【事例】長年放置されてた倉庫の所有権が他人名義だった(50歳男性)【行政書士執筆】

「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、亡くなった父の相続財産の倉庫が他人の名義だったという、50歳男性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、栂村行政書士事務所の行政書士・栂村 基文さんです。
目次
この記事を書いた人

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▶栂村(つがむら)行政書士事務所父の古い倉庫が他人の名義だった
相談内容
被相続人A(父)の不動産調査をした際、鉄骨の倉庫が他人のC名義となっていました。父が土地を購入した際、倉庫の所有権移転登記の漏れではないかと思います。40年前のことで、売買契約書や権利証も紛失しており、当時の売主の行方も不明です。どうすればよいでしょうか。
- プロフィール:50歳男性
- お住まい:福岡県
- 相続人:長男(相談者本人)の1名
- 被相続人:父
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢などは一部架空のものです。
相関図

アドバイス1 倉庫の名義人の所在調査
近所の方に聴き取りをおこない、本件倉庫の隣の土地を購入した方から売買契約書を見せてもらったところ、倉庫の名義人Cの父親(既に死亡)の名前が判明したので、住民票を取得し、戸籍の附票を取得したところ、倉庫の名義人Cの住所も判明しました。
戸籍の附票とは、本籍地の市町村において戸籍の原本と一緒に保管している書類で、その戸籍が作られてから(またはその戸籍に入籍してから)現在に至るまで(またはその戸籍から除籍されるまで)の住所が記録されています。
さいわいCは、出生時から戸籍を変更していなかったので、戸籍の附票を取ることができ、現住所も確認することができました。Cの住民票を取得し、依頼文に添付資料を付けて郵送で依頼することとしました。
戸籍の附票の便利な使い方
戸籍の附票にはいくつか使い方があります。
- 戸籍の附票には今までの住所が記録されていますので、引越しをした人が、いくつか前の住所から今の住所までを証明したい場合に、この証明をとることで証明できる場合があります。
- ただし、本籍を変更(転籍)していると、現在の附票には現在の本籍にした日以降の住所しか記録されていません。
- 現在の附票で、証明を必要とする住所までさかのぼることができない場合は、転籍前の戸籍の除附票をとることになります。
- 結婚などで、親の戸籍から独立して夫婦の戸籍を作った場合も同様で、結婚後の戸籍の附票には婚姻届を出した時点以降の住所しか記録されていませんので、結婚前の住所にさかのぼって証明したい場合は、(自分が結婚した時点での)親の戸籍の附票をとることになります。
*附票は戸籍簿と一緒に保管されているので、請求の際は本籍の表示(○番地か○番まで)と筆頭者氏名を事前に確認しておいてください。
今回は戸籍を変更していなかったので、住所の変遷と現住所を確認することができました。
アドバイス2 所有権移転方法
倉庫の名義を変更するために次の2つの方法を検討し、調査しました。
(1)倉庫名義人Cに倉庫を倉庫を取り壊してもらった後、建物滅失登記をする方法
① 建物取り壊しの費用
- 市役所の補助対象とはならず100万円以上かかる
- 屋根のスレートが石綿を使っている等の課題がある
- 建物取り壊し手続きはCが行わなければならない
② 建物滅失登記はCが行なわなければならない
⇒ 費用面及び手続き面等に課題
(2)贈与契約による所有権移転方法
① 贈与契約選定理由
- 倉庫の評価額が26万程度で、贈与税がかからないこと(登記に関する登録免許税も評価額の2%程度)
- 不動産取得税は、評価額の3%程度で軽微なこと
- 登記の申請人は、登記権利者B(今回の相談者で相続人)が申請できること(ただし、登記義務者Cの委任状が必要)
⇒ 経費面及び手続き面から贈与契約による所有権移転方法を採用
アドバイス3 贈与契約を原因とする所有権移転登記
贈与契約による所有権移転方法には、主に2つの手順が必要です。
(1)贈与契約書の作成
- 贈与者と受贈者間の贈与契約書の作成
- 収入印紙200円
- 贈与者の印鑑登録証明書添付
- 本人確認のための免許書等のコピー
(2)贈与契約を原因とする登記申請書の作成
【添付資料】
- 登記原因証明書(贈与契約書)
- 代理権限証明情報(登記義務者の委任状)
- 印鑑登録証明書
- 受贈者の住民票(戸籍の附票)
- 固定資産記載事項証明書
- 登記識別情報(権利書)
*提供できない場合は、「失念」等にチェックをします。
*登記申請人は本来登記義務者Cと登記権利者Bが共同して行うが、今回は登記権利者が単独で行うため、登記義務者Cの委任状を添付する必要があります。
アドバイス4 権利書がないときはどうするのか?
権利書は再発行できません。権利書を紛失した場合の登記の仕方は2つの方法があります。
- 事前通知制度
- 本人確認制度
1 事前通知制度
登記が完了する前に法務局から通知される方法で、その通知に回答して初めて登記が完了します。
(登記申請の手順)
- 権利書以外の全ての添付書類を付け、登記申請をします。申請書の失念欄にチェックをします。
- 申請すると、法務局から登記義務者Cに対して、本人限定郵便で通知書が届きます。
- 回答書の法務局提出は、法務局が指定した期限内にしなければなりません。
期限までに、署名・実印を押した回答書が届いて初めて、登記が完了します。
2 本人確認情報制度とは?
司法書士等の資格代理人による本人確認情報の提供制度です。厳格な要件があります。今回は詳細を省くこととします。
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