相続登記における司法書士の役割|遺言執行人、検認手続、遺産分割協議書、相続放棄など
親族が亡くなり不動産の相続登記をしたい時、司法書士に依頼すれば良いというイメージを持っている方は多いかもしれません。他方で、具体的に司法書士はどのようなことをどれくらいの予算でやってくれるのか、イメージできる方は少ないと思います。
この記事では、相続登記をする場合の司法書士の業務内容や予算について紹介します。
不動産の相続における司法書士の役割
相続が起きた際に相続手続きを行うことができる専門家はたくさんいますが、今回は司法書士が相続手続きの中でどのような役割を担っているのかを説明していきます。
相続登記
まず、相続財産の中に不動産が含まれているのなら、司法書士に不動産登記の申請を依頼することができます。
不動産を相続するときには、被相続人から相続人へと不動産の所有権の名義を移転しなければなりません。また、不動産に抵当権(担保)が設定されている場合には、抵当権の抹消登記をする必要があることもあります。
相続財産の不動産を売却して現金化し、そのお金を相続人の間で分けたい場合にも、いったん不動産の所有権を相続人の名義に変えてから売却相手に所有権の移転登記をしないといけないので、2度に渡って不動産登記の申請が必要になります。
抵当権抹消登記
不動産登記簿に抵当権(担保権)が設定されていることを示す記載がされていることがあります。
抵当権が設定されている不動産は第三者から見ると、その不動産をいつ差し押さえられてしまうかわからないという「リスク」になってしまいます。このことから不動産登記簿にある抵当権の記載は抹消した方が良いのです。
他方で抵当権は、その元となっている住宅ローンなどの債務を全額返済したとしても自動的に消えるものではありません。
住宅ローンなどの債務の全額を返済したからといって、法務局が自動的に抵当権を抹消してくれることはありませんし、住宅ローンの借り入れ先金融機関が気を利かせて抵当権抹消(担保権抹消)してくれることものでもありません。
相続した不動産に債務を完済した抵当権が記載されている場合や相続をしたタイミングで債務を完済した場合には、抵当権の抹消(担保権抹消)登記の申請は不動産の所有者が積極的に手続きをしなければならないものなのです。
通常は抵当権の抹消登記の申請をする機会はありませんから、多くの方は金融機関からの紹介などで司法書士に不動産登記の申請を一切を任せることになると思います。
遺言書の作成・検認、遺言執行
相続手続きの中では不動産登記だけでなく、遺言書の作成や遺言の執行を司法書士に依頼することもできます。
遺言執行とは、被相続人が残した遺言書の内容を実現することで、司法書士はその実現のために「遺言執行者」になることができます。遺言執行者がいないと、相続人が自主的に遺言の内容を実現しないといけないので、相続手続きがスムーズに進まないことがあります。
あらかじめ知識や経験の豊富な司法書士などの専門家を遺言執行者にしておくと、相続人は遺言の執行に関する手続きを行わなくても良くなるので、遺言書の内容をスムーズに実現させることができます。
たとえば、遺言の執行に不動産登記が必要になるケースで不動産登記の専門家である司法書士を遺言執行者に定めておけば、相続人が不動産登記の手続きをしなくても良いだけでなく、新たに司法書士を探して不動産登記を依頼しなくても、遺言執行者の司法書士が相続登記の手続きをすることができます。
また司法書士に遺言書の検認を依頼することもできます。
遺言書の検認とは、被相続人が生前に作成した遺言書が真正なものであることを確認するために、家庭裁判所において遺言書の状態や内容を確認してもらい、保存してもらうことです。自筆証書遺言や秘密証書遺言のケースで必要となります。これらの遺言は、発見者や他の相続人、第三者によって改変されるおそれがあるので、検認によって発見当初の状態を保存し、その後の変造を防ぎます。
検認するためには家庭裁判所への申立てが必要ですが、司法書士には家庭裁判所への申立ての書類作成を依頼できます。遺言書が見つかった場合には、開封せずに家庭裁判所での検認を行うことが必要ですので、すぐに開封をすることのないよう注意をしましょう。
遺産分割協議書の作成
遺言書が存在しない場合などに相続人の間で遺産分割協議をして、その内容を記した遺産分割協議書を作成することがあります。
司法書士はこの遺産分割協議書を作成することもできます。ただ、遺産分割協議書の作成を司法書士に依頼するときはこれからの相続手続きをスムーズに行うために注意しなければならない点があります。司法書士は不動産の登記に関する手続きをすることを得意としています。また、不動産の登記は弁護士を除いて司法書士にしかできません。
不動産の所有権の移転や抵当権の抹消などの登記の申請が発生する事案であれば、遺産分割協議書の作成の段階から司法書士に依頼するのが賢いかもしれません。ただ、そうでないのであれば司法書士に依頼するよりも、弁護士や行政書士などの他の専門家に依頼することをおすすめします。
相続財産に不動産が含まれているのであれば、相続手続きを個別にそれぞれの専門家に依頼するよりも、司法書士にワンストップでお願いしたほうが、スムーズに相続手続きを進められるでしょう。
相続放棄
相続放棄は、遺産の中に借金がある場合などに用いられる方法です。相続放棄をすると、プラスの相続財産もマイナスの相続財産も含めて一切の遺産を相続しなくなるので、借金の相続を避けることができます。
一方、不動産や金融資産などのプラスの相続財産を相続することができなくなります。相続放棄をするためには家庭裁判所への「相続放棄の申述」という手続きが必要になります。この相続放棄の申述に必要な書類作成代理を司法書士に依頼することができます
司法書士とほかの専門家との違い
司法書士の他に「士業」と聞くと「弁護士」や「税理士」、「行政書士」などが思い浮かぶと思います。ここでは、司法書士とこれらの士業との間の相続手続きにおける違いを紹介していきたいと思います。
弁護士
「相続人の間で遺産分割の割合で揉めている」「兄弟姉妹の間で法定相続分の取り合いが起きている」「不動産の分割方法がわからない」「誰が土地を相続するのか揉めている」「遺留分を侵害されている」「内縁者の存在が明るみになった」など相続人同士でトラブルになっている場合には弁護士に相談するべきです。
もし相続人の間の関係性がこじれて、遺産分割調停や審判などの裁判問題に発展した場合、あなたを守ってくれる士業は弁護士しかいません。また、法律上の紛争を解決できる士業は弁護士しかいません。
これらの紛争の中で、自らの主張を自分自身ですることもできますが、客観的な事実ほど第三者からアドバイスを受けた方が効果的ですし、裁判や法律の知識や経験が豊富な弁護士に依頼することでスムーズに手続きを進めることができます。
また、裁判人ってしまうと長期戦になってしまいますので、裁判に持ち込むことなく紛争を解決するために弁護士に依頼することもおすすめできます。揉めごと・トラブルなどが起こっているときは、弁護士に相談するとよいでしょう。
税理士
相続に関連して税理士ができることは「相続税の申告」「相続財産の評価」「準確定申告の申告」の3つです。相続とセットで考えられる「相続税」の問題ですが、税理士は複雑な相続税に関する相談ができるほか、実際の相続税の申告は税理士にしかできません。
ただ、一方で遺産分割協議書の作成などは行うことができない点に注意が必要です。税理士に依頼することで相続手続きの中でも相続税についてスムーズに手続きができるでしょう。
行政書士
相続手続きでは遺産分割協議書や財産目録など様々な書類を作成する必要があります。また、死亡届や埋葬許可証など亡くなった時から、生命保険の解約や年金、相続財産が移転される時まで、多くの手続きが存在します。
行政書士は、行政機関などへ提出する書類や契約書の作成をすること、行政機関などへ申請や届出などの手続きをすることを得意としています。つまり、相続手続き全体を通してその知識や経験を活用してサポートをできる士業が行政書士と言えるでしょう。
司法書士へ依頼したほうがいいのはこんな人
「ほかの専門家との違い」で説明した通り、それぞれの士業によってメリット、デメリットがあります。その中でも特に「司法書士に依頼したほうがいい人」は次の3つに当てはまる方です。
忙しくて自分で手続きする時間がない人
これはすべての士業に依頼する時に共通することですが、市区町村役場や法務局、銀行などは基本的に平日の日中のみの対応が原則です。そのため平日の日中に役所や銀行などを訪れて必要な書類を集め、相談に行き、その書類を提出する手続きをする必要があります。ですので、忙しくて平日に役所や銀行に行く時間がない方は司法書士に依頼したほうが良いでしょう。
不動産の権利関係が複雑な方
例えば曽祖父、祖父など、親の代以上の人間の名義になっている不動産を相続する場合も、司法書士に依頼することをおすすめします。相続登記をすることは義務ではない(法律の改正により相続登記の義務化が決定されました。令和6年4月1日より施行されます。そのため土地・不動産の取得を知ってから3年以内に登記を行わなければなりません)ので、場合によっては戦前の旧民法を紐解き、相続人を確定しなければならない可能性があるため、一般の方には難易度が高いです。
代を遡るほど相続人の数が膨大になるため、相続人調査や遺産分割を自分たちだけで行うことが難しくなります。ほとんどの司法書士では、電話相談や面接相談を実施しています。司法書士では法務局にはできない、登記を前提とした法律相談にものってくれます。
相続登記の難しさや手間、それにかかる時間を考え、司法書士へ依頼することも検討しましょう。
相続財産に不動産が多数ある
相続財産に不動産が多数含まれている場合、相続手続きの中で不動産登記の申請の部分の負担が大きくなってくると思います。ですので、弁護士や税理士、行政書士よりも不動産登記に専門性がある司法書士に依頼したほうがいいでしょう。
また、不動産が遠方にある場合、相続登記はその不動産の所在地を管轄している法務局で申請手続きを行う必要があります。ですので、相続した不動産が遠方の場合は、遠方の法務局で手続きを行うことになります。
この場合も司法書士へ依頼した方がいいケースと言えるでしょう。なぜなら何度も法務局へ行くことが時間的に困難であり、法務局へ行く交通費がかさむことになるからです。書類に不備があった場合も、すぐに法務局へ行って補正手続きを行うこともできません。
なお、郵送で申請することもできますが、ただでさえ慣れない手続きなので、非常に難しく感じることでしょう。先ほども紹介した通り、法務局などは平日の日中でしか手続きを行うことができませんので、相続財産に不動産が多く含まれている場合はかなり大変な手続きになります。
相続問題を司法書士に依頼した場合の費用
相続手続きの依頼はほとんどの方が初めてだと思います。正しい相場額を知った上でどの司法書士に依頼するか決めましょう。
司法書士へ支払う費用の相場
司法書士の報酬は、不動産の数や不動産の評価額によって、大きく増減しますが一般的な自宅(評価額1,000万円~3,000万円)であれば、5万円から8万円が相場と言えるでしょう。
しかし、ここでの報酬は「相続登記申請」の報酬なので、「戸籍収集代行」や「遺産分割協議書作成」など、相続登記に必要な手続きを総合的に依頼すれば、7万円~15万円程度になるでしょう。また、複数の不動産がある、相続人の人数が10名以上いる場合など、ケースによって司法書士報酬が数十万円となる場合もあります。
そのほかの諸費用
相続登記を行うには司法書士報酬以外にも様々な費用がかかります。これらの費用は実費ですので、ご自身で手続きされた場合でもかかる費用になります。相続登記を行う際にかかる実費は以下のとおりです。
- 登記簿の調査にかかる実費:不動産1物件につき600円
- 固定資産税評価額の調査にかかる実費:不動産1物件につき300円
- 戸籍謄本や印鑑証明書など必要書類に関する実費:書類1通につき300から700円程度
- 登記申請の際にかかる実費(登録免許税):不動産固定資産評価額の0.4%
まとめ
司法書士は弁護士や税理士、行政書士に比べて不動産に関する知識が豊富な点が特徴的です。相続する不動産の権利関係がわからない場合には、司法書士に依頼するのもいいかもしれませんね。
相続する不動産の複雑な権利関係を後世に残さないためにも一度、司法書士に相談してみましょう。
▼実際に「いい相続」を利用して、専門家に相続手続きを依頼した方のインタビューはこちら
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