相続人の中に認知症の人がいる場合は何が困る?相続手続きの解決方法別のデメリットについても解説
「認知症の相続人がいるけど手続きはどうしたらいい?」
「親が認知症なので今できることを教えてほしい」
近年、いい相続によせられる相談に「認知症で困っている」といった内容が増えています。
そこで認知症が相続に及ぼす影響について、いろいろな角度から考えていきたいと思います。
今回は第一弾として「相続人の中に認知症の人がいたとき」にどんなことで困るのか、どんな解決方法があるのか、ということについてわかりやすく説明をしていきます。
記事後半では実際にいい相続に寄せられた声もご紹介していますので、是非参考にしてください。
目次
相続人の中に認知症の人がいて困る相続手続きとは?
相続人の中に認知症の人がいると以下の手続きができなくなるおそれがあります。
- 預金の引き出しなどの取引
- 遺産分割協議への参加
- 不動産の売買
相続手続きでは、どのような形で遺産を分配するのかということを各相続人が了解している必要があります。しかし、相続人のなかに認知症の方がいる場合には、遺産分割協議を行うことが難しく、その人を除外した形での遺産分割協議は、無効となってしまうからです。
しかし、何もできないままでは困ります。どうしたらいいのでしょうか。
成年後見人制度を使えば解決するのか?
このような場合は「成年後見人制度」を活用することで手続きを進めることができます。
成年後見制度を利用すると「家庭裁判所で成年後見人を選任してもらい、成年後見人に認知症の相続人(被後見人)の代理として手続きをおこなってもらうこと」ができるようになります。
しかし、成年後見人が被後見人と全く同じようになんでもできるわけではありません。
たとえば、成年後見人が被後見人に代わって遺産分割協議に参加したとします。
相続人のひとりが、以下のような提案をしました。
「〇〇さん(被後見人)以外の相続人で遺産を分けよう。」
他の相続人は同意しました。しかし、成年後見人は、被後見人にとって不利になるような協議をすることはできません。
成年後見人がいても全ては解決できない
このように、成年後見人を立てたとしても他の相続人が自由に遺産分割ができるようになるわけではないことに注意が必要です。
成年後見人は、自分の判断で自由に遺産分割方法を決定できませんので、原則、法定相続分を確保する形での分割をします。
さらに成年後見人の仕事は遺産分割協議が終わったからといって自動的に終わるわけではなく、被後見人が死亡するまで続けなければなりません。専門職が成年後見人になった場合は報酬として月額2万円以上の費用が発生します。※財産額によって異なります。
また、成年後見人がつくと、被後見人の財産管理方法は家庭裁判所に監督されていますので、周囲の人は被後見人の財産を自由にすることはできません。
法定相続分で遺産分割すれば解決する?
成年後見人を立てても、法定分割しかできないのなら、成年後見人を立てないで自分達だけで法定相続分で手続きをすればよいのではないか、と考える方もいるでしょう。
確かに遺産分割協議自体はしなくて済みますが、手続き上では問題が起こる可能性があります。
預貯金の相続手続きで困るケース
たとえば、父親が亡くなり父親の口座に1000万円あり、相続人は認知症で意思や判断能力がない母親と子どもの2人だったとします。
この場合の法定相続分は2分の1ずつですが、子どもが自分の法定相続分の2分の1に相当する500万円だけを引き出したいと申し出ても銀行は応じてくれません。
つまり、亡くなった方の預貯金は相続人1人分だけの法定相続分を引き出すことはできず、全相続人の協力が必要なのです。※ただし、遺言書がある場合は異なります。
銀行の手続きを詳しく知りたい方は「銀行預金の相続手続きと必要書類を分かりやすく説明!遺産分割協議書がない場合も解説」をご覧ください。
不動産の相続手続きで困るケース
不動産は、複数の相続人の法定相続分で相続登記をすることができます。
しかし、相続人同士の共有持分となるだけですので、売却や賃貸をしたいときには持ち主全員の合意が必要となります。合意を取る際に認知症の人の意思確認しなくてはなりません。
不動産の相続手続きを詳しく知りたい方は「【徹底解説】相続登記の手続きと必要書類、早めに相続登記した方が良い理由【司法書士監修】」をご覧ください。
認知症でも相続手続きができる場合
認知症と診断されたら「絶対に」相続手続きができないということではありません。
認知症であっても「意思能力がある」と判断できる場合は手続きをおこなえる場合もあります。
つまり、「認知症」=「意思能力がない」と病名のみで画一的な判断がされるわけでなく総合的な判断が必要で、自分がしていることについて理解できているか、ということが重要なポイントなのです。
では、意思能力がある(自分がしていることを理解している)ということを証明するにはどうしたらいいのでしょうか。
意思能力があることの証明
医師の診断書などがあれば、その状態を表すものとして有効です。
認知症の場合には、要介護認定の過程で行なわれる「主治医意見書」に本人の意思能力に関する記載がされます。
主治医意見書とは
日頃の診療の状況や特別な医療についての意見、認知症の有無などの心身状態に関する意見。医学的管理の必要性など介護に関する意見など、身体の細かな状態まで記載されています。
かかりつけ医がいない場合は、市区町村が指定する医師の診断を受けて意見書を作成してもらうこともできます。
認知症検査は証明になる?
良く知られている簡易的な検査として、長谷川式認知症スケール(HDS-R) ミニメンタルステート検査(MMSE)などがあります。
長谷川式認知症スケール(HDS-R)は、所要時間は10~15分ほどの口頭形式の検査です。名前や生年月日、年齢、場所、人間関係、簡単な計算などの設問に患者が答えていき、30点満点中20点以下だと認知症の可能性が高いとされます。
ミニメンタルステート検査(MMSE)は、およそ10~15分間かけて11個の設問に答えていき、記憶力や計算力、言語能力、図形描写力などをチェックします。30点満点のうち27点以下は軽度認知障害の疑いがあり、23点以下だと認知症の疑いがあるとされています。
これらの検査は、その日の体調や状態によって正答率が下がることもあり、テスト結果だけで認知症ではない証明にはなりませんので注意が必要です。
銀行口座の手続きなど実際に手続きする場合には、事前に該当の金融機関等に確認してみた方がよいでしょう。
相続人の中に認知症の人がいて困ったことのあるお客様の声
いい相続に寄せられた「認知症の相続人がいて相続で困ったことがある」というお客様の生の声をご紹介します。
どれも大変な思いをされた様子を伺い知ることができるお声でした。
認知症になる前にできる相続対策とは?
認知症による困難な相続手続きにならないための主な対策をご紹介します。
- 遺言書をつくる
- 家族信託をする
これらについては、また、別の記事で詳しくご紹介します。
まとめ
認知症の相続人がいる場合、遺産分割の困難さ、認知症の状態や手続きの遅延、精神的・感情的な負担、法的代理人の選定と責任など、さまざまな課題が生じる可能性があることがおわかりいただけたと思います。
また、唯一の解決策である成年後見人制度もデメリットがあります。
相続に関わる問題を未然に防ぐためには、家族や専門家と協力して対策を立てることが重要です。
高齢な親を持つ方で相続のことを話しにくいと思っていらっしゃる方は、是非この記事を話し合いのきっかけにご活用ください。
▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きを依頼した方のインタビューはこちら
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