【事例】相続税申告を忘れていました。罰金などはありますか?(46歳男性 遺産8,000万円)【税理士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、遺産分割協議は終えたものの相続税申告をしていなかったという、46歳男性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、日本経営ウィル税理士法人の税理士・吉岡 潤さんです。
この記事を書いた人
〈税理士〉
資産家・企業オーナーの相続に関するご支援をさせていただいております。民事信託は平成23年から取り組んでおり、信託を利用した生前対策は得意としております。
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相続税申告を忘れたら、罰金を払わなければいけませんか?
相談内容
1年前に父が亡くなり、遺産分割協議は終えたのですが、相続税申告を忘れていました。実家と死亡保険金は母が相続し、現金は自分と妹で半分ずつ相続しています。このくらいの遺産額だと相続税がかかりますよね?申告期限が過ぎてしまった場合、罰金などはありますか?
- プロフィール:46歳男性
- お住まい:東京都
- 相続人:母、長男(相談者本人)、長女の3名
- 被相続人:父
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅(土地) |
2,000万円 |
自宅(家屋) | 1,000万円 | |
預貯金 | 4,000万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:父 受取人:母 |
1,000万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 一日も早く申告を
相続税がかかりそうだとわかっていながら申告期限が過ぎてしまったということですが、結論をお伝えすると、一日も早く申告されることをおすすめします。
相続税がかかりそうだと思っていながら申告をしなかった場合、相続税だけでなく、本来払わなくてよかった、利子に相当する「延滞税」や、罰金のような性質をもつ「加算税」まで納付する必要が生じてしまいます。「延滞税」は、遅れれば遅れるほど金額が増えていきますし、「加算税」は税務署から指摘を受けて申告した場合と、自主的に申告した場合とで金額が違ってきます。税務署から言われる前に、一日でも早く申告と納付をされた方が、負担が少なくすむことになります。
そうは言っても、「ばれなかったら払わないで済むのではないか?」と思われるかもしれません。確かに、相続税の支払いにも「時効」はあり、一定期間をすぎると支払い義務は消滅します。通常は、相続税の申告期限から5年(つまり通常は亡くなった日から5年10か月)、意図的に隠したり嘘をついた場合(偽りその他不正の行為がある場合)には、申告期限から7年(亡くなった日から7年10か月)たてば、納税義務がなくなることになります。
ですが、税務署には、自治体から死亡通知についての情報が提供されており、さらに、不動産の所有状況やお父様の所得の状況、ご家族を含めた銀行預金や証券口座の取引状況などを把握できるようです。相続が発生したことを告げなくても、税務署に見つかる確率が高いと言えます。
なお「延滞税」は年2.4%(令和4年)で、日割りで課税されます (※1)。また「加算税」は、自主的に申告をした場合には10%~15%(※2)ですが、税務署からの指摘を受けてから申告した場合には15%~20%(※3)となりますので、指摘を受けてから申告すると5%税率が高くなります(※4) 。さらに仮装隠蔽があったと認定されれば、40%の重加算税が課税されてしまいますので注意しましょう。
こういった余計な負担が大きくならないうちに、申告と納付を済ませて、すっきりされてはいかがでしょうか。
※2 50万円以下の部分については10%、50万円超の部分は15%
※3 50万円以下の部分については15%、50万円超の部分は20%
※4 加算税は、この他、国外財産調書・財産債務調書の提出の有無によっても、5%軽減されたり5%加算されたりします。
アドバイス2 相続税はいくらになるか
それでは、この場合の相続税は、誰がいくら納付する必要があるのでしょうか。
相続税は、相続財産にいくらの価値があるのかを計算したうえで、基礎控除を超える部分について税率をかけて計算します。この価値を計算するにあたっては、お母様が相続されたご自宅の土地について、「小規模宅地等の特例」が適用できますので一定額の減額が可能です。また、生命保険金については相続人1人につき500万円、このケースでは相続人が3人ですので1,500万円までは相続税がかかりません。合計で8,000万円の財産総額となっていますが、これらの減額の結果、相続税の課税価値は5,400万円ということになります。
基礎控除を超える部分に税金がかかると書きましたが、基礎控除の額も相続人の人数によって違いがあり、3人の場合には4,800万円となります (※5)。5,400万円の財産で4,800万円を超える部分に税金がかかるので、600万円に税金がかかることとなります。相続税の税率は、金額が大きくなるほど税率が高くなる累進税率ですが、このケースでは10%となりますので60万円。この負担を、受け取った財産に合わせて相続人毎に配分します。5,400万円のうち2,000万円を受け取った兄妹の2人は22万2,200円ずつということになります。
同じようにお母様の金額も計算しますが、お母様は、亡くなった方の配偶者ですので、相続した財産が1億6,000万円か法定相続分である2分の1の額のいずれか低い金額までであれば、相続税はかかりません。つまり今回の相続では、子どもお2人がそれぞれ22万2,200円ずつ相続税を納付すれば済んだのです。「8,000万円の相続財産で2,000万円を相続した」わりに、負担は大きくないと思われたのではないでしょうか。
ただし、今回は期限後申告になりますので、これに延滞税と加算税が追加されます。1人につき、延滞税が年5,280円程度、加算税は自主的に申告すれば2万2,000円、税務署から指摘を受けた場合には3万3,000円程度となりそうです。
アドバイス3 相続税の申告手続き
相続税の申告を行うためには、相続人が誰なのかを特定するために、亡くなった方と相続人について戸籍や住民票などの書類が必要になります。
また相続税の額を計算するために、相続財産や債務、ご葬儀費用についての資料も必要です。さらに一定の特例を適用するためには、誰が何を相続するかについて合意した文書、「遺産分割協議書」も必要です。名義変更の際に作成される方も多いと思いますが、遺産の分割の仕方によって相続税額が大きく異なることもあります。詳細な手続きの記載は省略いたしますが、相続税の経験が豊富な税理士に依頼されるとスムーズかと思います。
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