エンディングノート事例集〜実例から見るエンディングノート

はじめに

 エンディングノートとは、人が人生の終わりを意識したときに、言い残しておきたいこと、伝えたいことを書き綴ったノートです。法的な効力を持ち、さまざまな決まりや手順が必要な遺言書とは異なり、好きなときに好きなことを、自由に書くことができるのが特徴です。

 ここ数年、市町村などの地方自治体が住民の福祉サービスの一環としてエンディングノートを制作・配布したり、出版社や文具メーカーなどが商品としてエンディングノートや関連書籍を販売するようになりました。もちろん、既成のエンディングノートを使わなければいけないわけではありません。エンディングノートはあくまで自由なものですから、自分が気に入っているノートを使ったり、パソコンやスマートフォンで書いてもよいものです。

 高齢化社会が進み、いわゆる団塊の世代が老境に差し掛かりつつある現代、エンディングノートには大きな注目が集まっています。

 とはいえ、いざエンディングノートを書こうとしたときに、「何を書けばいいんだろう……?」と思ってしまう人も少なくないのではないでしょうか。そこでこの記事では、具体的にどのようなことを書けばいいのか、そして実際に書かれたエンディングノートとはどのようなものか、見ていきましょう。

意外と見落としがち、エンディングノートのポイント

 エンディングノートは、遺言書とは違って法的な効力を持つものではありません。しかし、非常にプライベートな性質を持つのは間違いありません。ですから、なかなか「他の人がどんなエンディングノートを書いているのか」を知ることはできません。

 もっとも手軽な「お手本」は、やはり実際のエンディングノートを見てみることです。市販のエンディングノートを実際に購入したり、市町村などが配布しているエンディングノートを入手して、試しに書いてみるのが一番です。

 ここでは、一般的なエンディングノートで書き漏らしがちなポイントをピックアップしてみましょう。

●プロフィールについて

 当然のことですが、自分のことは自分が一番よく知っています。いざエンディングノートのプロフィール欄に「自分の生まれた場所」「通った学校」などについて書け、と言われてもちょっと白々しいなあという気持ちになるのもわかります。

 しかし、そのエンディングノートを実際に読むのは誰なのかといえば、後に残った家族です。家族は、あなたの子供の頃についてどれくらい知っているでしょうか?ご自分の両親のこと、特に幼いころについてどれくらい知っているのかを考えると、そんな子供の頃のことでもしっかりと書き残しておく必要があることがわかるでしょう。

●葬儀について

 エンディングノートに書くこととしては定番ですが、意外と意識していないこと、抜けていることがあるのが葬儀についてです。

 例えば、「葬儀は簡素にしてほしい」と書いたとします。実際に葬儀を行う段になると、遺族としては「簡素って、どこからどこまでだろう……?」と迷ってしまうと思いませんか。そう考えると、エンディングノートの書き方としては「葬儀については、○○葬儀社に申し込みをしてある。細かいことは担当の○○さんにも話してあるが、××プランで想定する参列者数は40人、追加のオプションで祭壇の生花をつけた。合計金額は○○万円になるはずだが、もしオーバーしても積立金が○○万円あるからそこから出すように」など、とにかく具体的に書いておくと間違いがありません。

 また、葬儀関係で意外に抜けているのが宗教・宗派のことです。檀家になっているお寺があり、常日頃から付き合いがあるなら迷うこともありませんが、「家に仏壇があるから、お葬式は仏式でしよう」という程度だと、いざお葬式というときに「仏教といっても何宗ですか?」といわれてグッとと詰まってしまうことになります。浄土真宗の場合は、さらに細かく宗派が分かれますので注意が必要です。

 仏式のお葬式を考えているなら、早いうちにこのあたりに詳しい親戚や、お墓のあるお寺に相談しておくといいでしょう。

●散骨について

 エンディングノートにお墓について書く場合ですが、すでに霊園や納骨堂の手配をしてある場合はまったく問題ありません。困るのが、「散骨をしてほしい」という場合です。一般にイメージされる散骨は、実は意外に難しいのです。

 非常に厳密にいえば、火葬した後のお骨を撒くという行為は罪に問われる可能性があります。刑法には遺骨損壊罪、遺骨遺棄罪という罪が定められています。

刑法第109条 死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する

 お骨を砕いて粉にし、それを散骨すると、この条文に抵触するのではないか、といわれているのです。

 散骨する場所についても問題です。山や海ならどこでもいい、というわけではありません。たとえば平成6(1994)年には、東京都の水源地にあたる森林で散骨が行われ、住民の苦情を受けた地元市町村が東京都に散骨を行わないように求める要請書を提出したことがありました。北海道では、墓地としての許可を得ず、「公園」として樹木葬用に森林の土地を分譲したNPO法人があらわれ、地元の自治体が散骨を禁止する条例を作っています。

 散骨を希望している場合、樹木葬が可能な霊園を事前に購入しておくのが無難でしょう。

世界を変えたエンディングノート〜アルフレッド・ノーベル

 では、ここからは少し趣向を変えて、「著名人が残したエンディングノート」について見てみましょう。

 世界の歴史のなかで、最も大きな影響を残した「エンディングノート」は、アルフレッド・ノーベル(1833〜96)のものでしょう。ご存知、ノーベル賞を創設し、世界の科学技術の発展に大きく貢献した人物です。

アルフレッド・ノーベル
出典:wikipedia

 しかし、ノーベルが生前持たれていた印象は、今のそれとは180度違います。ノーベルが亡くなったことを伝える新聞には「死の商人、死す」と大見出しが打たれました。しかも、実際にその時亡くなったのはノーベルの兄だったため、ノーベル本人もその見出しを見たことになります。

 ノーベルは若い頃から化学の実験に没頭し、ある革命的な発明を成し遂げます。それが「ダイナマイト」です。それまで不安定で非常に扱いづらかったニトログリセリンを用いた爆薬を、簡単に持ち運ぶことができる形状にしたことで土木工事は飛躍的に進歩しました。自由な交通を妨げる山をくり抜いてトンネルを掘ったり、地面の奥深くを掘り進んで鉱石や石炭、石油を生む鉱山や油田の開発でも、ダイナマイトは活躍します。

 ダイナマイトは50カ国で特許を取得し、パナマ運河の開通など世界の歴史に残る一大事業に大きく貢献しました。ダイナマイトは、科学が世界を大きく切り拓いた19世紀を象徴する発明のひとつです。

 しかしその一方で、ダイナマイトを開発する過程の実験では数度の爆発事故も起こしています。このため数名の研究者と、ノーベル自身の弟も命を落としてしまいます。

 またダイナマイトは、土木工事という人類の未来を拓く「創造」だけではなく、「破壊」を目的とした戦争でも使われました。強固な城壁や要塞、鉄道や橋などを爆破する際に、ダイナマイトは非常に有効でした。ノーベルの没後に起こった第一次世界大戦では、連合軍とドイツ軍がお互いの陣地の地下にトンネルを掘り、ダイナマイトなどの爆薬で地面ごと相手を吹き飛ばす「坑道戦」が戦われました。

 そもそもノーベルは父の代から武器を扱って財産を築いていたことが知られていたため、晩年には「死の商人」と陰口を叩かれるようになっていたのです。

 ノーベルは、脳溢血のため63歳で世を去ります。生涯独身で子供のいなかったノーベルは、自身が築いた莫大な財産をどうするか、常に頭を悩ませていたといいます。実際、遺言書は何度も書き直されています。

 見つかった「エンディングノート」は、死の1年前に書かれたものでした。遺産のわずかを親族に分け与えると書いた上で、ノーベルはこう書き残します。

「私のすべての換金可能な財は、次の方法で処理されなくてはならない。

私の遺言執行者は安全な有価証券に投資し継続される基金を設立し、その毎年の利子について、前年に人類のために最大たる貢献をした人々に賞金として分配されるものとする。

 賞金は5等分し、物理学の分野で最も重要な発見または発明をした者、化学の分野で最も重要な発見または改善をした者、生理学または医学の分野で最も重要な発見をした者、文学で最も傑出した理想主義的傾向の作品を書いた者、諸国間の融和・常備軍の廃止もしくは削減・または和平会議の開催および推進に最も貢献せる者に、それぞれ与えること。
この賞は、候補者の国籍を問わず、最も賞すべき者に授与するのが自分の希望である。」

 ノーベル賞のうち物理学賞、化学賞、医学・生理学賞、文学賞、平和賞がこの「エンディングノート」をもとに創設されました(経済学賞は後にスウェーデン国立銀行の働きかけで創設)。ノーベル自身が関わっていた物理学、化学に加え、文学や平和など広い分野にも関心を寄せていたことがわかります。

 ノーベルの私生活は、発明家としての華やかな成功からは想像できない寂しいものでした。家族運には恵まれず、弟を自分の実験で亡くす。愛した女性とは縁なく結ばれず、逆に結婚詐欺めいた被害にあったこともあります。

 しかし、その彼が最後に遺した「エンディングノート」が、没後100年以上を経た現在に至るまで、世界の科学と技術の進歩に貢献し続けているのです。言い換えれば、ノーベルが味わった栄光や不幸よりも素晴らしいものを、世界は遺贈されたのかもしれません。

 あなたが記す「エンディングノート」も、後の誰かに大きな気づきや目覚めを与えるかもしれません。ノーベルのように全世界を変えるわけではなくても、誰かにとっての世界は変わるかもしれないのです。

生前葬を告げたエンディングノート〜元コマツ社長・安崎暁さん

小松製作所本社
出典元:wikipedia

 2017年11月。日本経済新聞に、「感謝の会開催のご案内」という告知が掲載されました。

 掲載主は、世界有数の建設機械メーカー・コマツの社長を務めた安崎暁さん。「感謝の会」とは、安崎さんが行う自らの生前葬のことだったのです。

 私こと安崎暁は10月上旬、体調不良となり入院検査の結果全く予期せざることに胆嚢ガンが見つかり、しかも胆道・肝臓・肺にも転移していて手術は不能との診断を受けました。

私は残された時間をQuality of Life優先にしたく、多少の延命効果はあるでしょうが、副作用に見舞われる可能性のある放射線や抗ガン剤による治療は受けないことにいたしました。

 1961年コマツに入社し、1985年取締役となり、1995年には社長に就任、会長を経て2005年取締役を退任いたしました。その間40余年、皆様方には公私ともに大変お世話になり、誠に有難うございました。

 また、引退後も余生を共に楽しく過ごさせて下さいました多くの方々にも大変感謝いたしております。

 つきましては、私がまだ元気なうちに皆様方に感謝の気持ちをお伝えしたく先の通りkジャン社の会を開催することにいたしました。

 ご都合のつく方々にご参加いただきお会い出来ましたら私の最大の喜びでございます。

 安崎さんはこのとき80歳。コマツだけでなく、日本建設機械工業会会長、国家公安委員会委員、東京徳島県人会会長などさまざまな要職につき、多くの人に慕われていました。

 2017年12月に行われた「感謝の会」には、安崎さんの友人や仕事関係者ら約1000人が集まり、車椅子に乗った安崎さんが一人ひとりに「ありがとうございました」と声をかけて回ったそうです。会場には趣味のゴルフや旅行を楽しむ安崎さんの写真が飾られ、和気あいあいとした雰囲気だったといいます。

 安崎さんは会の後に記者会見を開き、「人間の最終段階、『終活』は個人個人違うと思う。私は、一般論としてこういう会をやったわけではなく、自分の病状と80歳という年齢からで、これも私個人の好みだ」と話しました。最後には、「日本の社会が、老人から若い人のための社会へと変わっていけばいいと思う」と今後の日本社会へのエールも送りました。

 安崎さんは、翌2018年の5月に、療養していた自宅で亡くなりました。80歳という年齢とがんの進み具合を考えると、積極的な治療をしないという選択は理屈上は最適解です。しかし、誰もが選ぶことができる選択肢ではないでしょう。

 「感謝の会」の告知は、インターネット上でも大きな話題を呼びました。その告知自体が、安崎さんのエンディングノートだったといえるでしょうし、自分が元気なうちに「感謝の会」を開いて会いたい人に会って話をするというのは最良の終活のひとつだったといえるでしょう。

「人生の早期リタイア制度を利用します」〜流通ジャーナリスト・金子哲雄氏

僕の死に方〜エンディングダイアリー500日〜

 2012年に41歳の若さで亡くなった流通ジャーナリストの金子哲雄さんは、「完璧な終活」を実現した、として話題になりました。

 金子さんは「賢い買い物は人生を豊かにする」というキーワードでテレビ番組にも登場し、売れっ子としての階段を駆け上っていた金子さんを、突如として病魔が襲います。「肺カルチノイド」という非常に症例の少ない難病でした。

 医師から「いつ亡くなってももおかしくない」といわれた金子さんは最初は動揺しますが、一度危篤に陥ってからは「流通ジャーナリストとして、間違いのない葬儀をしたい」と考え直します。自分が入る棺桶から祭壇の花まですべてを考えて決め、プロデュースしたのです。

 そして、金子さんは「会葬礼状」を用意しました。これが、金子さんの最後の作品であり、エンディングノートとなったのです。

 このたびは、お忙しい中、私、金子哲雄の葬儀にご列席たまわり、ありがとうございました。今回、41歳で人生における早期リタイア制度を利用させていただいたことに対し、感謝申し上げると同時に、現在、お仕事などにて、お世話になっている関係者のみなさまに、ご迷惑おかけしましたこと、心よりおわび申し上げます。申し訳ございません。

 もちろん、早期リタイアしたからといって、ゆっくりと休むつもりは毛頭ございません!第二の現場では、全国どこでも、すぐに行くことができる「魔法のドア」があるとうかがっております。そこで、札幌、東京、名古屋、大阪、松山、福岡など、お世話になったみなさまがいらっしゃる地域におじゃまし、心あたたまるハッピーな話題、おトクなネタを探して、歩き回り、情報発信を継続したい所存です。

(中略)

 最後になりますが、本日、ご列席下さいました、みなさまのご健康とご多幸を心よりお祈りしております。41年間、お世話になり、ありがとうございました。

 急ぎ、書面にて御礼まで。

 葬儀から戒名、お墓までを自分の手で用意し、遺言状は公正証書遺言を作成。身辺整理も完全に済ませた金子さんの「エンディング」は、普通の人ではなかなか真似をすることができないものです。これには金子さん本人と、編集者でもある妻の稚子さんの協力があったからだといいます。稚子さんは金子さんの最後の著書『僕の死に方 エンディングダイアリー500日』(小学館)の制作に携わりながら、最後までサポートを続けました。

終わりに

 いかがだったでしょうか。

 エンディングノートのサンプルとしては、それぞれ立派過ぎる例を挙げたかもしれません。しかし、繰り返しになりますが「エンディングノートは、人それぞれ」。立派である必要もないし、肩肘張る必要もありません。

 ただ、ノートを書くあなたと後に残る家族たちのために、何かの役割を果たすことができればそれでいいのです。手探りでかまいませんから、はじめてみませんか。

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