【事例】相続人の一人が故人の財産を開示してくれない(58歳女性)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、相続人の一人が故人の財産を開示してくれないという、58歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、ヴェルニー行政書士事務所の行政書士・大友 康生さんです。
この記事を書いた人
〈行政書士、相続診断士、終活カウンセラー〉
相続・遺言・生前対策専門の行政書士。インターネットで全国対応。見積り比較サイトでの口コミ評価は5段階中4.9と親切丁寧な対応が評価されている。相談は完全無料。電話・メール・ZOOMで完結する「リモート遺言状サービス」を展開中。また介護の負担を軽減し、親に遺言状を書いてもらえる『生前対策一体型遺言』も全国対応で展開中。
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遺産がいくらかわからないと遺産分割協議ができない
相談内容
実家の父が亡くなりました。父と母と兄一家が実家で同居していたのですが、父の遺産金額を正しく教えてくれません。「父の介護費用で遺産がなくなった」と言っていますが、ゼロではないはずです。母は、お金の管理はすべて兄にまかせていたと言っています。父の遺産を調べる方法はありますか?
- プロフィール:58歳女性
- お住まい:兵庫県
- 相続人:母、長男・長女(相談者本人)次男・次女の5名
- 被相続人:父
相関図
はじめに
ご相談のようなケースは珍しくありませんが、親子兄弟の関係を悪くしないことと相続人全員が心から納得する形で相続手続きを済ませることの両立はなかなか難しいものです。
実際にご相談をいただいた案件については、相続人の方々の性格や関係性などを詳細に聞き取りしたうえで個別に最適な方法をご提案させていただくのですが、今回は一般的な内容でのご回答とさせていただきます。
アドバイス1 相続財産を調査する方法
まず、以下の4つの主な財産について調査方法をご説明します。
- 預貯金
- 株式、社債等
- 不動産
- 保険金
預貯金
預貯金については、基本的に金融機関名がわかっていなければ調査ができません。
金融機関名(できれば支店名も)がわかりましたら、被相続人がお亡くなりになったことがわかる書類(死亡の事実が記載されている戸籍)及びご自身が相続人であるとがわかる書類(被相続人との関係がわかる戸籍)を揃え、金融機関に口座の有無を照会します。
口座があることがわかったら「残高証明(被相続人が死亡した時点での残高)」及び「取引履歴」を取得すると良いでしょう。これで、死亡時に残高がいくらあったのかと、直近数年間の預貯金の預け入れと引き出しの記録がわかります。取引履歴は3年もしくは5年程度遡って調べれば良いかと思います。
どこの金融機関と取引をしていたかわからない場合は、可能性のあるところをしらみつぶしに調べるしかありません。もし実行するとなると、とても時間のかかる作業となります。親御さんの取引していた金融機関をある程度把握しておられるか、地元の方でないと難しいかと思います。
株式、社債等
株式、社債等については「証券保管振替機構(通称ほふり)」というところに照会をかければ、被相続人が保有している株券と、それが保管されている証券会社を知ることができます(株数まではわかりません)。 口座がある証券会社がわかったら、その支店に連絡を取って取引残高を調べると良いでしょう。
不動産
不動産については、その不動産がある自治体に問い合わせて「名寄帳」というものを取り寄せれば被相続人名義の不動産がすべて明らかになります。さらに名寄帳をもとに自治体に「固定資産評価証明」を請求すれば不動産の価格(固定資産評価額)がわかります。
不動産の詳細については法務局で「全部事項証明(いわゆる登記簿)」を取得されると良いでしょう。
保険金
生命保険については、一般社団法人生命保険協会に照会をかければ本人もしくはご自身に請求権がある契約を洗い出してくれます(協会加盟の生命保険会社)。
ほとんどの生命保険会社が加盟してますから、気になるようであれば照会をかけてみるのも良いかもしれません。
これらの方法はそれぞれ時間もコストも手間もかかるので、もし試してみるのであれば、それなりの覚悟をもって取り組まれることをおすすめします。特に預貯金の調査は取引金融機関がわからないと難しいため、離れて暮らしていた親族の方が調査をするのは困難な場合が多いです。
本来であれば、財産調査をして「財産目録」を作成し、相続財産の全体が把握できたら、それをもとにそれぞれの相続人が何をどれだけ相続するのが良いかを話し合って遺産分割をするのが最も望ましい形です。しかし実際には同居している親族と離れて暮らしている親族がいる場合、財産目録を作る前に「一切の財産を相続しない」という内容の遺産分割協議書や遺産分割証明書に署名捺印を求められることが多々あります。
アドバイス2 遺産分割協議書を作成しないと相続手続きができない
なお、財産目録を作成して遺産総額がわかったからといって、お兄様と円滑に相続手続きを進められるとは限りません。例えば金融機関の取引履歴を確認して数年前に数百万円の出金があったからといって「何に使ったんだ」などと言えば兄妹関係が一気に悪くなる可能性が高いですし、「これは父親本人が使ったものだ」「介護費用だ」などと言われてしまえば反論は難しいと思います。
いずれにしても遺産分割協議書(もしくは遺産分割証明書)を作成し、全員が署名捺印をしなければ、実家不動産の相続登記、株式、投資信託、定期預金等の解約ができません(ただし、被相続人の普通預金については、同居している親族がキャッシュカードでお金を引き出すことができます)。
相続人のうち一人でも署名捺印に同意しなければいつまで経っても相続手続きができません。したがって何とか角を立てずに財産目録を作成し、それをもとに遺産分割協議を行って遺産分割協議書を作ろうという形に持っていければ良いかと思います。
実際には一般の方が財産目録を作成するのは厳しい場合が多いので、その他の相続手続きも兼ねて相続業務を専門に扱っている行政書士などに依頼をされると良いでしょう。
また、後々のトラブルも防止したいということであれば、遺産分割協議書の作成もプロに任せたほうが無難です。
行政書士であれば、相続人の方々に代わって、戸籍収集、相続関係説明図の作成、法定相続情報の取得、残高証明の取得、各種不動産帳票の取得など面倒な手続きを行ってくれます。また中立の立場で遺産分割協議書を作成してくれますのでトラブルの防止にもなり、お一人で悩まれるよりも良い結果となる可能性が高いかと思います。
なお、完全に兄弟が争う状態になってしまうと行政書士の関与ができなくなり、弁護士が関与せざるを得なくなって高額な費用が発生する場合もあります。
しかも高額な弁護士費用を支払ったにも関わらず、結局は思ったように遺産を相続できなかったなどという例も少なくありませんから、早めのタイミングで専門家に相談し、一緒にご自身の状況に最もふさわしい解決策を探っていかれることをおすすめします。
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