【事例】遺言書で指定された財産の受取人が既に死亡しています。遺産分割はどうなる?(54歳男性 遺産3,130万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、遺言書で指定された財産の受取人が、既に亡くなっている場合の遺産分割について、54歳男性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、行政書士瀬崎昌彦事務所の行政書士・瀬崎 昌彦さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士、経営革新等支援機関〉
大阪の西淀川区で、行政書士として誰もが元気に楽しく安心して暮らせる街を目指して、皆様の暮らしのお手伝いを続けています。相続、成年後見、経営サポートを主業務としております。「親なきあと相談室」として障がいのある子の親への活動も行っており、民事信託についてもお客様に満足いただける提案を心がけております。そのようなお困りごとがあればお声がけください。
▶行政書士瀬崎昌彦事務所
遺言書で定められた財産の受取人が、既に亡くなっています
相談内容
父が亡くなり、自筆証書遺言が出てきました。家庭裁判所で検認してもらったところ形式的には大丈夫でした。しかし「長男に財産をすべて相続する」と書いてありましたが、長男は半年前に事故で亡くなっているんです。この場合、どういう遺産分割になるのでしょうか?まさか、姪にすべて行くわけじゃないですよね?
- プロフィール:54歳男性
- お住まい:石川県
- 家族構成:次男(相談者本人)、長女(妹)、姪(長男の子)の3名
- 被相続人:父
総額3,130万円
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅(土地・建物)90㎡ | 1,500万円 |
預貯金 | 1,200万円 | |
有価証券 | 430万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 遺言書で指定された受取人が先に死亡した場合、該当部分は無効になります
遺言書にて財産の受け取りを指定した相手が遺言者より先に死亡した場合、原則として代襲相続の対象にはなりません。
このような場合、先に亡くなられた方に財産を相続するとしている部分の遺言は、原則として無効になります。
代襲相続(民法887条2)とは
そもそも代襲相続とは、相続人となる被相続人の子又は兄弟姉妹が死亡・相続欠格・相続廃除などに該当する場合、その相続人の子が法定相続人の代わりに相続することです。例えば長男が父親より先に死亡した場合、父親の遺産は長男の子ども(孫)が代襲相続します。
最高裁判所の判決
最高裁の判決によると、
という判断になっています。遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定する「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはない。引用:平成23年2月22日民集65巻2号699頁
そのまま読むと分かりにくいですが、判例時報に掲載された解説によると
と説明されています。例えば、長男に全ての遺産を相続させるという遺言をしているときに遺言者より先にその長男が死亡した場合に、遺言者が、長男の複数の子が法定相続分に従って遺産を取得することを望んでいたのか、そのうちの一人の子、例えば長男の長男に承継させることを望んでいたのか、あるいは、そもそも、その場合には長男の子ではなく自分の二男に相続させることを望んでいたのかは、事案により様々であるといえる。したがって、遺言者の意思が不明であるときに、「相続させる」と指定された相続人の子に代襲相続をさせることが当然に遺言者の一般的意思にかなうということはできず、そうであれば、遺言の効力発生時に「相続させる」と指定された相続人が存在しなければ、その遺言は効力を生じないと解するのが無理のない考え方であると思われる。
引用:判例時報(No.2108 平成23年6月1日号 「相続させる」旨の遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合における当該遺言の効力)
アドバイス2 遺言書の無効になった部分は法定相続に戻ります
遺言は遺言者の死亡時に効力が発生します(民法985条)。
そのため、死亡時に受取人が存在している必要があります。遺言者の死亡時に指定された相続人が死亡している場合、遺言の該当部分はもともと無かったこととなり遺言の効果が失われます。つまり、死亡している方に関わる部分のみが無効となります。
では、指定された相続人に与えられるはずだった財産はどうなるのでしょうか。
無効になった部分については、法定相続となります。指定された相続人が死亡している場合、その方の相続人ではなく、遺言者の法定相続人が受取人となります。
相談者様の場合
亡くなったお父様の遺言では「長男に財産をすべて相続する」と書かれていましたが、半年前に長男がお亡くなりになっているため、遺言が無効となりますので、遺言がなかった場合と同様に法定相続となります。
無効となった部分の財産については、法定相続人である 次男、長女、姪(長男の子)の3名がそれぞれお父様の子どもとして、3分の1ずつを相続するか、法定相続人全員で遺産分割協議をすることになります。
アドバイス3 別段の意思表示をしていれば…(予備的遺言、補充遺言)
相続人が、遺言者より先に死亡してしまう「もしものとき」に備えて、あらかじめ財産を相続させる予備の人を定めておく遺言方法があります。これを予備的遺言(補充遺言)といいます。
たとえば、下記のような予備的遺言が記述できます。
「不動産は長男に相続させる。遺言者より前に又は同時に長男が死亡した場合、長男の子である孫に相続させる」
「不動産は長男に相続させる。遺言者より前に又は同時に長男が死亡した場合、二男に相続させる」
このように予備的遺言が書かれていれば、もし受取人が先に死亡した場合でも、法定相続や遺産分割を行う必要がなく、遺言者の第2希望にあたる承継者が相続することになります。
遺言書に書かれている受取人が先に亡くなったことを知った場合、再度遺言書を作成することも可能ですが、認知症などにより、遺言者の判断能力がなくなると再作成ができなくなります。
相続人の争いを避けるためにも、受取人が先に死亡した場合に他に遺産を譲りたい人がいるのであれば、その意思を遺言書に書いておきましょう。
その他
- 事情により相続人が相続を放棄する場合、予備的遺言が書かれていれば、その通りになります。
- 推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情があっても、必ずしも想いが無効になるわけではありません。
- 遺言執行者についても、予備的に定めておくことが可能です。受取人と遺言執行者が同じ場合、遺言執行者についても予備的条項を記載してください。
- 遺言書で指定した保険金受取人が死亡している場合には、保険金の受取人は死亡されている受取人の法定相続人となります。
- 保険金の受取人も遺言書で指定が可能となっています(保険法44条:平成22年4月以降に締結された生命保険契約に限定)。
- 遺言ではなく、家族信託(民事信託)を利用して、最終的な財産の行方を決めておくことや、生前贈与を利用することなども選択肢の一つになるでしょう(それぞれデメリットもありますので、専門家へご相談ください)。
まとめ
- 遺言書が効力を発するには、遺言者の死亡時に受取人が生存している必要があります。
- 遺言書が無効になった部分の財産は法定相続に戻ります。
- 予備的遺言を書いていれば、争いを防ぎ遺言者様の思い通りに財産を渡せます。
遺言書に代襲相続の可能性を含めた遺言内容や予備的遺言を記載する場合、少し内容が複雑になります。わからないことやお困りごとがあれば専門家にお気軽にご相談ください。
関連事例
【事例】相続放棄した人がいる場合、遺産分割はどうなる?(55歳女性 遺産3,400万円)【行政書士執筆】
【事例】相続人の一人が生活保護を受給している(52歳女性 遺産580万円)【行政書士執筆】
相続についてのご相談は「いい相続」へ
いい相続では、全国各地の相続の専門家と提携しており、相続手続きや相続税申告、生前の相続相談に対応できる行政書士や税理士などの専門家をご紹介することができます。
専門オペレーターが丁寧にお話を伺いサポートしますので、お困りの方は、お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
〈行政書士、経営革新等支援機関〉
大阪の西淀川区で、行政書士として誰もが元気に楽しく安心して暮らせる街を目指して、皆様の暮らしのお手伝いを続けています。相続、成年後見、経営サポートを主業務としております。「親なきあと相談室」として障がいのある子の親への活動も行っており、民事信託についてもお客様に満足いただける提案を心がけております。そのようなお困りごとがあればお声がけください。
▶行政書士瀬崎昌彦事務所
ご希望の地域の専門家を探す
ご相談される方のお住いの地域、遠く離れたご実家の近くなど、ご希望に応じてお選びください。