「お茶でも飲みながら話しましょうか」気さくな雰囲気で、複雑な家庭状況を温かく受け止める
「普通の弁護士には向いていない」と話す野口先生。服装もできればスーツではなく、普段着で相談に乗りたいそう。また将来的には「カフェのような法律事務所を開業したい」という夢も語っていただきました。
今回は野口先生が力を入れている問題や、仕事のスタンスについて伺いました。
ひきこもり・高齢者・障害者・ジェンダーなどの、さまざまな社会問題解決に注力している。第二次夫婦別姓訴訟弁護団事務局長。日本に依然として残る家制度の影響を踏まえ「普通の家族」から外れた人に新たな道を提示したいと熱く語る。
みおつくし法律事務所
相続でもめる前に生前対策を
―先生が注力している分野について教えてください
ひきこもりの当事者を抱える親の遺言作成をした事例
私が力を入れているのは、ひきこもり問題です。『8050問題』ってご存じですか? 80代くらいの高齢の親が、50代くらいのひきこもりの当事者を支えている社会問題のことです。
ひきこもり問題が長期化したことにより、年金収入しかない高齢の親が当事者を支えているような状況が問題になっています。
私は、こうしたひきこもりの高齢化問題を解決する『一般社団法人OSDよりそいネットワーク』の顧問(間もなく副代表に就任する予定)をやっています。『OSD』というのは「親が・死んだら・どうしよう」の頭文字なんですね。臨床心理士・弁護士等の専門家が、ひきこもりの当事者を抱えるご家庭をさまざまな場面で支援しています。
ひきこもりというと、若い方がイメージされ易いかもしれませんが、実際は、若いころにひきこもってしまった方が、何十年もそのままの状態で生活を続けている。ひきこもりの当事者自身も、その両親も高齢化しているんです。
「親が・死んだら・どうしよう」と言うように、私たちはひきこもり当事者を抱えるご家庭の相続問題の支援も行っています。
以前複数のお子さんを持つ男性から、相続のご相談を受けたことがあります。そのご家庭では、ご長男がひきこもりで他の兄弟との仲が悪いので、遺産分割協議がうまくいくとは思えないとのことでした。
ひきこもりの当事者を抱えるご家庭は、兄弟仲が悪いケースが多いですね。また、ひきこもりの当事者を親がかばったりすることで、「なんでひきこもりの兄貴をかばうんだ」等と、他のご兄弟と親御さんとの間に軋轢が生まれていることもあります。
しかし遺産分割協議は、相続人同士で話し合いができることが大前提。その前提から外れたひきこもりご家庭のことは、想定されていないんです。遺産分割協議書を作成しようとしても、ひきこもり当事者を抱えるご家庭ではコミュニケーションが取れない。話し合いができる状態ではないんです。
それに仮に法定相続分通りに遺産分割をするとしても「どうして今まで世話になってばかりの兄貴に、そんなに遺産を渡さなければいけないんだ」等と、他のご兄弟から不満が出るケースもあります。相続時のトラブルを避けるために、ひきこもりの当事者を抱える親御さんには、事前の遺言作成を強く勧めています。
有効に作成された遺言があれば、遺産分割協議が必要なくなるので、円滑に相続が進められますからね。
しかし、遺言作成に腰が重い方が多いのが事実。遺言を作るときにはどんな内容にするか予め家族内で話し合った上で作成することが望ましいのですが、それがひきこもり当事者を抱えるご家庭では難しい。多くの場合、すでに家族関係が断絶している状況ですので、コミュニケーションが取れないんです。
だから私は特に、遺言作成前の家族関係の修復に力を入れています。
争いが嫌いだから、紛争はタネの時点で収めたい
―先生は紛争を未然に防ぐ活動をされているんですね。
そうなんです。私は争いが嫌いなんですよ(笑)普通の弁護士には向いてない人間だと思います。なので、できればもめごとは事前に収めたいんです。
弁護士になってから、「なんで、争いが起こるのを事務所で待っているんだろう」と思うことがよくありました。現場に行けば争いのタネがたくさんあって、弁護士はそれを収められる力がある。「事務所で待っているんじゃなくて、自分から現場に行けばいいじゃないか」と思います。
話を聞いていると「これは今後もめるな」と予測できるものは多いんです。そういう場合は「事前に遺言書を作っておけば、トラブル予防につながりますよ」といったアドバイスができます。私自身が紛争にが嫌いなので、争いをタネの時点で鎮めることに力を注いでいます。
気兼ねなく話ができる弁護士を目指す
―相談を受ける際に心掛けていることはありますか?
極力スーツを着ないことですね。相談者に「弁護士さんと話をするんだ」と構えさせたくないからです。私自身、堅苦しいのが嫌いですし、できれば普段着で話をしたいと思っています。
法律事務所という舞台装置も、それだけで緊張してしまうのでイマイチだと思っています。「ファミレスか公園で話しましょうか」くらいの感じで良いのではないかと思っています(笑)どうしても時間の制約はありますが、相談者さんに事務所に来てもらうだけでなくて、「私の方から行きましょうか」と言うこともありますね。
あとは相談者の話をよく聞くようにしています。相談者が私に話をしながらご自身で頭や気持ちの整理をして頂けるのがベストなので、それに資するような質問を敢えて投げかけたりしてます。私に話をしているうちに、問題の所在にご自身で気が付いて下さるですね。その段階で、その点を解決するご提案を差し上げると、うまくいくことが多いですね。
すぐに頼れる「かかりつけ弁護士」の普及に努める
―関東弁護士会連合会の高齢者・障がい者に関する委員会の、副委員長兼ホームロイヤー部会長をされていると伺いました。ホームロイヤーとは何でしょうか?
ホームドクターの弁護士版です。かかりつけ医ならぬ、かかりつけ弁護士ですね。弁護士には紛争が起こってから介入するイメージがあると思います。だから「できれば弁護士には一生関わりたくない」「弁護士に依頼するような、面倒な状況になりたくない」と思っている方も多いんじゃないでしょうか。
例えて言えば、今は弁護士が大手術を行う外科医のように認識されている状態だと思います。それを健康診断や簡単な投薬を行うかかりつけ医のように身近な存在にするために、ホームロイヤーの普及活動をしています。
相続に関しても、遺言作成などなるべく生前の対策ができるように支援しています。相続が発生した後の相続放棄のご相談も多く受けています。「もめごとに関わりたくないから」という理由で相続放棄を希望される方もけっこう多いんですよ。
第一印象が大切。相性が合う弁護士をみつけてほしい
―最後に、弁護士選びのアドバイスをいただけますか?
まずはご自身がどうしたいかですね。徹底的に争いたいのか、あまり争わずに話し合いで解決したいのか。
その上で弁護士のホームページの顔写真を見てみて頂ければと思います。もちろん例外もありますけど、やわらかく事態を収めるのが得意な先生は、だいたい写真もやわらかい雰囲気です。ズバッと紛争を解決するのが得意な先生は、だいたいシャキっとしてますね。私のホームページの写真は、にやけちゃっていますけど…(笑)
それと何人かの弁護士に相談してみるのも全然ありだと思います。お医者さんにもセカンドオピニオンがあるじゃないですか。私を含めて初回相談無料にしている弁護士もたくさんいますから、何人かの弁護士に相談した上で相性が合いそうな先生に依頼するのが良いと思います。
弁護士は世の中にたくさんいますが、私は一人ひとり違う職業だと考えています。「弁護士」と一括りに呼ばれていますけれども、扱う分野も仕事の姿勢も全く違いますから。だから同じ案件でも、弁護士によって結果が変わることも往々にしてありますね。
弁護士との相性はとても大事だと思います。弁護士選びは慎重にしていただきたいです。
―大変参考になりました。ありがとうございました
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