遺言作成を次のステップに進むきっかけに。「人生の総清算を行うお手伝いをしたい」
「弁護士はたくさんの人生の話を聞ける仕事」と話す、大原 義隆先生。お話の端々からご依頼者やそのご家族に対する、愛情や思いやりを感じられました。
今回は、実際に対応された遺言書作成のエピソードや、相続対策についての思いを伺いました。
2016年に弁護士登録後、企業法務系事務所、相続・不動産系事務所など異なる分野を専門にする弁護士事務所に所属。2021年7月に独立し、林間国際法律事務所を開業する。弁護士業務と並行して、得意の中国語を生かして得意の中国語を生かして日本・中華圏間のビジネスコンサルティングも行っている。
林間国際法律事務所
相続・不動産・企業法務に注力する
―今年(2021年)7月に林間国際法律事務所を開業したと伺いました。それまではどんな案件を対応されていましたか?
はじめは企業法務をメインとしている都内の法律事務所に所属していました。弁護士が40名くらいいる事務所だったので、企業の合併買収など規模の大きい案件にも携わっていました。
その後、横浜市の相続・不動産をメインで扱う事務所に入所しました。相続分野に深く関わる税理士や、ご年配の方が多く所属されている組合などの顧問をしていた事務所でしたので、いろんな相続案件を経験できましたね。
新しいこの事務所では相続・不動産・企業法務の3つを軸として、やっていきたいなと思っています。
被相続人の預貯金の使い込みを証明した事例
―先生がこれまで解決された事例を伺えますか?
被相続人の財産を、依頼者さんのご兄弟(相手方)が使い込んだことを証明した事例がありました。その事例は、 被相続人が亡くなってご兄弟と遺産分割をすることになり、被相続人と同居していたご兄弟から提示された遺産分割案とまとめてきた資料を見ることになった際、資料を見た瞬間「思っていたよりも遺産が少ない。親はもっと裕福だったはず」と思ったことが事の発端となったそうです。
不審に思いご兄弟の使い込みを疑われた依頼者さんは、ご自身で資料収集を試みられたようでした。労力的にも精神的にも大きな負担が生じているにも関わらず、手続きの煩雑さにより生じる問題などから上手く事態を打開できず、お一人では資料収集が難しい状況となっていました。
資料収集は手続きが煩雑で、慣れやコツが多分に必要になることから、依頼者さんが苦労されたのもやむを得ないと思います。
そのような経緯からご依頼を受けることになりました。まず依頼者さんが頓挫していた資料収集を引き継いで、手続きの問題を解決しながら使い込みを証明するのに有用な証拠の収集を目指しました。
いろいろな資料を取り寄せてみると、やっぱり相手方がまとめてきた資料より財産が多い。相手方から知らされてなかった株式や投資信託がちょこちょこ出てきたんですね。それを相手方は「あ、忘れてた」みたいな感じで言っていましたけど…。
また、相手方であるご兄弟からは遺産の一覧表の提示を受けており、現金の欄には口座番号や預貯金額が記載されていました。しかし通帳を見せてほしいというと、「無くした」と言って出してくれなかったんですよ。何か怪しい気がしますよね。
そこで取引履歴を銀行に照会しました。履歴を見ると、やっぱりこの1~2年でお金が急激に引き出されているんです。しかし当時は被相続人が引き出せるはずがない状況でした。
亡くなる直前、被相続人は病院などに入退院を繰り返していまして。病院に確認すると外出できる状況じゃなかったそうです。相手方は医療費を支払うために、「親の許可のもと引き出して病院に支払った」などと言っていましたが、調査を進めると出金額に比して医療費はかかっていなかったり、支払い方法が違ったり…。いろいろとボロが出てきたんです。
そんなことを繰り返して、最終的に相手方は、私たちが集めてきた証拠に観念したのか、ようやく使い込みを認めました。
結果、はじめは約100万円と評価されていた口座が、約500万円の評価に増え、また遺産総額も約300万円の評価から、約1000万円に増えました。口座に関しては、使い込まれる前の金額に戻ったということですね。
最終的には発見した株や投資信託を上乗せ、使い込まれた預貯金額を(計算上)戻すなど、大元の遺産を増やしたりしてから、改めて遺産分割協議を行いました。
結果はじめに相手方から提示されていた金額より、かなり大きい額をご依頼者さんのお手元に残すことができました。
任意後見で将来の不安を解消し、遺言書で人生の振り返りを行う
―先生は遺言作成に注力されていると伺いました。どのような方が相談にいらっしゃいますか?
5年・10年後を見据えて、任意後見契約と遺言作成を行う
「将来が不安」とおっしゃる方が多く相談にいらっしゃいますね。
具体的には「今は元気だけど、5年後・10年後に認知能力が落ちたらどうなるか心配。周りに迷惑かけるようなことはしたくない。」「年齢的にも、この先いつ何時どうなるかわからないが、自分が死んだときにどうなるかも不安だ。自分が死ぬことで遺した者達に迷惑をかけたくはない。また、自分が原因となって家族の仲を悪くするようなことにはなってほしくない」などおっしゃる方が多いです。
そういう方に任意後見と遺言作成をセットでご提案したことがあります。その方は相談にいらしたときは、認知能力がはっきりされていましたから、まずは財産管理契約を行いました。預貯金の管理等の単純な財産管理を委任する契約です。判断能力は健在であるものの、煩雑な財産管理を負担に感じる場合や、身体の不調などで外出が困難な場合などにおすすめしています。受任者は同居している息子さんにしました。
その後、もし依頼者さんの認知機能に問題が出てきた場合には、任意後見契約に移行して法的な権利も息子さんに与えるという内容にしました。
今はお元気ですから、ご依頼者さんの能力に制限がかかることはありませんが、もし認知症などになった場合は息子さんに法的権利が付与されます。なのでご依頼者さんが心配されていたように、ご家族に迷惑をかけるという心配もなくなります。
認知機能が落ちて「賃貸の家賃が払えなくなって、債権者に迷惑かけるのが怖い」ともご依頼者さんはおっしゃってました。そういった手続きも息子さんができるようになりますから、お喜びいただけたかなと思います。
そうして相談を受けているうちに依頼者さんから「終活をしたい」というご希望が出まして。「今までの人生の振り返りと、ご家族に伝えたいことをまとめてみましょう」という話になって遺言作成することになりました。
公正証書遺言を作る際にいろいろなお話を聞くんですが、弁護士が入ることで良い意味で非日常感が出るんです。素直な気持ちを吐き出していただけることが多いと思います。
その方はご家族が同席して遺言作成をしました。ご家族とアルバムをめくるように「こんなこともあったね」と話しながら、普段はお互い口にできない感謝を確認するとても良い場だったなと思います。それでとても記憶に残っていますね。
遺言作成が日頃のことを見直して、将来のプランを練る機会になったかなと思います。
相続の事前対策をやりたいと思って弁護士になったので、こういったご依頼に関われて良かったと思います。
弁護士はいろんな人生に首をつっこめる職業
―どうして相続の事前対策をしたいと思ったんでしょうか?
たくさんの人生に首をつっこみたいと思ったからです(笑)
相続対策ってその方の人生の集大成だと思うんです。一生の総清算ですよね。遺言作成のときに一生を振り返って、お子さんに「お父さん・お母さんはこういう人生を送ったんだよ。子どもが生まれて、孫もできてうれしかったよ」「こんな苦労があったよ」ということを伝えるんですね。
人の一生って本みたいだと思うんです。10人いれば10通りの物語がある。私も「そんなおもしろいことがあるんだ」といろんな話が聞けるので、そういう意味では弁護士ってありがたい仕事です。普通は誰かの人生を聞くことってそうそう無いですが、弁護士は100人とかたくさんの物語を聞けますから。
私が特に大切だと考えているのは、遺言書の最後の付記事項の部分。法的な効力はない項目なんですが、何も意味もない条項に私は意義を見出すと言いますか。付記事項にご本人の思いを乗せるんです。
遺言は「良い人生だった」「もっと良い人生にしたかった」と振り返るきっかけになりますよね。私はそれに首をつっこみたかったんです(笑)
遺言作成で人生を振り返ってみたら、「こういうこともやりたかったよな」とか思い出すこともあります。そういったポジティブに次のステップに進むお手伝いができればと思っています。
コーヒーを飲める「街角なんでも相談所」にしたい
―新しく開業した事務所は、どんな事務所にしていきたいですか?
「街角なんでも相談所」のような場所にしていきたいです。世間話とか法律に関係ないこともお話したり、アットホームな事務所にしたいです。
また今後は企業だけでなく、個人の顧問もやってみたいと思っています。日頃から依頼者さんとお互いのことを知れると、何かあったときにその方だけの杓子定規ではない対応ができるかなと。
それにご家族から「最近、おばあちゃんの腰が悪くて…」「受け答えがぼんやりしていて…」という話があれば、任意後見・遺言作成などのアドバイスもすぐにできますし。
月1回の状況確認、定期の交流みたいな機会が作れれば良いと思っています。弁護士は敷居が高いと思わず、コーヒーでも飲みに事務所に来ていただきたいですね。
何もなくても、気軽に事務所に立ち寄ってくださいね。
―ありがとうございました!
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