相続の問題は、他の分野と比べて何か特徴がありますか?
相続分野はいろんな問題が発生しますね。被相続人の権利・義務すべてをを引き継ぐわけですから。預金債権だけじゃなくて、土地の所有権・不動産・株式だったり、自宅が建っているのが借地なのか自分の土地なのかでも変わってくる。
賃借権がどうなっているのか、不動産登記がどうなっているのかという法律問題が発生するんです。被相続人の財産を受け取る・受け取らない、どう分けるのかだけの問題ではない。
例えば亡くなった父親が借地人だったとしますよね。土地の上に建っている自宅はもちろん父親の財産ですから相続するでしょう。でも土地はどうなるのか。借りている人が亡くなったら借地権は消えてしまうのか。消えてしまったら困りますよね。だから借地権も相続するために、地主との交渉をすることになる。
相続をきっかけに法律問題がいっぺんに出てくるわけです。ですから弁護士にも総合的な力が求められる分野ですね。相続分野に限っているように見えて、相続に限らない経験と知識が必要になってくる。
樺太に住んでいた人の戸籍を取り寄せたことも
例えば相続ではまず戸籍を取り寄せますよね。戸籍の取り寄せ自体はそんなに難しいことではないんですが、戸籍をさかのぼっていくと取得できない戸籍が出てくるんですよ。
私が経験した過去の案件では、まず神田生まれの方が札幌まで戸籍が移動しているのを確認できました。そこをさらにたどっていくと、樺太に移動しているんです。でも樺太の戸籍を取ろうとしても、今は日本じゃありませんからどうするのかという問題になる。
実は樺太の戸籍簿の一部は、終戦時に本土に持ち帰られているんです。今はこれを外務省が管理しているため、外務省に開示請求を行って無事取得ができました。
こんな風に相続の案件を多数やっていると、いろんな事件に遭遇しますね。弁護士としてはさまざまな問題にチャレンジできるのがやりがいでもあります。
過去に解決した相続の事例
―先生が実際に解決した事例を教えてください。
3つの遺言書を無効にして、遺産分割協議をした事例
複数の遺言書が出てきた事例があります。公正証書遺言が1通、自筆証書遺言が2通、あわせて3つの遺言が出てきたんです。通常は最後に作成された遺言が有効となるので、前の遺言は問題になりません。
しかし、遺言が1人の相続人に偏って財産分割をする内容になっていました。そのためその他の相続人が違和感を持ち、遺言の内容にしたがって財産を分けていいのかが問題となりました。
そのため、最期に作成された遺言の有効性を確かめることに。遺言が作成された時期の被相続人の認知能力や状況を調査した結果、当時の被相続人に遺言能力がなかったと判決が下りたのです。
遺言は15歳以上であれば作成できると民法で定められています。つまり15歳程度の判断能力があれば、遺言能力があるとみなされるわけですね。
最新のものが無効になったので、今度は2番目に作成された遺言の有効性が復活。そのため2番目の遺言の有効性も検証したところ無効となり、3番目も同様に検証して…と全部無効になってしまったんです。
これら3つの遺言の有効性を争う裁判だけで、4年くらいかかりましたね。
結局、すべての遺言が無効になったので、裁判所から普通の遺産分割をするように指示があり、裁判の中で遺産分割協議をして合意となりました。
公正証書遺言が無効になるというのは、ほとんど考えられません。これは特殊な例と言えますね。
1人の相続人の具体的相続分を0円にした事例
あとは、ある1人の相続人の具体的相続分(実際に相続する遺産の割合)を0円にした事例があります。
遺産分割では法定相続分がありますよね。子ども3人が相続人の場合、3分の1がそれぞれの法定相続分になります。
ただ実際の相続では、具体的相続分を計算するんですね。具体的相続分は特別受益を相続分から差し引き、寄与分を加えて算出します。具体的にいくら相続するか計算して、その割合で分けるのです。
・寄与分…生前の被相続人に対して、財産の維持・増加の貢献をした相続人などに相続分以上の財産を取得させる制度。もしくはその取得割合のこと。
この案件では、生前に被相続人から財産をたくさんもらっている相続人がいたため、その人の相続分からマイナスしました。財産をもらいすぎじゃないかというわけです。
特別受益が多いと、差し引き分が法定相続分を越える場合もあります。そうなると、具体的相続分が0円になるわけです。相続人3人の中の1人の具体的相続分が0円になったら、残りの2人で遺産分割することになります。具体的相続分が0円になった人は、一切財産をもらえないんですね。
依頼者から真実を話してもらえるように
―相談を受ける際に、心掛けていることはありますか?
依頼者から真実を教えてもらえるように、素直に話してもらえるように誠実に対応しています。
相続人全員から同時にお話を聞けるのであればこちらも公平に判断できますが、実際はそうでないことが多い。感情的になって「兄貴は悪いやつなんだ」みたいなことを、一方的におっしゃる方もいます。
しかし弁護士は客観的に財産項目や相続人の調査をする必要があります。そういった財産・相続人の情報を、落ち着いてお話いただけるように配慮が必要です。
調べるには依頼者の話が重要ですが、「自分は知りません」と言われてしまったら、調査のしようがない。そういう調べるきっかけを話していただけるように、ヒアリングすることを意識しています。
加えて、自分が相続人であることを知らない相続人がいる場合も。遠縁の親戚が相続人になることもあるため、まずは誰が相続人であるか確定しないといけない。そのための客観的な調査が必要になります。
小さな情報や言いにくいことが調査のきっかけになることがありますから、何でも話してもらえるように誠実に対応しています。
紛争になる前に相談してほしい
―弁護士に依頼するかどうか悩んでいる方に、アドバイスをいただけますか?
社会のあらゆることは法律に基づいています。ですから頭を悩ませるような問題であれば、まずは弁護士に相談してください。ただ道を歩いているだけでも法律問題になるんです。人の土地を歩いているわけですから。
私は紛争になる前に相談に来てほしいと思っています。法律問題になるのか、弁護士に相談していいのかわからないと悩んでいる方には、「弁護士に相談したほうがいい」と伝えたいですね。
紛争になる前の問題を扱えるのは弁護士だけです。裁判官や検察官では扱えない。だから私は弁護士として、予防医学ならぬ予防法学をやりたいと思っています。紛争にならないように事前に手当てをしたい。
事前に相談しておけば、紛争の訴訟をする前の段階で問題を終わらせることができます。だから紛争になってからではなく、紛争になる前に来てほしいですね。
何か気になることがあれば、まずは法律相談した方が良いかと思います。ネットで調べて行ってみてもいいし、その弁護士が気に入らなければ変えて他のところに行っても構いません。そこは自由です。自分の気に入った弁護士に当たるまで、相談に行っていただければと思います。
―大変勉強になりました。ありがとうございました!
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