【事例】幼い子どもを残して亡くなる私。どのように子どもに遺産を渡していけば良い?(40歳女性 資産2,300万円【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、本人が亡くなった後の財産の管理について、40歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、特定行政書士森田法務事務所の行政書士・森田 哲也さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士、宅建士、外国人雇用管理士、申請取次行政書士、特定行政書士、2級FP技能士〉
当職は、行政書士業務は勿論のこと、事件の複雑さに応じて、弁護士、税理士、司法書士、土地家屋調査士、宅建士、遺品整理業者等と連携して、当職を窓口とするワンストップサービスを展開し、お客様のご依頼に応じて最適な法務サービスを提供しております。まずはご相談ください。
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子どもたちに遺産を残す、ベストな方法は?
相談内容
私に病気が見つかり、まだ幼い長男を残して亡くなりそうです。姉は長男の面倒を見てくれると言っていますが、万が一、私の遺産を悪用しないか心配です。どのように準備しておけば良いでしょうか?
- プロフィール:40歳女性
- お住まい:和歌山県
- 相続人:長男(5歳)、姉の2名
- 被相続人:相談者本人(健在)
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
預貯金 | 1,300万円 | |
有価証券 | 500万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:相談者本人 受取人:長男 |
500万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
はじめに
今般のご相談に際し、お子様の将来につき大変ご心配のことと存じますが、可能な限り、ご参考になること、今できることをご紹介できればと存じます。
アドバイス1 今、相談者様に何かあった場合、ご子息にすべての財産が相続される
仮に、相談者様が被相続人となった場合の相続で、現在の家族構成が配偶者がおらず未成年のご子息1名だけとなりますと、推定相続人はご子息のみとなります。
その場合、他に養子等がいなければ、相続人は1名だけですからご子息にすべての遺産が行くことになります。
この場合は、いわゆる遺産分割協議は必要なく、相談者様のご遺産である預貯金、有価証券等は、相談者様が亡くなった瞬間にすべて(負債が残っていれば負債も含め)が相続されることとなります。たとえ遺言等がなかったとしても、戸籍において相続人が一人ということが証明できますのでそのままご子息が相続できます。
しかし現実問題として、相続人である未成年者は何らの意思表示も必要なく相続権は得られますが、例えば、相続した後、預金の解約をしたり保険金の支払い請求をする、あるいは有価証券の名義変更をしたり、特別口座の開設をするなどという法律行為を行う場合は、民法第5条の規定により、法定代理人によって行う必要があり、さらに相談者様のケースでは、未成年後見人の開始に関する民法第838条1項が適用され、未成年後見が開始されますので、同法第839条1項により、相談者様が「遺言」によって未成年後見人を生前に指定しておくべきと考えます。
もし、この規定により遺言等により未成年後見人が指定されなければ、相談者様が亡くなった後、利害関係人等の請求により家庭裁判所において未成年後見人が選任されることとなります(同法第840条1項)。
ただし、まったくの見ず知らずの人間で第三者(例えば弁護士等)が適任として選任されるケースもあり、可能な限り、遺言書においてご親族などの候補者を指定しておく方が、ご子息ご本人にとって無難なことと存じます。
そして、遺言書にて未成年後見人が指定された後、相談者様が亡くなられますと、その未成年後見人が就職を辞退しない限りその方が選任され、ご子息が成年になられご自身で財産管理が出来るようになるまで、ご子息に代わり財産管理を行うこととなります。
今回のご相談では、相談者様の姉上様が面倒を見てくれるとのことなので、ご子息の心情的には姉上様が適任かもしれません。
ただし、相談者様の遺産を悪用しないかとご心配とのことですが、未成年後見人が選任されますと、家庭裁判所の監督が入りますのでそうそう無理はできないかとは存じます。
なぜなら、例えば家庭裁判所が適宜な者に未成年後見人の事務を調査させたり、臨時的に財産管理をさせる権限もありますし、また、未成年後見人に解任事由があると思料するときは、解任を行うこともできるようになっています(家事手続規則97条他)。
しかし、それでは結局、また未成年後見人を選任しなければならなくなり、根本的な解決には至らないかもしれません。
アドバイス2 他の手段として、「民事信託」が挙げられる
前記の方法では、未成年後見人の選任が必要であるとの話でしたが、本件では結局未成年後見人は必要になるとは思います。
しかし、より長期にわたり財産管理が必要になるケース、例えばご子息が成年になったとしても、現行民法では18才で成年になり、その段階で未成年後見は終わりますので、現実問題として、ご子息が資産管理がすぐにできるのかいささか疑問ではあります。
そこで、未成年後見人選任の必要性はありますが、ご子息が相続された遺産を、より安全に管理し、運用も視野に入れ、場合によっては処分することも可能である方法のひとつが、いわゆる「民事信託」です。
「信託」とは先に述べました、民法の相続編とは別の規律である、債権関係法の一部です。
内容が多少わかりにくいため簡単に述べますと、信託とは「特定の者が一定の目的に従い、財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう」(信託法第2条1項)、その「信託行為」とは、「特定の者との間で信託に関する契約を締結する方法」または、「特定の者に対し、一定の目的の達成の為必要な行為をすべき旨の遺言をする方法」等(同法第3条1項、2項)により、信託の目的たる行為を達成するために行われる行為を指します。
ここに出てくる主な当事者として、「委託者」(信託をする者)、「受託者」(信託の目的を達成するため必要な行為をすべき義務を負う者)、「受益者」(受益権を有する者)があります。
本当に単純化した説明ですが、民事信託とは、ある一定の財産を、信頼できる人(受託者)により管理運用してもらうことにより、その信託行為により、受益者たる者に生活費や看護費用など身近な費用などを給付し、あるいは、大切な財産を確実に、承継させたい者に対して承継させる、という「信託の目的」を達成させる枠組みと言えます。
これを本ケースに当てはめますと、例えば、相談者様を「委託者」、姉上様を「受託者」、ご子息を「受益者」とする、「信託契約」または、遺言書により、相談者様の亡き後に効力を生ずる「遺言書」において信託の指定をすることにより、委託者たる相談者様に何かあったとしても、受託者はその委託を受けた財産を管理、運用、処分することにより生じた利益を、受益者たるご子息に継続してお渡しする、という行為を行う枠組みを作ること、これが民事信託の応用といえます。
信託法はかなり古くからある法律ですが平成19年に改正施行され、この改正により、ご家族間の身近な関係においても信託契約を締結しやすくされ、従前、会社等の法人等で行われていた商事信託と主なスキームは変わらないが、その応用で身近な法律関係に利用できるようになり、最近、巷で検討され実施されるケースが増えています。
「家族信託」等で使われるケースもありますが、法律上は商事信託に対する用語として民事信託と呼ばれます。
アドバイス3 民事信託のメリット、デメリットなど
民事信託は、先に述べた民法相続編に規律される、「相続」のように、ある一定の状況が生じたときに当然に効果が生ずるわけではなく、「契約」または「遺言」等、当事者の意思表示により行われる法律行為です。
したがいまして、特に契約の場合、契約書の締結が必須ですが、この契約締結時に契約当事者の意思表示がなされない場合(認知症など、或いは行為無能力者の行為など)は、その契約の締結が出来ず、発効させることができません。また、遺言の場合は、遺言書作成時に遺言能力が必要なことは当然です。
しかし、そのような障害がなく、契約の意味や義務を理解でき、契約締結能力があれば、例えば、委託者が生存中は受託者に対して管理運用を委託した信託財産の受益権を自身が享受し、自分の死後は受益者の変更により、例えば配偶者やご子息に対し「当初受益者死亡後の受益者」とすることにより、長期にわたり連続して信託の目的達成を目指すことができる、「遺言代用型信託」という活用もできます。
つまり、自分の生存中ばかりか、死亡後においても、長期の展望をもって、ご家族の将来の幸せの道筋を作ることを法律的に明確にすることもできるのです。
ここで重要になるのは、受託者、つまり信託財産を管理運用することを受託した人の、「管理・運用」能力です。本件では、受託者候補者の姉上様が仮に受託者を引き受けてくれたとしても、姉上様の人格により、信託の目的が達成されないことにもなりかねません。
特に民事信託は一般的にその契約の継続期間が長いことが多く、自然人が当事者の場合、その責任を果たすことが物理的にもできない場合もあり得ます。
ただ、信託法上は受託者の義務がかなり強化されており、仮に受託者が受益者に対し不利益などを生じさせた場合、法律上の罰則が適用されることとなり、法律の監視も一定程度及びます。
ですから委託者としては、本当に信頼できる人を受託者に指定しなければなりません。その受託者が誠実に、受託者の義務を履行してくれる人でなければ、せっかく信託契約を締結しても、或いは遺言を書いても「絵に描いた餅」になってしまいます。
つまり、信託法という法律により厳しく規律はされているが、その履行は当事者の誠実さにかかっており、誰を選任するか、ということが、信託目的の達成に一番必要なこととなるでしょう。
今回のご相談では、相談者様のご意向に沿った解決方法はあるものの、実際の枠組みを作り、実行する際には、内容の吟味と慎重な人選が必要であり、そこが重要なポイントと言えるかと存じます。
民事信託については、対応実績のある士業が限られるため、専門家選びが重要です。また効力のある遺言書を用意するには準備も必要ですので、民事信託や相続に詳しい専門家に早めにご相談されることをおすすめします。
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