【事例】遺言書が複数出てきました。どれを有効にすれば良いですか?(46歳女性 遺産6,100万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、遺言書が複数でてきた場合について、46歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、プラス行政書士事務所の行政書士・植野 正大さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士〉
開業以来、相続・遺言の業務を多く扱う。相続人が数十人に及ぶ調査も経験し、これまでに読み込んだ戸籍は1000通を超える。相続や遺言等の研修講師や講演の実績も多数。
▶プラス行政書士事務所
遺言書が複数あって、どれが有効かわからない
相談内容
生前父は「遺言書を作成しておいた」と言っており、実際、実家を探したら出てきたのですが3通ありました。内容はそれぞれ違うし、しかも実家をどうするか書いてありません。どうすれば良いですか?
- プロフィール:46歳女性
- お住まい:鳥取県
- 相続人:母、長女(相談者本人)、次女の3名
- 被相続人:父
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅戸建て(土地・家屋) 土地145㎡ |
2,000万円 |
預貯金 | 3,500万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:父 受取人:長女 契約者・被保険者:父 受取人:次女 |
300万円 300万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 要件を満たしていない遺言書は無効になる
遺言書が複数出てきたとのことですが、この場合、どの遺言書が有効になるかが問題です。
まず、そもそも日付が書かれていない遺言書は無効となります。例えば「○月」だけであったり「○月吉日」のように具体的な日付がないケースも無効です。
次に、遺言書に署名と押印があるかも確認してください。これらがない場合も無効になります。また自筆証書遺言の本文はすべて遺言者自身で書かれていなければなりませんので、パソコンで作成して印刷したものも無効となります(財産目録は自筆でなくても構いません)。
これらの条件が満たされた有効な遺言書が複数あれば、基本的に日付の新しいものが優先されます。
仮に古い日付の遺言書に「家は妻に相続させる」とあり、新しい日付の遺言書に「家は長女に相続させる」とあって、同じ家の扱いについて言及しているような場合は、新しい日付の遺言書が優先され、古い遺言書は撤回されたものとして扱います。ただし、反対に複数の遺言書で同じ財産について言及していない場合は、それぞれの遺言書が有効になります。
アドバイス2 遺言書に書かれていない相続財産は遺産分割協議の対象
さて、ご実家をどうするか遺言書には書かれていないとのことですが、遺言書に書かれていない財産は、すべて遺産分割協議の対象となります。今回は、お母様と相談者様、次女様の相続人3名で実家をどのように相続するかを決める必要があります。
なお、令和6(2024)年4月1日から、不動産の相続登記が義務化されます。令和6年4月1日以前に亡くなっている場合でも、義務化が始まるこの日から3年以内に相続登記を完了しなければなりません(正当な理由なくこれを怠った場合は10万円以下の過料に処せられます)。これまでこのような期限はありませんでしたが、今後は早めに遺産分割協議を終わらせ、遺産分割協議書を作成することが必要となります。
アドバイス3 今後のことを踏まえて、誰が実家を相続するか検討する
では、ご実家をどなたが相続していくのが良いか、というところですが、生活の状況や将来像などいろいろな要素がありますので、一概にベストな答えはないと思います。
財産状況を拝見すると、相続税の基礎控除額を超える財産が残っておられるようですので、相続税を基準に考えることも一つかと思います。例えば、お母様が相続される場合は1億6,000万円まで非課税になる「配偶者控除」という制度がありますので、税理士に相談しながら考えるのもよろしいかと思います。
ただ、お母様が相続された場合、将来お母様が認知症等になって「施設に入りたい。実家を売却してその資金を確保したい」と思っても、売却が非常に困難になります。このようなときに備えて「配偶者居住権」を設定するのも一つの方法です。
これは、不動産の名義はお母様(配偶者)以外の方が相続するのですが、その不動産の使用や居住の実質的な権利はお母様が持ち続ける、という制度です。
この権利によってお母様の生活を変えることなく住み続けることができ、万が一前述のような状況になっても、不動産の名義を相続した方が実家を売却して資金を確保することができます。「配偶者居住権」の設定は、遺産分割協議の中で決めることができます。
お母様の今後の生活面・金銭面などさまざまな面を考慮する必要があり、大変かと思いますが、是非皆様が変わらず笑顔で暮らせると良いですね。
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この記事を書いた人
〈行政書士〉
開業以来、相続・遺言の業務を多く扱う。相続人が数十人に及ぶ調査も経験し、これまでに読み込んだ戸籍は1000通を超える。相続や遺言等の研修講師や講演の実績も多数。
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