【事例】代襲相続人である未成年の孫は遺産分割協議に参加できますか?(44歳女性 遺産5,400万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、未成年の孫が代襲相続人になった場合について、44歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、岡田行政書士事務所の行政書士・岡田 誠さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士・二級建築士・宅地建物取引士〉
大阪府内を中心に相続・遺言・生前対策の総合的な相談と手続きのサポートをしています。
また不動産関連業務にも詳しく、不動産が関係する相続分野を得意としています。
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▶岡田行政書士事務所
相続人に未成年の孫がいます
相談内容
先日義父(夫の父)が亡くなったのですが、夫は2年前に病気で死亡しています。息子が夫の代わりに相続人になると思いますが、息子はまだ10歳です。遺産分割協議はできるんでしょうか?自宅マンションは義母が相続する予定です。
- プロフィール:44歳女性
- お住まい:千葉県
- 家族構成:義母、夫の姉、息子(義父から見た孫:10歳)の3名
- 被相続人:義父
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅マンション | 2,500万円 |
預貯金 | 2,400万円 | |
生命保険 | 500万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 未成年の代襲相続人には特別代理人を立てる必要がある
今回は被相続人の義父による遺言がないため、遺産分割協議が必要なケースです。
まず、被相続人の孫は代襲相続人といって相続人の一人です。
この場合、その代襲相続人が未成年者だと法律行為ができないため、代理人を立てる必要があります。
なお、民法改正により、2022年4月1日より18才未満の者が未成年者となります。ただし未成年者でも既に結婚している場合は成年者として扱われるので、代理人は不要です。
遺産分割協議における代理人のことを特別代理人と呼び、家庭裁判所の選任が必要です。
特別代理人は成年者であれば誰でもなれます。ただし注意点として、相続人は利益相反行為となるため、特別代理人になることができません。
利益相反行為とは、法律行為自体や外形から見て親権者(後見人)の利益になるが、未成年者(被後見人)にとっては不利益になる行為、または親権に服する一方の子には利益になるが他方に子にとっては不利益になる行為のことです。
未成年者が複数人いるときは、その未成年者の人数だけ、特別代理人の選任が必要です。
通常、未成年者の代理人は親権者(父・母)であり、今回は2年前に父が他界しており未成年者の母である相談者は義父の相続人ではないため特別代理人になれます。
そして息子の法定代理人である相談者が特別代理人として、遺産分割協議に参加し、遺産分割協議書に署名・押印を行うことにより有効な遺産分割協議書となります。
アドバイス2 今回の相続税の課税価額
今回の財産の整理をすると、義母が受け取る保険金500万円は、特別な事情が無い限り相続財産ではなく、保険契約に基づく受取金なので、遺産分割の対象としないことができます。
保険金は相続税法上はみなし相続財産ですが、500万円×法定相続人までは、非課税です。
生前の特別受益がある場合は、それを相続財産に加えて、具体的相続分を計算しますがここではその情報がないので、遺産総額は4,900万円です。
相続税については相続税の非課税金額の範囲は、相続人3名なので3,000万円+600万円×3人=4,800万円ですので、4,900万円-4,800万円=100万円が相続税の課税価額です。
アドバイス3 特別代理人の選任方法
特別代理人の選任方法は、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に相続人または利害関係人が『特別代理人選任申立書』を提出することにより行います。家庭裁判所に納付する申立て費用は800円です。
このとき通常必要とされるものは
- 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 親権者又は未成年後見人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 特別代理人候補者の住民票又は戸籍の附票
- 利益相反に関する資料(遺産分割協議書、不動産の登記事項証明書等)
- (利害関係人からの申立ての場合)利害関係を証する書類(戸籍謄本(全部事項証明書)等
特別代理人選任の一番のポイントは、申立は遺産分割協議の内容を確定させてから行うことです。
なぜなら申立書受理後に遺産分割協議書の内容は変更できないからです。
家庭裁判所は申立てがあると、遺産分割協議書の内容確認作業を行います。
このとき未成年者に不利な内容だと受理されません。未成年者の相続分は法定相続分以上とすることを基本とします。内容は裁判所が判断するので、未成年者に不利だと裁判所が判断すれば、遺産分割協議書の内容変更を指示されます。
今回のケースは、前記のとおり相続税がかかる財産は少ないのでこの点ではそれほど問題がないと考えられますが、たとえ相続税的に有利であったとしても、未成年者にとって不利な遺産分割案であれば、裁判所に認められない可能性は十分あります。
そのため相続税については、事前に専門家である税理士にも確認してからその点を考慮し、相続人間でよく理解してから分割案を作成することが重要です。そして裁判所が審査し受理した後では変更できません。
これを避けるため未成年者が成年者になるまで待ってから遺産分割を行うという方法もありますが、この場合で、分割が相続税の申告期限(10ケ月)を超えた場合、その後の手続きが煩雑になり不都合や不利益が生じる可能性もありますのでこの点も十分考慮する必要があります。 特別代理人選任に要する期間は、選任申立をしてから裁判所との文書でのやり取りを入れると、1~2ヶ月程度で受理され、『特別代理人選任審判書』が交付されます。この期間はケースにより異なります。
特別代理人の権限は選任審判書に書かれている内容のみで、それ以外の権限はありません。
つまり遺産分割協議書が、裁判所の審判書どおりであるかを確認し、その上で遺産分割協議書に署名・押印する権限のみです。協議書には特別代理人の印鑑証明書を添付します。
他の相続人と協議して遺産分割協議書を変更する権限はありません。あくまで審判書の内容を確実に実行することのみが特別代理人に与えられた代理権限です。
遺産分割協議が終わると特別代理人の任務は終了します。当然親権者として法定代理人の地位は継続します。
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