特別受益は遺産の前渡し?生前贈与の持ち戻し(生前贈与加算)との違いも解説
子どもを複数人持つ親が特定の子どもに金銭の援助をすることがあります。
その後親が亡くなり、遺産分割をする際に、この特定の子どもに援助した金銭が特別受益と認められれば、相続財産に足し戻して遺産分割をすることになります。
この記事では特別受益について解説します。
この記事を書いた人
鎌倉新書にパートタイマーとして入社。2020年チャレンジ制度をクリアし正社員に。
目前に控えたシニアライフを楽しく過ごすため、情報集めに奔走するアラカン終活ライター
資格:日商簿記1級・証券外務員二種・3級FP技能士
特別受益の考え方
相続を話し合っている姉妹。「お姉ちゃんはお父さんからたくさんお金をもらったじゃないの!、お父さんが亡くなって少ししかない遺産まで平等に分けるなんてずるい!」と妹が怒ってしまう…。なんだかありそうなことだと思いませんか。
特別受益とは簡単に表現すると「遺産の前渡し」にあたるものです。
被相続人から特別の利益を受けた相続人がいる場合に適用されるもので民法903条に規定されています。
(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
法定相続分に基づく平等な相続財産の分配を確保するために設けられているのです。前述の兄弟のたとえ話も、兄がもらった金銭が特別受益にあたる可能性があります。
特別受益の具体例
特別受益の例としては、生前贈与や遺言による相続人への不平等な寄与、または生前に相続人が受け取った多額の贈与などが挙げられます。
しかし、生前贈与のすべてが特別受益に該当するわけではありません。主に以下の贈与などが特別受益にあたるとされています。
- 結婚のための贈与
- 養子縁組のための贈与
- 生計の資本としての贈与
- 借金の肩代わり
- 相続税対策の贈与
- 遺贈
- 死因贈与
例えば、被相続人は母。相続人が兄と弟で、亡くなった母の遺産が1000万円だったとします。母が亡くなる前に弟が実家の事業の受け継ぐために2000万円をもらっていたというケースなどは特別受益とあたる可能性は高いです。
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特別受益の持ち戻し
もし、生前に被相続人から譲られた金銭等が特別受益にあたると判断された場合は、その金銭等を相続財産に含めて遺産分割の計算をします。これを特別受益の持ち戻しといいます。
持ち戻しの計算方法
先述の例「被相続人は母。相続人が兄と弟で、亡くなった母の遺産が1000万円。母が亡くなる前に弟が実家の事業の受け継ぐために2000万円をもらっていたというケース」で具体的に計算してみましょう。
母の遺産1000万円に、弟がもらっていた2000万円を持ち戻します。
1000万円+2000万円=3000万円
3000万円÷法定相続分1/2=一人当たり1500万円が法定相続分
兄:1500万円受け取れるところ、実際に受け取るのは1000万円。
弟:1500万円-2000万円=-500万円(受け取れる遺産は0円、兄に差額を払う必要はない)
結果、母の遺産が1000万円は兄が全てをもらうことになります。
一人当たり1500万円が法定相続分なので、500万円足りません。
特別受益の考え方ではマイナス分はゼロになります。また、多くもらっていた相続人から他の相続人に渡す必要はありません。
そのため、弟は500万円を兄に渡す必要はなく、兄は特別受益の持ち戻しをしても500万円損をするという結果となります。
ただし、この特別受益の持ち戻しは、必ずしもする必要はありません。
他の相続人が必要性を感じないなら、わざわざ持ち戻して遺産分割する必要はありません。例えば、兄が、弟が実家の事業をついでくれたことを鑑み、持ち戻しの必要はないと考えていれば、母の遺産1000万円を法定相続分の500万円ずつ分けるという判断になってもよいわけです。
特別受益の持ち戻し、いつまでさかのぼる?
特別受益の持ち戻しは、どのくらい前までさかのぼらなければならない、どのくらい前だったら含めなくよいという期間に対する決まりはありません。そのため10年以上前に金銭等を譲られていた場合でも、相続人が持ち戻しをしてほしいと言われたら対応する必要があります。
特別受益については相続の「特別受益」とは?計算方法や持ち戻し免除、時効などを解説でも詳しく解説しています。
生前贈与の持ち戻しとの違い
生前贈与の持ち戻し、暦年贈与の持ち戻しなどと言われている生前贈与加算。
生前贈与加算とは相続税の計算をするときには、亡くなる前の一定期間の贈与は相続財産に加算するというルールのことをいいます。
相続分を計算する特別受益の持ち戻しと相続税の計算をするときに持ち戻す生前贈与加算(生前贈与の持ち戻し、暦年贈与の持ち戻し)は違うものなので混同しないようにしましょう。
生前贈与加算(生前贈与の持ち戻し)
生前贈与加算は相続発生時点からさかのぼって7年以内に被相続人から受け取った資産は『相続財産』となり、相続税の課税対象になります。なお、2024年1月1日以降の贈与から7年になり、それ以前は3年でした。
生前贈与加算については「生前贈与加算が相続開始3年前から7年に延長!令和5年度の税制改正で何が変わった?」で詳しく説明しています。
まとめ
生前贈与は、すればするほど相続する財産が減っていきますので相続税対策として活用できます。
しかし相続人にとって不公平であると争いの元になりかねません。相続人間でトラブルにならないよう慎重に対応しましょう。
いい相続では、相続税申告や相続手続き、遺産分割協議書の作成など、相続に関することを得意とした専門家をご紹介しています。ぜひ、お問い合わせください。
この記事は「【事例】母が亡くなる前、弟が結婚祝い金をもらっていたそうです。これは相続財産になりますか?」を再編集したものです。
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