生命保険に相続税がかかる場合と計算方法・生命保険による相続税対策
本記事は、いい相続の姉妹サイト「遺産相続弁護士ガイド」で2018年9月3日に公開された記事を再編集したものです。
もしもの場合に、大切な人がお金に困らなくて済むように、生命保険に加入している人はたくさんいます。
しかし、生命保険金には相続税などの税金が課せられ、必ずしも全額が受取人に渡るわけではありません。
それでは、生命保険金には、どのような場合にどのような税金が課せられるのでしょうか?
また、税額はどのように計算すればよいのでしょうか?
生命保険を相続税対策に活用することはできるのでしょうか?
この記事では、以上のような疑問を解消すべく、生命保険と相続税について分かりやすく説明します。
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生命保険金とは?死亡保険金とは違う?
生命保険金に課せられる相続税の説明をする前に、まず、生命保険と生命保険金について簡単に説明します。
生命保険とは、ご存知の通り、保険料を支払う代わりに、被保険者(保険の対象として保険が掛けられている人)が亡くなった時に保険金を受け取れるという内容の保険のことです。
生命保険の保険金(被保険者が亡くなった時にもらえるお金)のことを生命保険金といいます。
似た言葉に死亡保険金がありますが、死亡保険金とは、被保険者が亡くなった時にもらえるお金ことです。
よって、生命保険金も死亡保険金の一種です。
死亡保険金には、生命保険金のほか、事故等で被保険者が亡くなった時にもらえる損害保険金があります。
この記事では、皆さんにより馴染みの深い「生命保険金」という言葉で説明しますが、以下の説明は、生命保険に限らず、死亡保険金全般について当てはまります。
生命保険金に相続税がかかる場合
生命保険金を受け取った場合には、相続税が課せられる場合、贈与税が課せられる場合、所得税と住民税が課せられる場合の3つのパターンがあります。
被保険者、保険料の負担者および保険金受取人がそれぞれ誰かによって、課せられる税金の種類が異なる仕組みになっているのです。
詳しくは、下表をご参照ください。
被保険者 | 保険料の負担者 | 保険金受取人 | 税金の種類 |
---|---|---|---|
A | B | B | 所得税、住民税 |
A | A | B | 相続税 |
A | B | C | 贈与税 |
生命保険金に相続税が課せられる場合は、上表の通り、被保険者と保険料の負担者が同じ人の場合です。
例えば、旦那さんを被保険者とする保険で、保険料も旦那さんが負担していて、保険金の受取人が奥さんになっているパターンです。
このような場合には、生命保険金に相続税が課せられます。
せっかくですので、贈与税が課せられるケースと、所得税と住民税が課せられるケースについても説明します。
生命保険金に贈与税がかかる場合は、上表の通り、被保険者、保険料の負担者、保険金受取人のいずれも異なる場合です。
例えば、母を被保険者とする生命保険の保険料を父が負担していたとします。
そして、その生命保険金の受取人は子になっていたとします。
そして、母が亡くなり、子が生命保険金を受け取ったとします。
このような場合、受け取った生命保険金は、保険料の負担者である父から保険金受取人である子への贈与があったものとみなされ、受け取った保険金の全額に贈与税が課せられます。
所得税と住民税が課せられるケースは、保険料の負担者と保険金の受取人が同じケースです。
被保険者が奥さんで、保険料を旦那さんが負担して、受取人も旦那さんというようなケースに所得税と住民税が課せられます。
所得税と住民税は、受け取った保険金からこれまで支払ってきた保険料を差し引いた金額が所得税と住民税の課税対象となります。
生命保険金を年金で受領する場合
上表の生命保険金に相続税が課されるケースにおいて、保険金を年金形式で受領するときは、相続時は生命保険の一時金を受け取っていないのですが、その後の年金をもらえる権利(年金受給権)を相続したものとみなして相続税が課されます。
そして、年金受給開始後は、1年目は非課税ですが、2年目以降から段階的に所得税・住民税が課されます。
この場合の税金の計算方法は、国税庁ウェブサイトのタックスアンサー「No.1620?相続等により取得した年金受給権に係る生命保険契約等に基づく年金の課税関係」をご参照ください。
分かりにくいので、申告の際は、税務署か税理士に相談した方がよいでしょう。
解約返戻金には所得税・住民税か贈与税の課税対象となる
生命保険を解約すると解約返戻金がもらえる場合があります。
解約返戻金は、保険契約者が受け取ることができます。
解約返戻金は、保険契約者と保険料の負担者が同じかどうかによって、所得税及び住民税か、贈与税かのいずれかの課税対象となります。
保険契約者=保険料の負担者の場合は、解約返戻金には所得税・住民税が課せられることがあります。
所得税・住民税が課せられるのは、既払込保険料額よりも解約返戻金の方が多い場合です。
そのような場合は、解約返戻金の額から既払込保険料額を差し引いた金額が、所得税と住民税の課税対象となります。
また、保険契約者が保険料負担者でない(保険契約者≠保険料負担者)場合には、解約返戻金の全額が贈与税の課税対象となります。
生命保険金の非課税限度額の計算方法
被相続人(亡くなって財産を残す人)が生命保険に加入していた場合の相続税の計算方法について説明します。
この場合の相続税の計算方法は、保険金の受取人が相続人なのか相続人でないのかによって異なります。
受取人が相続人の場合は、保険金のうち一定額までは非課税とされますが、受取人が相続人でない場合は非課税とされる金額はありませんので、全額が課税対象となります。
相続人とは、遺産を相続する人のことで、誰が相続するかは民法で定められています。
例えば、被相続人に配偶者と子がいる場合は、配偶者と子が相続人になります。
相続人について詳しくは、「法定相続人とは?法定相続人の範囲と優先順位、相続割合を図で説明」をご参照ください。
受取人が奥さんやお子さんの場合は相続人になるので、生命保険金の控除があります。
控除限度額は、次の式で計算することができます。
500万円×法定相続人の数
例えば、法定相続人が3人の場合は、500万円×3人=1500万円が非課税限度額となります。
なお、相続放棄をした人がいた場合でも、その人も非課税限度額の計算の基礎となる法定相続人の数に含めます(相続放棄について詳しくは、「相続放棄によって借金を相続しないようにする方法と相続放棄の注意点」をご参照ください。)。
しかし、相続欠格や相続人の廃除があった場合は、欠格者や被廃除者(廃除された人)は、非課税限度額の計算の基礎となる法定相続人の数に含めません。
ただし、欠格者や被廃除者を被代襲者とする代襲相続人がいる場合は、その代襲相続人は非課税限度額の計算の基礎となる法定相続人の数に含めます。
代襲相続について詳しくは、「代襲相続とは?範囲は?孫や甥・姪でも相続できる代襲相続の全知識」をご参照ください。
ところで、養子を増やせば、その分、非課税限度額が青天井に増えるのではないかと考える方もいるかもしれません。
しかし、そのような税金対策としての養子縁組に対しては、非課税限度額の計算の基礎となる法定相続人の数に含めることができる養子の数に一定の制限を設けられています。
法定相続人の数に含めることができる養子の数は、実子がいる場合と、実子がいない場合とで異なります。
実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までとなっています。
もっとも、3人目以降の養子も法定相続人ではありますが、「法定相続人の数」には含めないため、非課税限度額は増えないという話です。
生命保険金を含めた相続財産にかかる相続税の計算方法
生命保険金は厳密にいうと相続財産ではないのですが、相続財産とみなして相続税の課税対象となります(被保険者と保険料の負担者が同じ場合)。
以下では、生命保険金を含めた相続税の計算方法を説明します。
相続税は次のような流れで計算することができます。
- 遺産総額(課税価格)を算出する
- 相続税の基礎控除額を差し引いて課税対象額を算出する
- 法定相続分に基づき各法定相続人の相続税額を算出し、それらを合計する
- 相続税総額を実際の相続分に基づき按分する
- 各相続人の事情に応じて税額を増減する
以下、それぞれについて説明します。
遺産総額(課税価格)を算出する
遺産総額(課税価格)は次の計算式によって算出することができます。
(プラスの財産 − 非課税財産)− マイナスの財産 − 葬式費用 + 相続開始前3年以内に贈与した財産
「プラスの財産」には、生命保険金も含まれます。
また、「非課税財産」には、非課税限度額内の生命保険金が含まれます。
例えば、預貯金や不動産などの遺産が1億円、生命保険金が3000万円、法定相続人が3人で生命保険金の非課税限度額が500万円×3人=1500万円、借金等のマイナスの財産が2000万円、葬式費用が100万円、相続開始前3年以内に贈与した財産が600万円の場合、遺産総額は次の式で計算することができます。
1億円+3000万円−1500万円−2000万円−100万円+600万円=1億円
相続税の基礎控除額を差し引いて課税対象額を算出する
遺産総額(課税価格)が算出できたら、次に、基礎控除額を差し引いて、課税対象額を算出します。
基礎控除額は、次の計算式で算出することができます。
3000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人の数を計算する際は、生命保険金の非課税限度額の計算の基礎となる場合と同じで、相続放棄や養子などのルールにご注意ください。
法定相続分に基づき各法定相続人の相続税額を算出し、それらを合計する
例えば、課税対象額が1億円で法定相続人が配偶者と子の2人だったとします。
法定相続分はそれぞれ2分の1ずつなので、法定相続分に応ずる取得金額は5000万円ずつになります。
これを、相続税速算表に当てはめます。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000万円以下 | 10% | − |
1000万円超3000万円以下 | 15% | 50万円 |
3000万円超5000万円以下 | 20% | 200万円 |
5000万円超1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
法定相続分に応ずる取得金額は5000万円の場合は、「3000万円超5000万円以下」の欄を確認すればよいので、税率20%、控除額200万円であることが分かります。
そうすると、それぞれの相続税額は次の式で算出することができます。
5000万円 × 20% − 200万円 = 800万円
そして、以下のように、各相続人の相続税額を合計すると、相続税総額になります。
(配偶者)800万円 + (子)800万円 = 1600万円
相続税総額を実際の相続分に基づき按分する
実際の相続では法定相続分どおりに財産が配分されるとは限りません。
遺贈などによって、法定相続分とは異なる割合で配分されることもよくあることです。
そのような場合は、相続税総額を実際の相続分に基づき按分します。
例えば、前述のケースで、配偶者が7500万円、子が2500万円をそれぞれ相続したとします。
その場合の各人の相続税額は、以下の式で求めることができます。
まずは、妻の相続税額を計算します。
1600万円 ×(7500万円 ÷ 1億円)= 1200万円
次に、子の相続税額を計算します。
1600万円 ×(2500万円 ÷ 1億円)= 400万円
なお、法定相続分どおりに相続した場合は、この計算は不要で、前の過程で計算した800万円ずつが、それぞれの相続税額になります。
各相続人の事情に応じて税額を増減する
次に、各相続人の事情に応じて税額を増減します。
軽減される制度には次のようなものがあります。
- 贈与税額控除
- 配偶者の税額の軽減
- 未成年者の税額控除
- 障害者の税額控除
- 相次相続控除
また、加算される制度には、相続税額の2割加算の制度があります。
相続税額の2割加算とは、財産を取得した者が、被相続人の一親等の血族(その代襲相続人である孫を含みます)及び配偶者以外の人である場合には、その人の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額を加算する制度です。
生命保険を活用した相続税対策
生命保険には、一時払い終身保険というものがあります。
一時払い終身保険とは、保険料を一度に全額支払って一生涯保険が適用されるというもので、元本割れのリスクが低い保険です。
例えば、法定相続人が3人いる場合は1500万円が非課税となりますが、これを有効に活用するために、保険料も受取金も1500万円の一時払い終身保険に加入します。
そうすると、被保険者が亡くなった時に、受取人は1500万円を非課税で受け取ることができます。
言い換えれば、加入から亡くなるまでの間、お金を保険会社に預けておくことで、限度額まで非課税で相続させることができる制度と言えます。
保険会社によって違いはあるものの、健康診断なしで90歳まで加入できるものあります。
90歳以下で、生命保険に未加入で、相続税の基礎控除額以上に財産を持っている人は、是非、利用すべきおすすめの制度です。
生命保険金の基礎控除によって非課税になった場合は申告不要
生命保険金を含めた遺産総額が、相続税の基礎控除額と生命保険金の非課税限度額の合計額以内に収まる場合は、相続税の申告は不要です。
なお、配偶者の相続税額の軽減制度や小規模宅地等の特例を利用した結果、相続税がゼロになる場合は、相続税の申告は必要ですので、取り扱いの違いにご注意ください。
まとめ
以上、生命保険に相続税がかかる場合とその計算方法、それから生命保険による相続税対策について説明しました。
分からないことは、相続税に詳しい税理士に相談するとよいでしょう。
▼実際に「いい相続」を利用して、税理士に相続税申告を依頼した方のインタビューはこちら
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