【事例】遺言公正証書の内容を遺産分割協議によって変えることは可能ですか?(92歳女性 遺産6,712万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、遺言公正証書の内容を変えたいという、92歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、栂村行政書士事務所の行政書士・栂村 基文さんです。
目次
この記事を書いた人
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▶栂村(つがむら)行政書士事務所遺言書の内容通りに遺産分割しなくても良いですか?
相談内容
夫が亡くなりましたが、遺言書に「不動産については、遺言者の法定相続人に法定相続割合で相続させる」という記述があり、この通り実行すると田畑12筆について、それぞれ5人の相続人が共有する状態が発生し、後々処分できないケースが発生することにもなりえます。何か良い方法はありませんか?
- プロフィール:92歳女性
- お住まい:愛媛県
- 家族構成:妻(相談者本人・後妻)、被相続人の孫4名(代襲相続人)
- 被相続人:夫
財産状況 | 詳 細 | 評価額 | 相続人(遺言内容) |
---|---|---|---|
不動産(自宅) | 463㎡ | 1,430万円 | 配偶者 |
自宅前の畑 | 809㎡ | 970万円 | 配偶者 |
その他の不動産(田畑)12筆 | 8,350㎡ | 2,860万円 | 法定相続人 (法定相続割合) |
預貯金 | 1,200万円 | 配偶者 | |
生命保険 | 190万円 | 配偶者 | |
株式・投資信託等 | 62万円 | 配偶者 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 遺言執行者の役割
遺言執行者は92歳の後妻でしたが高齢のため、実際の相続手続きは栂村行政書士事務所が委任されました。
栂村行政書士事務所では始めに、遺言執行者の業務として相続人に対して就任通知等をする必要があり、遺言執行者就任と遺言公正証書の写し及び財産目録を相続人全員に送付しました。
相続人は相談者である後妻と、先妻との子供2人ですが、2人とも被相続人より先に死亡しているため、孫4人が代襲相続人となっています。あわせて5人が今回の相続人となります。
アドバイス2 不動産の分割方法
問題となったのは、財産状況に記載している「その他の不動産12筆」の分割方法でした。
遺言書には「遺言者は、上記記載の不動産以外の一切の不動産を、遺言者の法定相続人に法定相続割合で相続させる」という文言でしたが、遺言の通り実行すると、12筆の田畑が5人の相続人に共有状態が発生し、相続後の処分などに全員の同意が必要なため、事実上処分が困難な状況になってしまいます。
相続対象の田畑は、駅・小学校の近くで人気があるエリアです。またバイパス沿線にある農地や周囲が住宅に囲まれているものから、道がない田畑まであり、実際の評価は大きく異なる内容となっています。
その他の不動産の相続方法以外は、特に異論はなかったため、問題となっている内容についてのみ、遺産分割協議書作成の方向で進めることをご提案しました。
アドバイス3 遺言と異なる遺産分割協議の内容は有効か
遺言執行者には、遺言書の内容に記載されたことを実現する権利と義務があります(民法 1012条1項)。
そのため、遺言執行者がいる場合に遺言と異なる遺産分割協議をするには、相続人全員の同意が必要です(実際、相続人全員が同意しているのに遺言執行者が反対することはほとんどありません)。
したがって相続人5人全員に、その他の不動産12筆の面積・評価額一覧表と、現場写真を添付し、相続したい土地を選定してもらい、競合している場合には、その部分については話し合いをすることしました。
その結果、5人中2人は遠方に住んでいることもあり、相続しないこととなりました。
競合している土地はバイパス沿線にある2筆の土地で、3人が話し合いをした結果、調整することができました。
この内容を遺産分割協議書に記載し、相続しない2人含め相続人全員が署名・押印し取りまとめることができました。
相続登記については、遺言書に基づく遺言執行と、遺産分割協議書による登記申請を連携している司法書士に依頼しました。
アドバイス4 解決のポイント
今回の遺産分割協議は、相続人の中で信頼の厚い遠方に住んでいる孫が調整役になり進めました。これは、相続人との対応状況からみて私の方からお願いしました。情報はメールで全て送付し、進め方のご提案を含め意見交換をしたうえで、他の相続人に調整してもらったのが遺産分割協議を上手く進めるポイントとなりました。
また、競合している土地については、後妻の方が譲歩したのでまとまりました。
もう一つポイントとしては、遺言書どおりではなく、相続人全員が合意した遺産分割協議書があれば、遺言書より優先することを理解しておくことです。
できれば、遺言者の意思どおりに執行することが一番良いのですが、問題のある遺言内容のケースもあり、相続人全員の合意により遺産分割ができると知っておくことも必要です。
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