【事例】亡くなった父が所有していた不動産がわからない(49歳女性 遺産4,300万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、故人の所有していた不動産がわからないという、49歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、行政書士ときた事務所の行政書士・鴇田 誠治さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、CFP®、不動産コンサルティングマスター〉
相続・相続対策の専門家として、相続手続きの総合的なご支援はもちろん、遺言書の作成などの相続対策もお客様と共に考え、アドバイスをさせていただきます。また、後見や財産管理、民事(家族)信託などもお気軽にご相談ください。
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実家の他に所有していた不動産がわからない
相談内容
父が亡くなったので実家や預金の相続手続きをしなければいけないのですが、実家の他にも不動産があるらしいです。しかしどのように調べればいいかわかりません。
- プロフィール:49歳女性
- お住まい:千葉県
- 相続人:長女(相談者本人)、二女、長男の3名
- 被相続人:父
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅戸建て(土地・家屋) 土地130㎡ |
2,900万円 |
預貯金 | 900万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:父 受取人:長女(相談者本人) |
500万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 遺産分割協議の前に財産調査をする必要がある
遺産分割協議を行う前に、被相続人の財産を正確に把握しておくことが必要です。正確な財産状況を把握することによって相続人間で公平な分割を行うことができるからです。反対に、不正確な財産調査で一部の財産のみを対象に遺産分割協議を行ったような場合には、相続人間で不公平な遺産分割になってしまう可能性もあります。
トラブルのない相続手続きのためには、まずは財産調査で、プラスの財産だけでなく借金などのマイナス財産も調査して、その情報を相続人間で共有したうえで公平な遺産分割を行うことが大切です。遺産分割終了後に「プラスの相続財産では賄えないような借金が見つかった」といったトラブルを防ぐためにも、財産調査はとても重要な作業になります。
アドバイス2 どのように調査すればいい?財産調査の具体的な方法
それでは、具体的な財産調査のやり方を説明していきます。
①不動産
不動産の相続をする場合、はじめに自宅に保管されている権利証を確認してください。しかし権利証があるからといって、その不動産をすべて所有しているとは限りませんので、次に、ご自宅等に市区町村役場から郵送された「固定資産税納税通知書」を確認してください。
固定資産税納税通知書は、不動産が所在する市区町村ごとに送付されてきます。この通知書には(別用紙になっている場合もありますが)不動産の所在地番や建物の家屋番号、固定資産税の評価額などが一覧で表示されていますので、相続財産を把握するのに便利です。
ただし、固定資産課税納税通知書は固定資産税の金額をお知らせして納税してもらうことが主目的ですので、私道などの非課税資産(固定資産税がかからない土地など)については、一般的に納税通知書に記載されませんのでご注意ください。
もし、納税通知書が見当たらない、失くしてしまった、捨ててしまったといった場合には、不動産の所在する市町村の固定資産税課などで「固定資産評価証明書」を請求します。この証明書では、原則として、固定資産税納税通知書の記載と同様の内容で証明書が発行されます。
なお、亡くなった方(被相続人)が所有していたすべての不動産が把握できていない可能性があると思われる場合には、名寄帳の取得をおすすめします。
名寄帳とは
名寄帳(なよせちょう)は、土地と家屋の固定資産課税台帳を所有者ごとにまとめたものです。
固定資産税が課税されない不動産(山林や農地、私道、公衆用道路など)のように、固定資産税納税通知書や評価証明書には記載されず、名寄帳にしか記載されない不動産もありますので、亡くなった方(被相続人)が所有していたすべての不動産が把握できていない可能性がある場合は、名寄帳を取得して所有していた不動産を確認しましょう。なお、名寄帳も不動産が所在する市町村の固定資産税課などで請求申請をします。
②預貯金
亡くなった方の預貯金を一括で調べる方法はありません。ただし通帳やキャッシュカードがあれば、その金融機関に残高の照会をすれば預貯金の金額を知ることができます。
もし、通帳やキャッシュカードがなく、どこに口座を持っていたかわからないときは、被相続人の最後の住所地の近くや思いあたる金融機関を一つひとつ地道に調査するしかありません。調査方法としては、亡くなった方の名義の口座があるかどうかを金融機関ごとに照会をします。そこに口座があれば残高の照会をすると預貯金の金額がわかります。
③生命保険
生命保険の証書等があればその保険会社に連絡をしてください。証書等がなければ通帳の保険料の引き落としの履歴等で調べてみてください。それでも見つからない場合は、生命保険協会の「生命保険契約照会制度」を利用して調査をしてください。
調査対象となる契約は、照会受付日現在有効に継続している個人保険契約で、死亡保険金支払済、解約済、失効等であるものは含まれません。照会事由が死亡の場合は死亡日まで最低3年間は遡って調査します。なお、財形保険・財形年金保険、支払が開始した年金保険、保険金等が据置きとなっている保険は対象外です。
なお、生命保険会社等から死亡保険金を受け取った場合、遺産分割協議の対象になるかどうかですが、死亡保険金は「受取人固有の財産」ですので遺産分割の対象にはなりません。相続税に関しては、契約者と被保険者が亡くなった方で受取人が相続人の場合ですと死亡保険金も「みなし相続財産」として相続税の対象となりますが、「500万円×法定相続人の数」以内であれば非課税となります。
④上場株式など
亡くなった方がどの証券会社で株式を取引していたか、相続人が知らない場合が多いと思います。その場合には、亡くなった方の自宅で取引残高報告書や年間取引報告書などの郵送物を探してみてください。
取引残高報告書などの書類は届いていないが、証券会社との取引があった可能性が高い場合などは、証券保管振替機構へ問い合わせて、亡くなった方が利用していた証券会社を特定することも可能です。
証券会社が特定できたら、証券会社に連絡をして、亡くなった方の株式の残高証明書を取得して明細を確認しましょう。
⑤債務
相続財産は、プラスの財産だけではなく借金等のマイナスの財産も含まれます。プラスの財産よりマイナスの財産が多ければ相続放棄を検討された方が良いでしょう。相続放棄は、相続の開始を知ってから3か月以内にしなければなりません。そのため、亡くなった方に債務があるのか、どれだけの債務があるのかが不明な場合は、迅速に調査をしなければなりません。
債務の調査方法は、まず、ご自宅に借用書などが保管されていないか確認してください。
亡くなった方の名義の不動産があれば登記簿を確認してみましょう。乙区に抵当権や質権などの担保権の記載や甲区に条件付所有権移転仮登記などの記載があった場合は借金や保証債務がある場合があります。
ただ、抵当権などは完済しても抹消登記の申請をしないと登記に残ったままになっているので、登記簿に記載されている債権者に連絡をして債務が残っているか確認してみましょう。
各金融業者や信販会社、銀行等の債務の調査に関しては信用情報機関に情報開示請求をしてみましょう。信用情報機関は主にCIC、JICC、全銀協の3つがあります。信用情報調査で全ての債務が判明するとは言い切れませんが、債務調査のための有効な手段となります。
まとめ
いかがでしょうか。ひとくちに財産調査といってもその対象や方法は多岐にわたり、相当の時間を要する場合もあります。
また、相続が発生すると財産調査以外にも戸籍の取得や法定相続情報一覧図の作成など、さまざまな手続きや問題が発生する場合がありますので、相続人間でトラブルにならないためにも相続の手続きは専門家に依頼することをおすすめします。
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この記事を書いた人
〈行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、CFP®、不動産コンサルティングマスター〉
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