【事例】父が亡くなる前、妹が父の口座からまとまったお金を引き出していた(55歳女性 遺産1,300万円)【行政書士執筆】

「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、父と同居していた妹が預金を引き出していたことについて、55歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、プラス行政書士事務所の行政書士・植野 正大さんです。
目次
この記事を書いた人

〈行政書士〉
開業以来、相続・遺言の業務を多く扱う。相続人が数十人に及ぶ調査も経験し、これまでに読み込んだ戸籍は1000通を超える。相続や遺言等の研修講師や講演の実績も多数。
▶プラス行政書士事務所
妹が父の口座からお金を引き出していた
相談内容
父が亡くなる数日前に、妹が父の口座からまとまったお金を引き出していたことが判明しました。本人の意思かどうかも曖昧です。このような直前の出金は、相続の中で問題にならないのでしょうか?不正ではないか不安です。
- プロフィール:55歳女性
- お住まい:宮崎県
- 相続人:長女(相談者本人)、二女(妹)、長男(弟)の3名
- 被相続人:父
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅戸建て(妹と父が同居) | 1,000万円 |
預貯金 | 300万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図

はじめに
今回のように、亡くなる数日前に口座からいくらかのお金が引き出されている、というご相談はよくあります。このときお父様の意思表示があって、お父様に必要な費用として引き出され、使われたものであれば何ら問題はないでしょう。
ただ、実際はそうしたケースはあまりなく、相続人が被相続人や他の相続人に無断で引き出しているケースがよくあります。今回のご相談はその可能性が考えられそうですので、そのような場合だったとして考えてみます。
アドバイス1 勝手に口座から引き出しているよくある理由
勝手に口座から引き出しているケースでよくある理由は「葬儀費用や入院費等の支払いに当面必要になるから」です。これは、私も実際の相談でよく聞く話です。
例えば、遺産の確認のため、被相続人名義の通帳を拝見していると、亡くなる日の前後に不自然に多くの引き出しがあり、理由を聞くと「葬儀代の工面のために引き出しておいた。亡くなった後は口座が凍結されると聞いたので」というお話です。
葬儀費用は本来、葬儀を執り行う相続人(例えば喪主)が支払うものですが、被相続人の財産から支出することがよくあります。
また、葬儀費用を相続人に残すための生命保険があるなど、被相続人の財産から支出することについて、違和感が少ないものになっていると思います。
しかし、だからといって、被相続人の財産から勝手に支出してよいという理由にはなりません。
また、本人のキャッシュカードを本人以外の人物が使用して口座からお金を引き出す行為は、銀行との関係で違法な行為とされています。
これを適法に行うためには、本人からの委任状等を窓口に提出して所定の手続きを経るか、代理人カードを事前に作成しておく必要があります。
アドバイス2 預金を引き出した理由を聞く
まずは、どのような理由や目的で預金を引き出されたのか、二女様に確認されることをおすすめします。次に、お父様が亡くなる前に引き出されたお金が、亡くなった日時点で残っているのか、残っていないのかも確認する必要があります。
もし、一部でも残っている場合、残った分は現金として相続財産になります。一方、亡くなった日までにお父様に必要な費用以外に使っていた場合は問題があります。例えば、二女様が自分の生活費に使った、あるいは、自分の口座に入金していた、という場合です。
お父様に必要な費用ではないことに使っているのであれば、その使ったお金を相続財産に含めるかどうかは、相続人全員で話し合って決める必要があります。
その場合は、全員が同意すれば相続財産に含めることができます。その内容を遺産分割協議書に明記したうえで、分割するとよいでしょう。
ただし、全員で同意できない・話し合い自体ができない場合は、相続財産に含めることはできません。
なお、もし引き出したお金はお父様から生前贈与を受けたものだと説明があった場合は、特別受益という別の問題になりますが、今回は割愛させていただきます。
アドバイス3 まずは相続に強い専門家に相談
以上のように、亡くなる前のお金の引き出しはいろいろな問題に繋がってきますが、二女様の事情や説明を聞かれる前でも後でも構いませんので、まずは一度、相続に強い専門家にご相談されることをおすすめします。
そのうえで、話し合いがまとまらなかったり、二女様の説明に納得できない点があったりした場合は、当事者での解決が困難になりますので、弁護士に相談されることをおすすめします。
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〈行政書士〉
開業以来、相続・遺言の業務を多く扱う。相続人が数十人に及ぶ調査も経験し、これまでに読み込んだ戸籍は1000通を超える。相続や遺言等の研修講師や講演の実績も多数。
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