【事例】遺言書の作り直しはできますか?(61歳男性)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、遺言書の書き直しについて、61歳男性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、北摂パートナーズ行政書士事務所の行政書士・松尾 武将さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士〉
前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に大阪府茨木市にて開業。相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、行政書士の指導にも尽力している。
▶北摂パートナーズ行政書士事務所
相続人が亡くなってしまったので、遺言書を作り直したい
相談内容
以前、自分で遺言書を書き保管していましたが、半年ほど前に娘が亡くなってしまったので作り直したいと思っています。どうすれば良いですか?
- プロフィール:61歳男性
- お住まい:東京都
- 相続人:妻、長男、孫(亡くなった長女の娘)の3名
- 被相続人:相談者本人(健在)
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢などは一部架空のものです。
相関図
回答
以前の遺言書を全部撤回するか、一部撤回する旨を記したうえで新たに遺言書を作成することをおすすめします。
アドバイス1 遺言書の相続人が亡くなっている場合、その孫に遺言書の効力が及ぶとは限らない
このケースの場合、多くの方が誤解されていることがあります。
すなわち、「遺言で長女に相続させるとしていた財産なのだから、長女が亡くなったら当然その法定相続人である娘(遺言者から見ると孫)が取得するだろう」ということです。
ところが判例では、「遺言で長女に『相続させる』としていた財産は、この長女が先に亡くなっていた場合に当然にはその娘が取得することはない」と否定しています。
「誤解?なんだとコノヤロー!こういう時、孫ってのは『代襲相続人』ということで、親の代わりに相続人になるんじゃないのか?べらぼうめえ、ちくしょうめえ」
まさかの江戸っ子ご相談者さまのおっしゃる通り。遺言者が亡くなった時に、相続人となるべき者(本事例の場合長女)が先に死亡していた時には、お孫さんは娘さんの代襲相続人として相続人となります。
ただし、長女に対して記されたこの遺言の効力は、当然にはお孫さんに及ばないのです。
では、遺言者がこの遺言書を残し亡くなった場合、長女に相続させるとした財産はどうなるのでしょうか。
遺言の効力が及ばない以上、妻、長男、孫の間で分割協議(遺産をどう分けるかのお話し合い)を行い、分け方を決めることになります。
アドバイス2 先に作成した遺言書に不都合が生じた場合、遺言書を撤回することができる
「なんだとコノヤロー!話し合いをしないといけないんだったら、遺言を書く意味がないだろ!べらぼうめえ、ちくしょうめえ」
隠れ江戸っ子のご相談者さま、落ち着いてください。
先に作成した遺言書に不都合が生じたのであれば、前の遺言書を撤回し、書き直せば問題ありません。
民法でも「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」(第1022条)と規定されています。
ちなみに撤回する場合、先に作成したものが公正証書遺言であったからといって、公正証書でなければ撤回できないということはなく、遺言の方式にしたがっていれば、自筆証書遺言で撤回することも可能です。
私のお客さまの中には労を惜しむばかりに、公正証書正本の該当部分を訂正したり、自筆証書遺言の該当部分を訂正することで乗り切ろうとする方もいらっしゃいました(実話)。
しかし、公正証書においてはそもそもこの訂正には意味がなく(原本は公証役場で保管されているから)、自筆証書遺言においても形式不備ととらえられかねない(自筆の遺言は訂正方法が厳格。そもそも遺言内容の変更を意図した訂正自体が有効か疑問が残る)のでおすすめできません。遺言内容の変更・訂正は遺言をもってすることを原則とし、ここはしっかり遺言書で撤回しましょう。
アドバイス3 遺言書を撤回する方法
撤回する方法は、先に作成した遺言書を全部撤回する方法と、不都合となった部分のみ撤回する一部撤回の方法があります。
撤回したうえで、新たな遺言書を作成するのです。
「ちょ、ちょ、ちょっ待てよ」(なぜかキムタク風)
「あっしが、元気なうちは書き直すこともできましょうが、体が弱っちまったら書き直せなくなるんじゃ・・・」
ご慧眼です。少々みくびっておりました。
遺言書は何度でも書き直しができます。ただし、遺言者に遺言能力が存する間には、です。遺言者が遺言能力を喪失した場合、本事例のような事柄が生じた時にはもはや対応ができません。
アドバイス3 いざという時に備えて、遺言書に「予備的遺言」を入れる
では、このような場合はお手あげになるのでしょうか?対応策はないのでしょうか?
対応策としては例えば、本事例の遺言書に「長女が遺言者と同時に又は先に死亡したときは、本遺言で長女に相続させるとした財産を、長女の娘に相続させる」という一文を追加すれば、一定程度解決できるでしょう。
このような記載方法を「予備的遺言」といいます。なお、予備的遺言の法的性質は停止条件付遺言なので、仮に長女が死亡していなかった場合には本文通りに長女が財産を相続することとなります。
本事例の遺言者が次に遺言書を書き直すにあたっては、予備的遺言の作成を検討しても良いでしょう。
以上さまざま述べましたが、遺言にまつわるトラブルを避けるため、こういったアドバイスを受ける機会を持つことは重要だと考えます。
例えば公正証書遺言を作成する際には、あまり聞きなれない上記「予備的遺言」についても当然言及されるからです。
これが、遺言書の書き直しにあたって公正証書遺言をおすすめする所以であるといえるでしょう。
「自分で遺言書を作成する自信がない…」という方には、行政書士などの専門家に作成を依頼することもできます。ぜひ、ご検討ください。
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専門オペレーターが丁寧にお話を伺いサポートしますので、お困りの方は、お気軽にご相談ください。
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〈行政書士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士〉
前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に大阪府茨木市にて開業。相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、行政書士の指導にも尽力している。
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