【事例】連れ子同士の再婚で相続手続きはどうなりますか?(62歳女性 遺産2,940万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談を元に、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は親が連れ子同士で再婚した場合の相続手続きについて、62歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、行政書士FPしゅくわ事務所の行政書士、CFP®・宿輪 德幸さんです。
この記事を書いた人
〈行政書士・CFP〉
相続専門の事務所として2015年に開業。2017年からは、長崎県ではあまり知られていなかった民事信託の取り扱いを開始。既存の制度では対策困難な状況のご家族にも、民事信託の活用で解決策を提案しています。
▶ 行政書士 FP しゅくわ事務所
親は連れ子同士だったけど、3人兄弟で仲良く分けたい
相談内容【相続手続き】
3カ月前に父が亡くなりました。父と母は再婚していて、私は父の連れ子、弟と妹は母の連れ子でした。母は一昨年亡くなっており、その時の遺産は預貯金が少しだったので、全て父が相続しています。 今回父の遺産は子供3人で仲良く分けたいと考えています。必要な手続きについて教えて下さい。
相談者について
- プロフィール:62歳女性
- お住まい:兵庫県
- 相続人:長女(相談者本人)、弟・妹(いずれも義母の連れ子)
- 被相続人:父
- 備考:父は自宅に一人暮らし。自宅は相続後に売却予定。父と弟・妹は、養子縁組をしていません。
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅戸建て | 1,500万円 |
預貯金 | 銀行2行の合計 | 900万円 |
有価証券 | 上場株式 | 540万円 |
相関図
宿輪行政書士が解説!
相談者様のご希望は、ご自身と弟、妹の3人で等分に遺産を分けたいとのことです。弟妹の関係も良好な様子で、円満な相続にしたいところですが、問題が・・・・
アドバイス1 法定相続人は相談者様のみ
遺言が無く相続が発生したときには、法定相続人の遺産分割協議で各人の取得する財産を決めることになります。この協議がうまくいかずに、争いになってしまうことが「争族」と言われます。
遺産分割協議に参加する法定相続人及び順位は、民法で定められていますが、相談者様の場合は配偶者が先に亡くなっていますので、子が法定相続人となります。
相続人となる子には、血縁関係のある子(嫡出子及び非嫡出子)及び養子がいます。養子は、血縁関係はありませんが、相続関係においては実子と同じ扱いとなるのです。
さて、相談者様の場合には弟妹は被相続人と血縁関係が無く、養子縁組もされていないとのことですから、弟妹はお父様の相続人とはなりません。その結果、相続人は相談者様おひとりということになります。
具体的な相続手続きの流れ 相続が発生したとき、遺言があればそれに従い、遺言がない場合には遺産分割協議で分割方法を決定します。今回は、遺言はありませんが、相続人がおひとりですので遺産分割協議は必要ありません。相談者様が単独で遺産のすべてを相続します。
手続きとしては、まず相続人が相談者様一人であることを証明するために、戸籍等を収集します。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍及び住民票の除票
- 相続人の戸籍謄本及び住民票
を収集します。これで、相続人であることを証明できます。
相続手続きは財産の種類により、以下の機関で行います。
- 不動産➢法務局
- 預貯金➢金融機関
- 上場株式➢証券会社
それぞれ、戸籍類以外に必要な書類がありますので、確認が必要です。不動産の相続登記は一般の方には難しいこともあり、専門家である司法書士に依頼する方が多いです。
手続きをスムーズに進めたい方は、戸籍類を集めた後、法定相続人の証明書である「法定相続情報一覧図」を法務局で交付してもらうことをお勧めします。それぞれの手続きに戸籍の束を出す必要がなくなり、相手方も戸籍を確認する必要がなくなるので、手続きが早くなります。
相談者様の場合、「戸籍類を収集➢法定相続情報一覧図交付➢必要書類の確認➢それぞれ手続きの実行」という工程になるかと思われます。手続きの窓口は平日しか開いていませんので、仕事などで平日に時間が取れない方は、初めから行政書士や司法書士などの専門家に依頼するのが確実です。
なお、相続税には基礎控除があり、相続人が一人の場合3,600万円となります。今回の相続では、遺産総額が基礎控除以下ですので相続税は課税されず、税務署への申告も不要です。
アドバイス2 弟妹への財産分与は贈与にあたる
相談者様の希望は、3人で仲良く分けたいというものですが、上記のように遺産は単独で相続となります。弟妹に遺産を渡すとなれば、取得した遺産を贈与するということになります。その場合は、贈与税の対象になります。
贈与税一般税率
課税価格 | 税 率 | 控除額 |
---|---|---|
~200万円以下 | 10% | 0円 |
200万円超~300万円以下 | 15% | 10万円 |
300万円超~400万円以下 | 20% | 25万円 |
400万円超~600万円以下 | 30% | 65万円 |
600万円超~1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,000万円超~1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超~ | 55% | 400万円 |
①贈与税の年間基礎控除額は110万円
例えば、900万円を贈与した場合
贈与を受けた方が、贈与を受けた翌年に税務署へ申告し、191万円を納税しなければなりません。せっかく900万円を贈与しても、税金を納めると709万円になってしまいます。
②基礎控除は翌年になればまた適用される
贈与税の基礎控除は年間(1月1日~12月31日)の金額です。例えば、令和4年と令和 5年に二回に分けて贈与すれば、合計220万円の基礎控除が使えます。
令和3年分の贈与税=(500万円-110万円)×20%-25万円=53万円
令和4年分の贈与税=(400万円-110万円)×15%-10万円=33.5万円
贈与税合計=53万円+33.5万円=86.5万円
1回で贈与するより、贈与税が104.5万円少なくなりました。
③贈与税は贈与者ではなく受贈者に課税される
贈与する相手が複数いる場合、贈与者の立場で考えると110万円×人数の贈与税基礎控除が使えるということもできます。二人に贈与すれば、それぞれ110万円ずつ合計220万円の基礎控除が使えるということです。
加えて、贈与をする相手に制限はありません。例えば弟妹の配偶者に贈与をすることも可能です。令和3年に弟に400万円と弟の奥さんに100万円、令和4年に弟に300万円と弟の奥さんに100万円を贈与した場合、
令和4年分の贈与税=(300万円-110万円)×10%=19万円
弟の贈与税合計=33.5万円+19万円=52.5万円
※奥さんは、110万円以下のため贈与税は0円です。
贈与に関しては、課税を免れるため名義を借りて偽装する人がいます。本当は弟への贈与だけど奥さんに贈与したように見せかけるとか、本当は900万円の贈与だけどそれを何回かに分けただけというような場合です。税務署からこのようにみなされると、後から贈与税を課税される可能性もあります。贈与をする場合には、その都度贈与契約書を作るなど注意が必要です。
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このように連れ子のいる再婚者の相続には思わぬ落とし穴があり、相続発生時に思うような遺産分割が出来ない場合があります。そのため生前のうちから、行政書士や司法書士など専門家にご相談いただき、遺言書を作成するなど早めの対策をとることが大切です。
いい相続では、全国各地の相続の専門家と提携しており、相続手続きや相続税申告、生前の相続相談に対応できる行政書士や税理士などの専門家をご紹介することができます。
専門オペレーターが丁寧にお話を伺いサポートしますので、お困りの方は、お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
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