【事例】未成年の子どもが2人、どのように相続税申告をすれば良いですか?(42歳女性 遺産1億2,000万円)【税理士執筆】

「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、未成年の相続人がいる場合の相続税申告について、42歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、税理士法人フォーカスクライドの税理士・梅田篤志さんです。
目次
この記事を書いた人

〈税理士・CFP〉
1986年生まれ、東京都江戸川区出身
2008年中央大学卒業後、都内税理士法人入社
2013年に税理士試験合格
2015年に資産税専門のコンサルティングファームである税理士法人タクトコンサルティングに入社
2017年に結婚を機に新潟に移住し、税理士法人フォーカスクライドを運営
資産税実務のほか、セミナー講演、企業内勉強会及び執筆などの活動をしている。
▶税理士法人フォーカスクライド
未成年の子どもがいる場合の相続は?
相談内容
夫が事故で亡くなってしまい、相続税申告が必要そうです。マンションの住宅ローンは団信でなくなったのですが、未成年の子どもが2人おり、どのように手続きすれば良いかわかりません。
- プロフィール:42歳女性
- お住まい:埼玉県
- 相続人:相談者本人(妻)、中学生の息子(15歳)、小学生の娘(10歳)の3名
- 被相続人:夫
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅マンション (住宅ローンは団信で完済) |
6,000万円 |
預貯金 | 3,000万円 | |
有価証券 | 2,000万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:夫 受取人:妻 |
1,000万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図

アドバイス1 未成年がいる場合に必要な特別代理人の選任
● 特別代理人とは何か:
特別代理人とは、未成年者に代わって遺産分割協議などの法的手続きを行う代理人のことです。相続人に未成年者が含まれる場合、法律上その子の権利を守るために特別代理人の選任が必要になるケースがあります。
これは親権者(親)と未成年の子の間の利益相反、つまり利害関係の衝突を防ぐための制度です。たとえば「父親が死亡し、共同相続人である母親と未成年の子が遺産分割協議を行う場合」は典型的な利益相反行為に該当します。
民法第826条ではこのような場合、親権者は家庭裁判所に対し未成年の子のため特別代理人を選任するよう請求しなければならないと定めています。
つまり今回のケースでも、母親Aさんは長男B君(15歳)と長女Cさん(10歳)それぞれについて家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。未成年者本人は法律行為(契約や遺産分割の合意)を単独では行えず、また親であるAさん自身も相続人の一人として利害が対立するため子の代理人にはなれないためです。
● 特別代理人が必要となるケース:
基本的に「親権者である親と未成年の子がともに相続人となる場合」には特別代理人を選任しなければなりません。本ケースのように母と子が相続人となる典型例はもちろん、未成年の相続人が複数いる場合には未成年者ごとに別個の特別代理人を選ぶ必要があります。
一方、親権者が相続人に含まれない場合には利益相反の関係が生じないため特別代理人は不要です。また、被相続人(亡くなった方)が遺言書で明確に分割方法を指定していた場合も、遺産分割協議自体が不要になるため特別代理人を立てずに手続きを進められることがあります。
未成年の相続人がいる家庭では、生前に遺言を準備しておくことが円滑な相続のために有効と言えるでしょう。
● 特別代理人選任の手続き:
特別代理人となるのに特別な資格はいりませんが、未成年者の利益を代弁できる中立的立場の成人である必要があります。親族で適任者がいなければ弁護士や司法書士等の専門家に依頼することも検討できます。特別代理人を選任するには未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。
家庭裁判所で書類審査が行われ、特別代理人候補者が適任と認められれば通常2~3週間程度で正式に選任されます。ただし案件により時間がかかる場合もあるため注意が必要です。
相続税の申告期限は被相続人の死亡から10か月以内と定められているため、未成年者がいる場合はできるだけ早めに遺産分割協議案をまとめ、特別代理人選任の手続きを進めることが重要です。
● 特別代理人と遺産分割協議:
特別代理人が選任された後は、その者が未成年者に代わって他の相続人(本ケースでは母親Aさん)と遺産分割協議を行います。
特別代理人はあくまで未成年者の権利擁護が使命となるため、協議においては子の法定相続分を確保することを主眼に置きます。仮に子ども本人が「遺産分割は全て母に任せたい」と望んでいても、子が未成年である以上は特別代理人が選任され、法律上は子の取り分を守る手続きが求められます。
最終的な分割方法について家庭裁判所の審判が必要となるケースもありますが、一般的には特別代理人が関与した遺産分割協議書を作成し、相続人全員(未成年者の代理として特別代理人を含む)が署名押印して合意が成立します。その後、この協議内容にしたがって各相続人が遺産を取得し、相続税の申告手続きへと進むことになります。
アドバイス2 「未成年者控除」の仕組みと計算方法
● 未成年者控除とは:
未成年者控除とは、相続人が未成年である場合に適用される相続税額の税額控除(税額から直接差し引く減額措置)です。親を亡くした未成年者の今後の養育費・教育費負担を考慮し、成年に達するまでの期間に応じて相続税が減額される制度で、未成年者の経済的負担を和らげる「税の特典」と言えます。
具体的には未成年者が18歳になるまでの年数につき、1年あたり10万円を相続税額から差し引くことができます。たとえば5歳の子が相続人であれば、18歳まで残り13年あるため最大130万円を相続税額から控除できる計算です。年齢が若いほど成年までの年数が長くなるため、それだけ控除額も大きくなります。
● 適用要件と年齢基準:
未成年者控除を受けられるのは、相続や遺贈で財産を取得した法定相続人が相続開始時に18歳未満である場合です(※2022年4月1日より前に開始した相続では「20歳未満」が基準)。
この年齢基準は、民法の改正による成年年齢引き下げ(2022年4月1日施行)に伴い変更されました。2022年4月1日以降の相続では未成年者控除の対象年齢が20歳未満から18歳未満に引き下げられました。
したがって現在は18歳・19歳の相続人は未成年者控除の対象外(=自身で遺産分割協議に参加可能)となり、17歳以下のみが対象となります。その未成年者の相続税額から差し引かれます。
計算にあたって1年未満の端数がある場合は切り上げて1年とします。たとえば相続開始時点の年齢が15歳9か月であれば、9か月は切り捨てて15歳とし、18歳まで残り3年と計算します。この場合控除額は10万円×3年=30万円です。
● 未成年者控除の留意点:
未成年者控除は相続税の税額から直接減額される点がポイントです。仮に計算上の相続税額が控除額より小さい場合、控除しきれない余剰分が出ることがあります。その場合は未成年者の扶養義務者(通常はその親など)の相続税額から残額を差し引くことができます。
たとえば未成年者本人の税額が0円になるまで控除してもなお控除額が余る場合、残りを親の税額から減額できる仕組みです。また、同一の未成年者が複数回相続を経験している場合(前回の相続でも未成年者控除を受けていた等)は、2回目以降の控除額が制限される場合があります。
具体的には、過去の相続ですでに成年までの控除枠を使い切っているケースなどでは、新たな相続で控除できる額が少なくなる可能性があります。一般的な家庭では滅多に起こりませんが、相続が連続したり祖父母から代襲相続した場合などには念頭に置くべき注意点です。
アドバイス3 本事例に基づいた相続税の総額の計算例
最後に、上述のケース(妻Aさんと未成年の子2人が1億2,000万円を相続)について、相続税の簡易計算例を示します。ここでは遺産分割は法定相続分どおり(妻1/2、子2人で1/2を等分)と仮定し、適用できる控除(配偶者控除と未成年者控除)を組み合わせて算出します。
実際の申告ではさらに細かな税額計算手順がありますが、概略を掴むための例として参考にしてください。
《ケースの前提》
被相続人である夫の遺産総額は1億2,000万円(負債控除後の正味遺産額とします)。法定相続人は3名(妻Aさん、長男B君、長女Cさん)です。
遺言はなく、遺産分割協議により妻が1/2、長男と長女が各1/4ずつ財産を取得する合意が成立したと仮定します。各人の取得額は妻6,000万円、長男3,000万円、長女3,000万円となります。
《相続税額の計算手順》
基礎控除額の計算: 相続税の基礎控除は 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 で算定します。本ケースでは法定相続人が3人のため、基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円×3人 = 4,800万円となります。これは遺産に対する非課税枠であり、遺産総額がこの金額以下なら相続税は一切かかりません。
課税遺産総額の算出:遺産総額から基礎控除額を差し引いた残りが課税対象となる遺産額です。1億2,000万円 − 4,800万円 = 7,200万円が本ケースの課税遺産総額となります。相続税の申告義務は、この課税遺産総額がプラスである場合に生じます(※よって本ケースでは申告が必要です)。
法定相続分で按分:課税遺産総額7,200万円を民法の定める法定相続分で分けます。相続人が配偶者と子の場合、配偶者1/2、子全員で1/2が法定相続分です。したがって按分額は以下のようになります。
- 妻Aさん:7,200万円 × 1/2 = 3,600万円
- 長男B君:7,200万円 × 1/4 = 1,800万円
- 長女Cさん:7,200万円 × 1/4 = 1,800万円
各取得金額に税率を適用:按分した金額それぞれに相続税の速算表に基づく税率と控除額を適用して一旦各人の税額を計算します。速算表の抜粋によれば、1,000万円超~3,000万円以下の部分に15%(控除50万円)、3,000万円超~5,000万円以下の部分に20%(控除200万円)の税率が課されます。これに当てはめると以下のようになります。
妻Aさん(按分額3,600万円):税率20%の層に該当。税額 = 3,600万円 × 20% - 200万円 = 520万円
長男B君(按分額1,800万円):税率15%の層に該当。税額 = 1,800万円 × 15% - 50万円 = 220万円
長女Cさん(按分額1,800万円):同じく 220万円(長男と同額)
相続税総額の算出:上記で計算した各人の税額を合計すると、520万 + 220万 + 220万 = 960万円が一旦算出される相続税の総額となります。この960万円が、配偶者控除や未成年者控除など各種税額控除を適用する前のベースの税額です。
配偶者控除(配偶者の税額軽減)の適用:配偶者が取得した財産に対する相続税は、1億6,000万円まで(あるいは配偶者の法定相続分相当額まで)非課税になるという特例があります。本ケースでは妻Aさんの取得額は6,000万円で、非課税枠の1億6,000万円以下です。したがって妻Aさんの最終的な納付税額は0円になります。
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