家庭裁判所の相続放棄ページだけでは不明な部分も含めてわかりやすく全解説!
被相続人(亡くなった人)の財産が債務超過の場合や、遺産分割協議に関わりたくなく場合は相続放棄をすることがあります。
しかし、裁判所のウェブサイトの相続放棄のページを読んでも、手続き方法、必要書類、申述書の記入方法などは違うページにかかれていて分かりずらいとか、郵送方法が掲載されていない等という声もあるようです。そのような方々に向けて、この記事では、相続放棄の手続きについてわかりやすく説明していきます。
相続放棄の流れ
相続放棄の手続きの流れは、概ね次のようになっています
- 相続放棄をすべきかどうか決める
- 必要書類を用意する
- 相続放棄の申述(手続き)をする
- 照会書に記入して、返信する
- 相続放棄受理通知書を受領する
以下から、必要書類の準備から手続きの完了までを詳しく説明していきます。
家庭裁判所での相続放棄の手続きに必要な書類
相続放棄の手続きに必要な書類は「相続放棄をする場合に必ず必要となる書類」と、「相続放棄をする人と被相続人(亡くなった方)との関係によって必要となる書類」がありますので、それぞれ順番に説明します。
相続放棄をする場合に必ず必要な書類
以下1~6の書類は、相続放棄の手続きにおいて必ず必要となる書類です。
1.相続放棄申述書
相続放棄申述書は、相続人が相続を放棄するという意思を家庭裁判所に対して申し述べるための書類です。
被相続人や相続人の本籍、住所、氏名等の情報に加え、相続人が相続を放棄する理由や相続財産の概要について記載する必要があります。
2.相続放棄をする方の戸籍謄本
家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う際には、相続放棄申述書と一緒に、「相続放棄をする方の戸籍謄本」を家庭裁判所に提出しなければなりません。
3.被相続人の戸籍謄本
家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う際には、相続放棄申述書と一緒に、「被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本」を家庭裁判所に提出しなければなりません。
相続放棄をする方の戸籍に被相続人も載っている(被相続人の死亡の記載もある)場合には、家庭裁判所に提出するのは1通で十分です。
4.被相続人の住民票
家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う際には、相続放棄申述書と一緒に、「被相続人の住民票」を家庭裁判所に提出しなければなりません。
亡くなった方の住民票なので、正式には、住民票の除票と呼ばれています。
これは、相続放棄を行う場合、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に書類を提出する必要があるためで、どこの家庭裁判所で手続きを行うかを確認するのに必要だからです。
なお、住民票の除票の代わりに、被相続人の戸籍附票でも代用できます。
複数人で申述するとき共通書類は1通でOK!
複数名がまとめて相続放棄をする場合は、必要書類の多くが共通することになりますが、共通する書類は1通で構いません。別々に手続する場合でも、先に手続きした人が提出済みの書類は、後に手続きする人は用意する必要はありません。
5.収入印紙
家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う際には、相続放棄申述書に、800円分の収入印紙を貼って提出する必要があります。
これは、相続放棄を行う際の手数料です。
なお、契約書や領収書に収入印紙を貼るときと異なり、相続放棄申述書に収入印紙を貼った際には、印紙を消印(印紙の端に印鑑を押すこと)してはいけません。
6.郵便切手
家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う際には、郵便切手を提出する必要があります。
家庭裁判所から郵便で通知を送る際等に使用するためです。
なお、一緒に提出する郵便切手の額は、各家庭裁判所によって異なりますが、概ね数百円程度です。
相続放棄をする人と被相続人との関係によって必要となる書類
次に、相続放棄をする人と被相続人との関係によって必要となる書類について説明します。自分はどれに当たるかを確認して書類の準備をしましょう。
被相続人の孫(代襲相続人)が相続放棄する場合
被相続人の孫が代襲相続人となる場合に、相続を放棄したいときは、相続放棄申述書と一緒に、「被代襲者の死亡の記載がある戸籍謄本」を家庭裁判所に提出する必要があります。
被代襲者とは、被相続人よりも先に亡くなった相続人(生きていれば相続人となっていたはずの人)のことで、例えば孫が代襲相続人となる場合は、孫の親(被相続人の子)が被代襲者と呼ばれます。
代襲相続人は、相続開始時に、既に被代襲者が亡くなっているために相続人となるのですから、被代襲者が亡くなっていることを証明するために、その死亡の記載のある戸籍謄本が必要となるのです。
代襲相続については「相続放棄と代襲相続の関係|法定相続順位と代襲相続、必要書類、全員が相続放棄をした場合の財産管理【司法書士監修】」をご参照ください。
被相続人の父母(直系尊属)が相続放棄する場合
被相続人の父母や祖父母等の直系尊属が相続放棄する場合には、相続放棄申述書と一緒に、
- 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
- 第一順位の相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
を家庭裁判所に提出する必要があります。
被相続人の父母や祖父母等の直系尊属は第二順位の相続人ですから、これらの者が相続放棄をするということは、第一順位の相続人がいないか、いたとしても被相続人よりも先に全員亡くなっている場合に限られます。
そのため、被相続人が亡くなった時点で、第一順位の相続人(及び代襲相続人)がいないことを証明するために、上記の戸籍謄本が必要になります。
なお、第一順位の相続人が全員相続放棄をしたことによって第二順位の法定相続人が相続放棄をすることになった場合でも、上記の戸籍謄本は必要になります。
これは、第一順位の相続人が「全員」相続放棄をしているかどうか(他に相続放棄をしていない第一順位の相続人がいないかどうか)を確認する必要があるからです。
なお、相続順位については「相続と法定相続人|相続人の範囲と相続順位、法定相続分について【行政書士監修】」をご参照ください。
被相続人の兄弟姉妹が相続放棄する場合
被相続人の兄弟姉妹は第三順位の相続人ですから、これらの者が相続放棄をするということは、第一順位及び第二順位の相続人がいないか、いたとしても被相続人よりも先に全員亡くなっている場合に限られます。
そのため、第二順位の相続人が相続放棄をする際に必要であったはずの以下の書類
- 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
- 第一順位の相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
に加え、第二順位の相続人が全員亡くなっていることを示すために、
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本
を家庭裁判所に提出する必要があります。
なお、第二順位の相続人が全員亡くなっているわけではなく、第二順位の相続人が全員相続放棄をしたことによって第三順位の相続人が相続放棄をすることとなった場合には、被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本は必要ありません。
法定相続人以外の受遺者が相続放棄する場合
法定相続人以外の受遺者(遺言によって相続財産の遺贈を受けた者)が、その遺贈を放棄したい場合には、特定遺贈と包括遺贈で放棄の方法が異なります。
特定遺贈の場合は、相続人又は遺言執行者に対して遺贈を放棄する旨の意思表示を行うだけでよいのですが、包括遺贈の場合は、相続人と同様に、家庭裁判所において、相続放棄(包括遺贈の放棄)の手続きを行う必要があります。
包括遺贈を受けた者が、家庭裁判所で相続放棄(包括遺贈の放棄)の手続きを行う場合には、「上記の相続放棄をする場合に必ず必要な書類」として記載している書類及び遺言書が必要になります。
遺贈の放棄については「52歳女性 遺産4,800万円、元夫から遺贈された財産を拒否したい|みんなの相続事例集【行政書士執筆】」も併せてご参照ください。
以上のとおり、申請者毎に必要となる書類について説明してきましたが、相続放棄の審理のために必要な場合には、裁判所から追加書類の提出をお願いされることがありますのでご注意ください。
家庭裁判所に提出する相続放棄の必要書類の取得方法
相続放棄申述書の取得方法
相続放棄の手続きに必要な相続放棄申述書は、家庭裁判所でその用紙を手に入れることができます。
相続放棄申述書の形式は全国共通なので、実際に手続きを行う家庭裁判所以外の家庭裁判所でも入手することが可能です。
また、裁判所のホームページ上からもダウンロードすることができます。
相続放棄申述書の記入方法
相続放棄申述書の記入例を、申立人が、成人の場合と未成年者の場合と紹介します。
まず、申立人が成人の場合の記入例です。
次に申立人が未成年者の場合の記入例です。
記入方法を詳しく知りたい方は「相続放棄申述書は自分で作成できる!記入例や提出の流れも解説!」を参照してください。
戸籍謄本の取得方法
相続放棄申述書と一緒に提出する戸籍謄本は、本籍地の市町村役場で取得することができます。
市町村役場が遠方の場合は、郵送で取得することも可能です。
なお、戸籍謄本の取得には、1通あたり350〜700円程度の手数料がかかります。
相続放棄の手続きのために戸籍謄本を取得する際には、必ず戸籍「謄本」を取るようにし、誤って戸籍「抄本」を取ってしまわないように注意が必要です。
また、相続放棄の手続きにおいては、被相続人の「出生から死亡まで」の戸籍謄本が必用な場合があります。
通常は、まず最後の戸籍(または除籍)謄本を取得し、次にその1つ前の戸籍と取得する、というように新しいものから古いものにさかのぼって取得していきます。詳しくは「死亡した人の戸籍謄本の取り方。出生から死亡までの戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)の取り寄せ方法も」を参照してください。
被相続人の住民票(除票)の取得方法
被相続人の住民票(除票)は、被相続人が最後に住所を定めていた場所の市町村役場で取得することができます。
1通あたり350円程度の手数料がかかります。
なお、被相続人の住民票(除票)は戸籍附票でも代用できます。
そのため、被相続人の本籍地と住民票における住所地が異なる市町村の場合には、本籍地において戸籍謄本を取得する際に戸籍附票を併せて取得した方が二度手間にならないのでおすすめです。
収入印紙の取得方法
収入印紙は、コンビニエンスストアや郵便局で購入することができます。
また、ほとんどの裁判所において、印紙売り場が併設されています。
相続放棄の必要書類の提出方法
相続放棄の手続きを行う際には、被相続人が最後に住所を定めていた場所を管轄する家庭裁判所に、相続放棄申述書と必要書類を一緒に提出する必要があります。
提出先の裁判所は、相続人が住んでいるところを管轄する家庭裁判所ではないことに注意が必要です。
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所は、次の手順で調べることができます。
- 裁判所ウェブサイトの「裁判所の管轄区域」のページにアクセス
- 被相続人の最後の住所地の都道府県をクリック
- 被相続人の最後の住所地の区市町村を探す
- 「地方・家庭裁判所」の欄を確認
- 申述先は、「家裁出張所」欄に記載があればその家裁出張所、「支部」欄に記載があればその家庭裁判所支部、いずれも記載がなければ「本庁」の家庭裁判所
各家庭裁判所の裁判所の住所と電話番号は、裁判所ウェブサイトの「各地の裁判所の所在地・電話番号等一覧」のページから調べることができます。
なお、提出先の家庭裁判所が遠方の場合は、郵送で提出することも可能です。
郵送で提出する際には、到着が確認できるよう、普通郵便ではなく、書留郵便等で発送した方がよいでしょう。
持参した場合には、家庭裁判所の窓口で、申述書の内容に書き漏れや明らかな誤りがないかどうかや、必要書類に漏れがないかを見てくれる場合があるので、その場で訂正できるというメリットがあります(ただ、大都市の裁判所などでは、受付段階では申述書の内容は見てくれない場合もあるようです)。
郵送先の部署名等は、各家庭裁判所に電話で確認するとよいでしょう。
なお、家庭裁判所に提出した書類は原則として返還されないので、必要な場合はあらかじめコピーをとっておくことをおすすめします(裁判所によっては、原本と一緒にコピーを提出することで、手続終了後に原本を返還してもらえることもあります)。
また、複数の相続人が同時に相続放棄の手続きを行う場合には、共通する書類(例えば被相続人の戸籍謄本や住民票等)については、それぞれが提出する必要はなく、1通提出すればよいことになっています。
相続放棄の期限については「相続放棄の期限|起算日はいつから?延長の手続き方法と期限【行政書士監修】」をご参照ください。
相続放棄申述書提出した後に必要な書類
照会書に対しての回答書の返送
相続放棄申述書を家庭裁判所に提出すると、後日、家庭裁判所から照会書(状況確認書類)が届きます。
これは、家庭裁判所が、相続人が間違いなく自分の意思で相続放棄の手続きを取ったのかどうかを確認するという目的や、相続人が相続放棄をするに至った理由等を確認するために送られるものです。
照会書が届いたときには、照会書に記載されている質問に回答を記載して署名した「回答書」を家庭裁判所へ返送する必要があります。
相続放棄申述受理通知書の送付
家庭裁判所で相続放棄の申述が受理されると、相続放棄申述受理通知書が家庭裁判所から送付されます。
これは、相続人が相続放棄の申述を行い、これを裁判所が受理したということを通知する書類です。
相続放棄申述受理証明書
相続放棄申述受理通知書を紛失した場合や、相続放棄をしたことを金融機関等に証明する必要がある場合には、別途、相続放棄申述受理証明書という書類の発行を家庭裁判所に申請する必要があります。
まとめ
上記のように、相続放棄申述書の作成は見本を見ながら記載できるのでさぼど難しいものではないことがお分かりいただけたと思います。
しかし、必要書類の準備で、戸籍の収集などは時間や手間がかかることもあります。また、相続放棄の期限である3カ月に迫っていて準備などに時間をかけることも難しいときは早めに専門家に相談しましょう。
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