金融機関(都市銀行やゆうちょ銀行、信用金庫など)の相続手続きについて【行政書士執筆】
財産調査を行う際や遺言書または遺産分割協議書の内容を反映させる際には金融機関での手続きが必要になります。金融機関には都市銀行やゆうちょ銀行、信用金庫など様々な手続き先が存在し、それぞれで異なる方式を採用していることも多いのです。
この記事では金融機関での相続手続について、特にゆうちょ銀行に重点を置いてその手続きについて解説します。メガバンクについての手続きはこちらの記事をご覧ください。
金融機関への連絡
ここで解説する金融機関への連絡についてはメガバンクや信用金庫などと同じ手続きになります。相続が発生した場合には、金融機関への連絡が必要になります。しかし、他の相続手続きとの兼ね合いでタイミングを誤ってしまうと手続きがスムーズに進めないことがありますので注意が必要です。
金融機関の連絡先
お亡くなりになられた方が銀行口座をお持ちであれば、名義変更や解約の手続きが必要になります。先ずは取り引き先の金融機関に死亡の連絡を入れ、口座を凍結するところから始まります。お手元に通帳やカードとお亡くなりになられた方の戸籍などを用意してから連絡を入れましょう。
店頭に直接訪問し伝えることもできますが、金融機関により多少進め方も変わってくるので、先ずはお電話で一報を入れた方がスムーズかもしれません。また、メガバンクなどは、「相続センター」や「相続オフィス」などの名称で専門の部署を置いているところがほとんどです。
金融機関への連絡前に注意をすること
できる限りスムーズに金融機関に本人死亡の連絡を入れることは、先々の遺産分割において争いごとの可能性を低くするためにはとても重要なことです。
しかし、ここではその前に少しだけ注意してくださいねということを挙げておきます。
- 対象口座から電気・ガス・水道などの公共料金や税金関係の引き落としがある。
- 自営業者などで経費、債務の毎月の引き落とし(支払い)がある
など
金融機関へ死亡の連絡を入れると、その場で口座が凍結されてしまいます。
故人の通帳内容を確認し、上記のような確認がとれれば、早めに口座変更などの手続きを進めるようにしましょう。
もう一つ、金融機関への連絡前にしておいた方が良いことがあります。
それは「記帳」です。
口座が凍結されると、当然ながらATMでの記帳もできません。記帳=お金の流れを知ることは相続手続きを行う上でとても重要です。
仮に相続税が発生する資産をお持ちの方がお亡くなりになると、一般的には税理士さんに依頼をする方が多いと思います。そうなると税理士さんは、最低過去5年分のお金の動きを全て調べることになります。その際に記帳がされていなかったり、あるいは未記帳の件数が多く、金額だけの「合計記帳」でお金の動きの詳細が分からないとなると「取引明細書」を金融機関から発行してもらう必要が出てきます。この費用も金融機関によって様々ですが数万円かかるケースも多く、出費がかさんでしまいます。
故人様のお金の動きや今後の手続きをスムーズに進めるためにも、普段から「記帳」を意識しましょう。
余談ですが、繰り越し済み通帳はみなさんどうされていますでしょうか?
上記にご説明した通り、相続税が発生するケースでは過去5年~7年のお金の動きを調べる必要があります。1冊の通帳で5年分の記帳があればよいのですが、そうでない場合は最低でも5年分の記載がある繰り越し済み通帳は保管しておいた方が良いでしょう。
口座は勝手に凍結される?
私が相続関係のセミナーでお話をさせて頂く際に多くご質問を頂くのがこちらです。
結論から申し上げますと、よほどのことがない限り勝手に金融機関が亡くなられた方の口座を凍結することはありません。
「死亡届を役所に提出すると自動的に金融機関へ連絡がいき口座が凍結される」という都市伝説的なものを聞くことがありますが、常識的に考えればこれはあり得ません。金融機関は民間の法人ですし、公的機関である役所が勝手に個人情報を民間の会社へ流すようなことはあり得ないのです。
金融機関の口座を凍結は、相続人様からのご連絡など、間違いなく口座をお持ちの方が死亡したことが分かるまで行われないのです。
「そんなこと言っても、以前、金融機関に届出する前に凍結されたことがあるよ!」という方もいらっしゃるかもしれません。
確かに一昔前はこんなこともあり得たのです。少し前の時代は、人がお亡くなりになると、町内会の掲示板や新聞などに訃報が載りました。そしてこれにはお亡くなりになられた方のお名前と住所、死亡日などが詳細に記載されていたため、誰が亡くなったかだれの目でも明らかでした。そして、葬儀もご近所の方のお手伝いを頂きながらご自宅で行われることが多く、家の前を通ればすぐに状況が分かる時代がありました。
このようなことから、金融機関の方が実際に「死亡」を知ることもあり、そのため口座が凍結されたということが多くあったのです。
現在は町内会の掲示板や新聞の訃報なども個人情報法保護の観点から、住所についても「○○町」までの記載でとどめ、地番を最後まで載せることはしません。
そのため、金融機関もよほどのことがない限り「死亡」を確実に知ることができないのです。
私が受任した案件でも、昭和53年にお亡くなりになれた方の口座が現在も動いており、解約の手続きを行ったことがありました。この方は明治33年生まれでしたので、もし本当にご存命であれば、120歳前後でしょうか。もちろん世界最高齢です。
この様に、金融機関は「確実」に「死亡」したことが分からない限り口座を勝手に凍結させることはないのです。
残高証明書の発行
通帳が見つかり、銀行に連絡をすることができたら相続手続きが始まります。被相続人の相続財産である預貯金の正確な額を把握するためにも残高証明書を発行しましょう。
残高証明書の発行依頼
金融機関へ本人死亡の連絡を入れ、口座が凍結されたあとの最初の手続きとなるのが「残高証明書」の発行依頼です。
相続人がお一人で、おおよその預貯金額もご存じで、相続財産も相続税が発生しない程度であればあえて取得する必要はありません。
しかしながら、相続人が複数いる場合は財産額の証明になりますし、相続税が発生する遺産額であれば取得は必須となります。
「残高証明書」とは、故人の死亡日現在、対象となる口座に預貯金がいくらあったのかを証明するものです。
※ あくまでも死亡日現在の残高が証明されるため、葬儀費用などを想定し事前に口座よりお金をおろした場合などは個人様の資産額が変わってきます。通帳記帳と併せて確認をする必要があります。
ゆうちょ銀行の残高証明書について
みなさまご存知の通り、ゆうちょ銀行に関しては現在は民間会社ではありますが、その成り立ちから他の金融機関と手続きが異なることが多くあります。
分かりやすいのが窓口が開いている時間ではないでしょうか。
通常、金融機関の窓口は15時までと認識されている方は多いと思いますが、ゆうちょ銀行の窓口は16時まで開いています。1時間でも長く開いているというのはとてもありがたいですね。
他の金融機関との違いとしては残高証明書の発行に関してもその一つで、これは「貯金等照会書」というものを窓口に提出することで約1週間から10日ほどで取得が可能です。
ここで注意点が一つ。
一般的な金融機関では、故人様の口座の特定はお名前・生年月日などから検索が可能ですが、ゆうちょ銀行の場合は、口座を作成した際の住所と紐づいているのため、申請用紙には口座開設当時住んでいた住所を記入する必要があります。
故人様が引っ越しを複数回されていた方であれば、できる限り過去の住所を確認してから書類を作成するようにしましょう。
余談ですが、メガバンクに比べ残高証明書の発行手数料は低く設定されています。
法定相続情報証明制度の活用
相続が発生し各金融機関で手続きを進める際に必ず必要になるのが、故人様の出生から死亡までの戸籍関係書類です。
故人様の転籍が多く、相続人も複数いるとそれだけ集める書類は多くなります。
金融機関で手続きをする際には、この戸籍の束を提出する必要があります。
そしてこの戸籍の束を金融機関では1枚1枚コピーを取ります。
状況にもよりますが、戸籍を全て揃えると数十枚になることも珍しくなくありません。
私の経験上、この作業による待ち時間は平均30分から1時間にもなります。法定相続情報証明書を作成することにより、この戸籍の束が1枚に纏まり、当然金融機関のコピーも1枚で済むことから手続きの時間が大幅に短縮されることになります。
この作業は銀行だけではなく、不動産登記での法務局や株の手続きでの証券会社など多くの手続きで発生するものとなりますので、少しでも手続きの時間短縮を図りたいという方は戸籍収集後すぐに法定相続譲歩証明書の作成をした方が良いでしょう。
ただし、法定相続情報証明の申請については相続人もしくは法で定められた士業の方に限ります。作成についても決まりごとが多くあるので、スムーズな作成を考えるのであれば行政書士などの専門家にお願いをした方が無難かとしれません。
また、相続関係人全員の戸籍収集が必要となるため、戸籍収集から法定相続情報取得までを一括して行政書士などの専門家にお願いすると、相続人様が平日に多くの時間を掛けて対応する必要もなく、会社勤めの方がわざわざ有休を取り対応する必要もなくなるため専門家に依頼することはご自身の時間を有効活用できることに繋がります。
法定相続情報の取得については、法務局に申請後約1週間前後で郵送もしくは直接法務局窓口で受け取ることができます。
相続届の提出について~ゆうちょ銀行編~
ゆうちょ銀行の相続手続きは、全国12か所にある「貯金事務センター」というところが担当します。関東では埼玉県にある事務センターが担当になっています。
ゆうちょ銀行については、残高証明書取得手続きからもわかるように他行との違いがあります。
準備するものについては概ねメガバンクと変わりませんが、大きな違いは預貯金の受け取り方法です。ゆうちょ銀行口座解約の際の預貯金受け取りについては3つの方法があります。
① 相続人(受取人)様のゆうちょ銀行口座への振り込み
② 現金で受け取り
③ 名義書き換え
ここでお気づきの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は、ゆうちょ銀行の口座を解約する際、その預貯金の振り込みはゆうちょ銀行以外の金融機関口座への直接の振り込みができず、ゆうちょ銀行口座間でしか振り込みができない仕組みとなっているのです。
ゆうちょ銀行の口座は非公表ですが、1億2,000万口座ともいわれています。とはいえ、当然、ゆうちょ銀行に口座を持っていない方もいますし、持っていたとしてもメインの口座としては使用しておらず、振り込みは他行にしたいという方も当然多くいらっしゃいます。この点は本当に「不便」の一言ですね。
では、ゆうちょ銀行以外で受け取りたい方はどうするのか。
②で記載したように現金で受け取ることができます。とはいえ、ここでもひと手間掛かるのがゆうちょ銀行。
相続届が無事に受理され手続きが完了すると、郵送で手続完了通知とともに「払戻証書」と呼ばれるものが送られてきます。これは小為替のようなもので表面に受取人の住所とお名前を記入・押印し、ゆうちょ銀行の窓口に持参することで受け取ることができます。
しかし、受け取りは当然「現金」です。この証書を持参したからと言って希望する他行への振り込みはできないのです。他行へ入金したい場合は、ご自身で現金入金をするか、一度ご自身のゆうちょ銀行口座へ入金をした後に他行へ振り込みをするしかないのです。
ここが正に他の金融機関と大きく違う点ではないでしょうか。
また、現金で受け取る場合には、その金額にも注意が必要です。
例えば、少額であれば直接希望する支店に訪問しその場で受け取りも可能ですが、その金額が数百万~数千万円となると当然支店に現金の用意が無いということも多くあります。
大きな額を現金で受け取る際には、あらかじめ訪問予定の郵便局へ連絡をし、現金を用意してもらうようにしましょう。
最後の方法として、③の名義書き換えがあります。実務ではあまり多くはありませんが、故人様の預貯金の金利をそのまま継続できるケースがあるため、当時の金利で高い状態で付与されている場合にはそのまま名義書き換えを行い口座においておくというのも一つの方法です。
手続きをされる際には金利も確認するようにしてはいかがでしょうか。
手続きは自分でやりますか??
よくあるご相談で、「手続きは自分でやるべきか、誰かにお願いした方が良いのか?」ということを聞かれます。
あくまでも個人的な見解ですが、私は「専門の方にお願いをした方が良いです。」と即答します。
1人の方が相続手続きを経験する回数は一生のうちどのくらいでしょうか?
多くてもご両親の2回、兄姉がいらっしゃる方だと一度も経験したことがないという方も多いのではないでしょうか。
この様に一生のうちに数回しか経験をすることのない、あるいは今まで一度も経験したことがない方にとって、相続の手続きは未知の世界であり、とても大変だからです。
また、手続きをされる方は会社勤めの方も多く、金融機関の窓口が開いている平日の昼間に手続きの為に何度も訪問をすることが難しいこともあります。一般的にはどの会社も親が亡くなったときの忌引き規定では1週間前後であり、この1週間ではとてもではありませんがすべての手続きは終了することはなく、それ以降は有休消化をしながらの対応を余儀なくされます。
更に、最近は超高齢化社会であることから相続人様が60代以上ということも多くあります。
そのため外出が困難であったり、あるいは郵送やパソコンなどでの手続きが苦手ということも考えられます。
そしてなにより、相続の手続きは親子や兄弟姉妹など、故人様ととても近い関係性を持った方が行うことが一般的であり、故人様のご逝去に一番旨を痛めている方でもあります。
本来であれば葬儀から四十九日、一周忌などのご供養を最優先に考え、故人様を偲ぶ時間を大切にするべきと私は考えます。
ところが実際はというと膨大な数の初めての手続きに追われ、故人様を偲ぶ時間もなく気が付けば早1年経過ということも珍しくないのです。
このような理由から、相続の手続きは行政書士などの専門の方に依頼をした方が良いと考えます。
もちろん費用が発生するデメリットはありますが、ご自身の時間を有効的に使うことができ、ご供養を最優先に故人様を偲び、さらには自分では気が付かなかったより高度な手続きについても漏れなく対応してもらえることを考えれば、手続きの専門家に依頼をするというのは選択して十分ありではないかと思います。
まとめ
ここまで解説してきたように、銀行での手続きはほかの金融機関と比べ特徴があります。また、手続きに訪問する回数は最低でも2~3回となり、書類に不備があればそれだけ回数は増えます。
また、1回の訪問で要する時間は待ち時間も入れると、1時間から1時間半ぐらいはかかることが多いです。
手続きをされる方が会社勤めの場合はなかなか平日に時間をとるのは大変かと思います。
なかなか時間が取れないという方は、行政書士などで手続きを専門にされている方にお願いをしてはいかがでしょうか。
▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きを依頼した方のインタビューはこちら
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