土地を相続放棄するかどうかを判断するためのポイントと手続きの流れ
本記事は、いい相続の姉妹サイト「遺産相続弁護士ガイド」で2019年4月17日に公開された記事を再編集したものです。
相続する財産は、必ずしも、相続人にとって喜ばしいものばかりではありません。喜ばしくない遺産の一つに、土地が挙げられます。
土地を所有すると、維持管理費や固定資産税がかかります。
これらの費用を上回る使い道や価値があればよいのですが、必ずしもそうとは限りません。
遺産を相続したくない場合は、相続放棄すれば、相続しなくて済みます。
この記事では、遺産に土地が含まれている場合に相続放棄をすべきかどうか判断するためのポイントと、相続放棄する場合の手続きの流れについて説明します。
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土地を相続放棄することはできる?
「土地を相続放棄することはできるか」という質問を受けることがあります。
この問いに対する答えは「はい、できます」となりますが、土地「だけ」を相続放棄することはできません。
相続放棄とは、相続人が被相続人(亡くなった人)の権利や義務を一切承継しない選択をすることをいいます。
したがって、土地だけ相続放棄をするということはできず、すべて相続するか、まったく相続しないかを選択しなければならないのです。
なお、土地は相続したくないが他の遺産は相続したいという場合は、希望する遺産を相続できるように、他の相続人との遺産分割協議において交渉することによって、実現できる可能性があります。
しかし、価値のなく費用ばかりかかるような土地を他の相続人が相続したがる可能性は低く、希望通りの遺産分割を実現することは難しいでしょう。
また、相続しておいて、後から土地だけ手放すことはできれば、土地以外の遺産を所得しつつ、土地の維持管理から解放されることができます。
この点については、買い手がつくような土地であれば、後からでも手放すことが可能ですが、買い手がつかない土地を手放すことは難しいでしょう。
選択肢としては、誰かに寄付することぐらいしかありませんが、使い道がなく買い手もつかない土地は、只でももらってくれる人とかは中々見つからないでしょう。
寄付の受け入れ先として可能性がありそうな先としては、次のようなところが考えられます。
- 自治体
- 隣地の所有者
- 公益法人
- 自治会、町内会
しかし、寄付を受け入れてもらえる可能性はあまり高くないので、実質的に相続放棄が手放す最後のチャンスと言っても過言ではないでしょう。
土地を含む遺産を相続放棄すべきかどうか判断するためのポイント
それでは、相続したくない土地を含む遺産を相続放棄すべきかどうか判断するためのポイントについて説明します。
通常、相続放棄は、プラスの財産の価額よりも借金等のマイナスの財産の価額の方が大きい場合に利用されます。
そのような場合に相続すると、相続人が損してしまうからです。
同様に、土地以外に特に財産がなく、しかも、その土地が使い道も価値もないという場合に相続すると、土地の維持管理費や固定資産税を延々と負担し続けなければならなくなり、相続人が損してしまいます。
このような場合もまた、相続放棄した方が得であるといえるでしょう。
つまり、土地も使い道や価値がない場合は、負債と同様に考えて、遺産のプラスの財産と天秤にかけて、プラスが大きければ相続し、マイナスが大きければ相続放棄をするという判断をするのがよいでしょう。
土地に買い手がつきそうな場合は、「土地を含めた遺産の価値」から「土地の売却にかかる費用」を差し引いて、プラスになるかマイナスになるかによって、相続するか放棄するかを決めるとよいでしょう。
土地に買い手が付きそうかどうかや、土地の売却にかかる費用については、その土地の辺りの不動産事情に精通した不動産屋さんに相談するとよいでしょう。
土地に買い手がつかなさそうな場合は、「遺産の価値」から「土地の維持管理にかかる手間や費用、固定資産税」を差し引いて、プラスになるかマイナスになるかによって、相続するか放棄するかを決めるとよいでしょう。
固定資産税額は、課税明細に記載されています。
土地の維持管理費用については、土地の管理を代行してくれる不動産管理業者に相談してみるとよいでしょう。
また、厳密いうと、相続放棄をするにも費用がかかりますので、その分も加味して損得を計算する必要があります。
相続放棄にかかる費用については「相続放棄費用|弁護士/司法書士の代行費用の相場と自分で手続する費用」をご参照ください。
また、全員で相続放棄をする場合は、相続財産管理人を選任するまでは土地の管理義務から解放されないので、相続財産管理人の選任費用も加味する必要があります。
相続財産管理人の選任にかかる費用は、申立て費用と、相続財産管理人への報酬があります。
申立て費用は、数千円程度のもので、内訳は以下のとおりです。
- 収入印紙800円
- 切手代(裁判所からの連絡用。裁判所によって異なりますが1000円前後のことが多いようです。)
- 官報公告料4230円
相続財産管理人への報酬は、親族が相続財産管理人になる場合は不要ですが、相続財産管理人になった親族は、土地の帰属が決まるまでは、土地の管理を継続しなければなりません(相続財産管理人選任後の流れについては後述します)。
相続財産管理人に弁護士や司法書士が選任される場合は、管理の手間や難易度に応じて月額1万円から5万円ぐらいの報酬が、裁判所によって決められます。
報酬は相続財産から支払われますが、十分な財産がない場合は、申立人が予納金を納めなければなりません。
予納金の金額は、家庭裁判所や事案によって異なりますが、数十万円〜150万円ぐらいです。
相続放棄すると土地は誰の物になる?
相続には相続順位があります。
相続順位とは、相続人となることができる優先順位のことです。
誰が相続人となるかは、民法に定められていて、この定めに従って相続人となる人のことを法定相続人といいます。
法定相続人は、配偶者と血族相続人に分けられますが、配偶者は相続順位の枠外の存在であり、被相続人が亡くなった時に配偶者が存在していれば必ず相続人となることができます。
血族相続人には下表の通り優先順位があり、先順位の血族相続人が存在しない場合や全員相続放棄をした場合は、次順位の血族相続人が相続人になります。
相続順位 | 被相続人との関係 | 代襲相続 |
---|---|---|
第一順位 | 子 | あり(再代襲もあり) |
第ニ順位 | 直系尊属(最も親等の近い者) | − |
第三順位 | 兄弟姉妹 | あり(再代襲はなし) |
直系尊属とは父母や祖父母のことです。
相続順位について詳しくは「相続順位のルールを図や表を用いて弁護士が詳しく分かりやすく解説!」をご参照ください。
なお、相続放棄をしても、すぐに土地の管理義務から解放されるわけでありません。
民法940条には「相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」と定められています。
次順位の相続人が管理を始めることができるまでは、その財産の管理を継続しなければならないのです。
そして、相続人全員が相続放棄をした場合は、前述のとおり、申立てに応じて相続財産管理人が選任され、相続財産管理人が相続財産の管理を始めたら、相続人による相続財産の管理義務がなくなります。
第三順位の相続人まで含めて全員が相続放棄をする等して相続人が誰もいなくなると、次の優先順で遺産を取得する権利が巡ります。
- 債権者
- 受遺者(遺言によって財産をもらい受ける人)
- 特別縁故者
- 遺産の共有者 ※共有している遺産のみ対象
- 国
特別縁故者とは、次のいずれかに当てはまる人のことをいいます。
- 被相続人と生計を同じくしていた者
- 被相続人の療養看護に努めた者
- その他被相続人と特別の縁故があった者
特別縁故者について詳しくは「特別縁故者として財産分与を受けるために絶対に知っておくべき9のこと」をご参照ください。
なお、相続人全員が相続放棄をした場合の手続きの流れは、次のように進められます(なお、元から相続人がいない場合も同様です)。
- 利害関係人等が家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てます。
- 家庭裁判所が必要があると判断したときは相続財産管理人が選任されます。
- 家庭裁判所が相続財産管理人が選任されたことを知らせるために公告を行います。
- 2か月後、相続財産管理人が相続債権者と受遺者に対して請求を申し出るべき旨を2か月以上の期間を定めて官報に公告します。
- さらに上記の公告期間経過後、家庭裁判所は、財産管理人の申立てによって、相続人を探すために、6か月以上の期間を定めて公告を行います。
- 期間満了までに相続人が現れなければ、相続人がいないことが確定します。 ※通常は、申立て前に既に相続人調査を行い、相続人がいないことを確認したうえで、申立てを行っているでしょうから、この期間に相続人が現れることは、ほとんどありません。
- 特別縁故者がいる場合は、特別縁故者は、相続人を探すための公告期間満了後3か月以内に、財産分与の申立てを行います。
- 必要に応じて、相続財産管理人は、家庭裁判所の許可を得て、相続財産を換価します。
- 相続財産管理人は、債権者や受遺者への支払いをしたり、特別縁故者に相続財産を分与するための手続きを行います。
- 財産が残った場合は、残余財産を国庫に返納します。
土地を含む遺産を相続放棄する場合の手続きの流れ
相続放棄手続きの流れは、概ね次のようになっています。
- 必要書類を用意する
- 相続放棄の申述(手続き)をする
- 照会書に記入して、返信する
- 相続放棄受理通知書を受領する
詳しくは、「相続放棄手続きを自分で簡単に済ませて費用を節約するための全知識」をご参照ください。
まとめ
以上、土地の相続放棄について説明しました。相続放棄について詳しくは、専門家に相談するとよいでしょう。
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