農地を相続したくない場合の5つの選択肢と相続手続きの方法
実家の親が農家をしている、または農地を持っているという方もいるでしょう。
その農地を相続する可能性が高いけれど、すでに、独立して働いていて、実家に戻る予定はない場合、相続した農地についてはどんな選択肢が考えられるのでしょうか。
この記事では、農地の相続したくない場合の選択肢や、農地の相続手続きについて解説しますので是非参考にしてください。
農地を相続したくないときの5つ選択肢
親が農家で農地を相続したが、自分も兄弟もサラリーマンで農業をするつもりはなく農地を相続したくないという場合には、次のような選択肢が考えられます。
- 農地以外の用途に転用する
- 農地として売却・賃貸する
- 相続放棄をする
- 相続土地国庫帰属制度を使う
- 最低限の管理をしつつ放置
以下、それぞれの選択肢について説明します。
1.農地以外の用途に転用
一定の要件を満たす場合は、農地を農地以外の用途に転用することができます。
宅地等に転用することができれば、買い手も見つけやすいですし、農地の場合よりも高額で譲渡できる可能性が高まるでしょう。
自分で所有したまま転用する場合には農地法4条の許可が、売却と転用を同時にする場合には農地法5条の許可が必要となります。
許可基準の詳細については、農業委員会に確認するとよいでしょう。
なお、財産を譲渡した際に譲渡所得が生じた場合は、所得税・復興特別所得税・住民税がかかります。
譲渡所得の金額は、次のように計算します。
2.農地として売却・賃貸
転用要件を満たさない場合に農地として売却することできれば、その後の農地の管理を免れることができますし、売却代金を手にすることもできます。
農地として売却する場合であっても、農業委員会の許可(農地法3条の許可)が必要です。買主が、農家であるか、これから農家になろうとしている等の条件をクリアしていなければ許可は受けられません。
また、売却ではなく、農地として貸し出すという方法もあります。
買い手や借り手を探す場合、宅地であれば不動産屋に相談するでしょうけども、農地の場合は農業委員会に相談するとよいでしょう。
3.相続放棄
相続放棄とは、相続人が被相続人の権利や義務を一切承継しない選択をすることをいいます。
したがって、相続したくない農地だけ相続放棄をするということはできず、すべて相続するか、まったく相続しないかを選択しなければならないのです。
相続放棄をしたほうが良いパターン
通常、相続放棄は、プラスの財産の価額よりも借金等のマイナスの財産の価額の方が大きい場合に利用されます。
そのような場合に相続すると、相続人が損してしまうからです。
同様に、農地以外に特に財産がなく、しかも、その農地が使い道も価値もないという場合に相続すると、農地の維持管理費や固定資産税を延々と負担し続けなければならなくなり、相続人が損をしてしまいます。
このような場合もまた、相続放棄をした方が得であるといえるでしょう。
つまり、土地も使い道や価値がない場合は、「土地の維持管理にかかる手間や費用、固定資産税」を負債と同様に考えて、遺産のプラスの財産と天秤にかけて、プラスが大きければ相続し、マイナスが大きければ相続放棄をするという判断をするのがよいでしょう。
また、厳密にいうと、相続放棄をするにも費用がかかりますので、その分も加味して損得を計算する必要があります。
全員で相続放棄をする場合
また、全員で相続放棄をする場合は、相続財産清算人(旧:相続財産管理人)を選任するまでは土地の管理義務から解放されないので、相続財産清算人の選任費用も加味する必要があります。
相続財産清算人の選任にかかる費用は、申立費用と、相続財産清算人への報酬があります。
申立費用は、数千円~1万円程度のもので、内訳は以下のとおりです。
- 収入印紙
- 切手代
- 官報公告料
相続財産清算人への報酬は、親族が相続財産清算人になる場合は不要ですが、相続財産清算人になった親族は、土地の帰属が決まるまでは、土地の管理を継続しなければなりません(相続財産清算人選任後の流れについては後述します)。
相続財産清算人に弁護士や司法書士が選任される場合は、管理の手間や難易度に応じて月額1万円から5万円程度の報酬が、裁判所によって決められます。
報酬は相続財産から支払われますが、十分な財産がない場合は、申立人が予納金を納めなければなりません。予納金の金額は、家庭裁判所や事案によって異なりますが、数十万円~150万円ぐらいです。なお、余った予納金は返還されます。
なお、相続を単純承認(相続人が被相続人(亡くなった人)の権利や義務を無限に承継する選択をすること)をすると、相続放棄をすることができなくなりますので、相続放棄を検討中に単純承認しないように気を付けましょう。
相続放棄を検討する場合は、単純承認対策も含めて、一度、専門家に相談しておくことを強くお勧めします。
相続放棄については「相続放棄の手続き方法。必要書類や期限、申述書の書き方などまとめて解説【司法書士・行政書士監修】」で詳しく紹介しています。
4.相続土地国庫帰属制度を使う
相続土地国庫帰属制度は、令和5年4月に始まった新しい制度で、相続した不要な土地を国に渡せるというものです。
所有者がわからない土地の発生を防ぐための対策として制定されたもので、相続人だけが申請できる制度です。
ただし、不要な土地だからといって必ずしも国庫に帰属させられるわけではなく、申請ができない土地や、審査で不承認となる土地もあります。
また、審査手数料や10年分の負担金の納付も必要で費用がかかります。
相続土地国庫帰属制度についての詳細は「相続登記の義務化の対策方法は?相続人申告登記や相続土地国庫帰属制度など新制度をわかりやすく」を参照してください。
5.最低限の管理をしつつ放置
転用の要件を満たさず、農地としての買手も借手も引き取り手も見つからず、相続放棄も選択しないとなると、最低限の管理をしつつ、農地を放置するしかありません。
放置すると言っても、農地の名義変更手続きの相続登記はしなくてはいけません。
この選択肢をなるべくとらなくてもよいように、農業委員会に相談しましょう。
農地の相続手続き
農地を相続した場合は、管轄する農業委員会への相続の届出が必要です。
届出をしなかった場合や虚偽の届出をした場合は、10万円以下の過料が科されることがありますのですみやかにおこないましょう。
農業委員会へ届出に必要な書類
届出には、次の書類が必要です。
- 農地の相続等の届出書
- 相続したことを確認できる書面(登記事項証明書等)
農地の相続等の届出書
「農地の相続等の届出書」(農地法第3条の3の規定による届出書)の用紙、農業委員会の窓口で入手できるほか、多くの市町村ではウェブサイトからダウンロードできるようになっています。
また、相続したことを確認できる書面としては、登記事項証明書(または登記簿謄本)が該当します。したがって、登記事項証明書の交付を受ける前に、相続で農地を取得した旨の登記を済ませておかなければなりません。
相続したことを確認できる書面(登記事項証明書等)
農地も不動産ですので、法務局で名義変更の相続登記をします。
相続登記の方法は、「相続登記の費用相場は?司法書士報酬、必要書類の金額、登録免許税の計算と自分でやる場合の概算【司法書士監修】」を参照してください。
農業委員会へ届出期限
届出の期限は、相続を開始したことを知った日から10か月以内です。
農地を相続して農業をすることに決めたとき
農地の相続について考えた末、農業を続けることに決める方もいるでしょう。
その場合、適用条件を満たせば、相続税の猶予を受けられる特例を活用することができます。
農地の納税猶予の特例
出典:国税庁農業を営んでいた被相続人または特定貸付け等を行っていた被相続人から一定の相続人が一定の農地等を相続や遺贈によって取得し、農業を営む場合または特定貸付け等を行う場合には、一定の要件の下にその取得した農地等の価額のうち農業投資価格(農業投資価格は、国税庁ホームページの「路線価図・評価倍率表」で、取得した農地等の所在する都道府県ごとに確認することができます。)による価額を超える部分に対応する相続税額は、その取得した農地等について相続人が農業の継続または特定貸付け等を行っている場合に限り、その納税が猶予されます(猶予される相続税額を「農地等納税猶予税額」といいます。)。
詳しくは、国税庁ウェブサイトの「農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」のページをご参照ください。
まとめ
以上、農地の相続について説明しました。
農地は、不動産ですが、その性質上、独自の制約や逆にメリットもあります。
農地を相続する人で手続きを希望する場合や納税猶予の適用を受けたい場合は、「いい相続」へご連絡ください。
相続に強い税理士などの専門家を無料でご紹介いたしますので、お気軽にご相談ください。
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