【事例】身内のいないおひとりさまです。そろそろ老後の準備をしたいですが、どう備えればよいでしょうか?(66歳女性 資産5,500万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、おひとりさまの終活について、66歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、安部行政書士事務所の行政書士、安部亮輔さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士〉
平成23年行政書士登録。10年以上のキャリアがあり、多くの相続案件をご依頼いただきました。相続人が多数いる複雑な案件にも自信があります。
「身内の死という、人生において最も悲しい時期を迎えられているお客様の手助けをしたい」という理念のもと、業務に励んでおります。
▶安部行政書士事務所
終活のためにどんな準備ができますか?
相談内容
ある程度の貯金もあり、自由気ままなおひとりさまとして人生を楽しんできました。しかし60代後半になり、自分が認知症になったり亡くなったときのことが気がかりになってきました。身寄りに頼らずできる対策はありますか?
- プロフィール:66歳女性
- お住まい:兵庫県
- 被相続人:相談者本人
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅マンション 60㎡ |
2,000万円 |
預貯金 | 3,000万円 | |
有価証券 | 500万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
アドバイス1 認知症になったときは成年後見制度を利用できる
今回の相談者様には、まず成年後見制度をご説明しました。
以下、成年後見制度についての基本的な内容を説明します。
1.成年後見制度とは
成年後見制度は、精神的な障害や高齢などで自分の意思決定が難しい状況にある成年者に対して、裁判所が後見人を指定する制度です。
後見人は本人の利益を守り、生活や財産に関する重要な決定を代理で行います。
2.対象者
- 高齢者や認知症患者
- 精神的な障害を抱える人
- 身体的な障害により自己管理が難しい人
3.後見人の種類
- 家庭裁判所後見人: 裁判所が指定する公的な後見人
- 任意後見人: 本人が自分の判断能力が十分なうちに信頼できる人を選んで任命。裁判所の介入がない範囲で行われます。
4.後見の範囲
- 財産管理: 財産や財務に関する取引や契約の管理
- 生活全般: 医療や日常生活に関する重要な意思決定
5.後見の手続き
家庭裁判所に申し立てを行います。この際、医師の診断書や関係者の意見書が提出されることが一般的です。
6.注意点
- 後見人は本人の利益を最優先に考えなければなりません。
- 後見の範囲は法定のもので、それを超える取引には裁判所の許可が必要です。
成年後見制度は本人の保護と利益を守るために存在しています。そのため、その実施には慎重なプロセスが組み込まれているといえるでしょう。
後見制度が必要かどうかは個々の状況によりますが、家族(利害関係者)と相談し、必要であれば専門家の意見を仰ぐことが重要となります。
アドバイス2 認知症になる前であれば、任意後見制度を利用できる
では、認知症等の成年後見制度が想定する前段階の場合にどのような方法があるのか。ここでは任意後見制度について詳しく見ていきます。
任意後見制度は、認知症などで将来的に自分の意思決定が難しくなる可能性がある場合に、あらかじめ指定した後見人が代理で意思決定を行うための制度です。
以下、任意後見制度の基本的な手続きと注意点をご説明します。
任意後見制度の手続きの流れ
1.任意後見契約の作成
本人が後見人となる人を選定し、意思決定能力があるうちに任意後見契約書を作成します。契約書には後見の範囲や条件、後見人の権限などが明確に記載されます。
2.証人の立会い
契約の作成時には証人の立会いが必要です。証人は契約が本人の意思に基づいていることを確認します。
3.公正証書への変更
任意後見契約をより法的な形にするために、公正証書に変更することができます。公正証書とは公証人が立ち会い、契約内容を確認・証明するものです。
4.契約書の保管
作成された任意後見契約書は、安全な場所に保管しましょう。後見が必要になった際にスムーズな手続きを行うためにも必要です。
任意後見制度の注意点
1.後見人の十分な検討
後見人の選定は慎重に行います。信頼性や責任感があり、本人とのコミュニケーションが円滑にできる人を選びましょう。
2.契約内容の明確化
任意後見契約の内容は十分に明確にし、後見の範囲や権限を具体的に定義しておくことが重要です。
3.法的なアドバイスの取得
任意後見契約の作成前に、法律の専門家に相談し、アドバイスを受けることが望ましいです。
4.契約の更新と見直し
生活状況や法律の変更に合わせて、定期的に契約を見直し、必要に応じて更新すると良いでしょう。
5.公正証書の取得の検討
公正証書に変更することで法的な効力が高まります。この点も検討してみてください。
任意後見制度は、将来の不測の事態に備えるために役立つ手段です。しかし、専門家のアドバイスを受けつつ、慎重に進めることが大切です。
アドバイス3 死後事務委任契約や遺言書で対応することも可能
また他にも死後事務委任契約や遺言により対応することも可能です。
死後事務委任契約とは
死後事務委任契約は、本人が生前に自ら選んだ委任者(任命された人)に、自分の死後に残された遺産や法的な手続きに関する業務を委任する契約です。この契約を結ぶことで、遺族や委任者は、あらかじめ指定された業務を円滑に進めることができます。
手続きの流れと注意点
1.契約の作成
専門家や公証人の助言を得ながら、死後事務委任契約を作成します。契約内容には、委任者の権限や業務内容が具体的に明記されます。
2.委任者の選定
次に委任者を選定します。委任者は、信頼できる人物であり、法的な手続きや財産の分割などに適切に対応できる人を選ぶことが重要です。
3.契約の保管
作成された契約書は安全な場所に保管します。関係者や遺族にもその存在を伝えておきましょう。
4.業務の範囲
契約には、委任者が担当する業務や権限が明確に記載されていなければなりません。これには遺産の整理、債務の処理、法的手続きなどが含まれます。
5.契約の更新
生活状況や法的な変更に合わせて、契約を定期的に見直し、必要に応じて更新することが良いでしょう。
6.法的効力
死後事務委任契約は法的効力を持つものであり、遺族や関係者は委任者が契約に基づいて遺産分割や手続きを進めることが期待されます。
死後事務委任契約は、遺族に負担をかけずに遺産の整理や法的手続きを進めるために有用なツールです。遺言書と組み合わせて使用されることがあり、個々の状況に応じて検討すると良いでしょう。
遺言書作成の流れと注意点
次に遺言について説明します。
1.遺言の定義
遺言は、本人が死後に遺産分配や遺産の処理、特定の意思や希望を示すために作成する文書です。これにより、本人の意思が法的に尊重され、死後の事項が円滑に進行するようになります。
2.遺言の主な目的
- 遺産分配の希望を明確にする
- 特定の人に対する贈与や遺言執行者の指定
- 幼少子がいる場合:後見者の指定
3.遺言の作成方法
- 手書き(自筆証書)遺言: 本人が手書きで遺言を書き、署名・日付を入れる方法
- 公正証書遺言: 公証人の前で遺言を口述または書面で述べ、公正証書にする方法
4.遺言の種類
- 一般遺言: 遺産分配など基本的な事項を含む遺言
- 特殊遺言: 特定の条件や要件を含む、特殊な指示がある遺言
5.遺言執行者の指定
遺言には、遺言執行者を指定することができます。遺言執行者は、本人の遺言に基づき、死後の手続きを遂行します。
6.法的効力と遺族への通知
遺言は法的な効力を持ちます。死後、裁判所が遺言を確認し、その内容に従って遺産分配などが行われます。また、遺族に遺言の存在を通知することが一般的です。
7.遺言の更新
本人が生前に作成した遺言は、変化する状況に合わせて定期的に見直し、必要に応じて更新することが重要です。
遺言は本人の最終的な意思を表すものであり、法的な手続きを円滑に進めるためにも重要な文書です。
本人の意思と異なる内容とならないためにも、遺言を作成する際には、専門家のアドバイスを受けることを推奨します。
まとめ
今回の相談者様にはそれぞれの制度の違いを説明し、任意後見制度の活用をおすすめしました。
あわせて死後事務委任契約をおこない、相談者様が亡くなったときは、当事務所で相続手続きを代行することになりました。
相続人のいないおひとり様は、認知症になる前から対策をしておくことが重要です。まずは相続の専門家にご相談ください。
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