財産管理委任契約のメリット・デメリット、成年後見制度や家族信託との違い
判断能力はあるけれど、足腰が弱くなって外出がままならなくなってきた。
このように体の不調等で財産を自分で管理できなくなった場合に、財産の管理を家族や専門家に委ねるという選択肢があります。
その選択肢の一つが財産管理委任契約です。
この記事では、財産管理委任契約を中心に解説していきます。
目次
財産管理委任契約とは
病気や事故などで心身の状態が思わしくなく、自分で財産を管理できなくなったときなどに、親族や友人など信頼できる人に本人に代わって管理を任せ、重要な手続きや事務処理を代理で行ってもらうことができるという契約です。
管理を委任する財産やその財産についての代理権の範囲、管理方法などについて、委任者と受任者との間で細かく取り決めることができます。
たとえば、預貯金の引き出しや各種支払い、介護施設への入居手続きや介護サービスの契約手続きといった事務などがあげられ、契約内容は、民法の委任規定に従い、比較的自由に定めることができす。
委任とは?
民法第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
簡単に説明すると、委任とは法律行為の履行を契約した相手に頼むことです。漠然とした何かをしてもらうため、というのではなく、「法律行為を委託する」というところがポイントです。
財産管理委任契約で預貯金の引き出しはできる?
契約内容に含まれていても、金融機関の窓口での代理手続に応じてもらえないこともあります。
財産管理委任契約は、契約を交わした当事者間のみに法的拘束力を及ぼす契約です。
実際に、財産管理委任契約に対する対応は、金融機関によってまちまちで、代理人による取引を認めている金融機関はあまりなく、認めていても口座名義人本人である委任者に確認する金融機関がほとんどです。
財産管理委任契約で、銀行の取引を代行したい場合は、一度該当の銀行に問い合わせをした方がよいでしょう。
不動産の売却はできる?
財産管理委任契約で不動産を売却する代理権を受任者に付与していたとしても、買主や登記を担当する司法書士は所有者に売却の意思を確認するでしょうから、現実的には、不動産の売却を委任者の関与なく受任者が行うことはできないでしょう。
▼専門家さがしはお気軽にご連絡ください。▼財産管理委任契約の作成方法
契約は、契約書というかたちで残さなくても、口約束でも有効です。
しかし、契約の内容を文書に残しておかないと年月が経つうちに細かい内容が分からなくなってしまい、トラブルとなることがあります。
したがって、財産管理委任契約は、対象となる財産やそれについての代理権の範囲、報酬や解除事由など、細かく取り決めしておくべきです。契約書の中でも、公正証書として作成しておいた方がより確実です。
公正証書とは?
公正証書とは、公証人に内容を口頭で伝え、公証人がそれを文書として権限にもとづいて作成する公文書のことです。
公正証書にすることで、公正な効力が生じ、高い証明力・執行力があります。
作成方法
財産管理委任契約を公正証書にするには以下の手順でおこないます。
- 契約内容を決める
- 専門家や公証人に書類の作成を依頼
- 内容を確認
- 公証役場に行って作成
財産管理委任契約のメリット・デメリット
では、財産管理委任契約のメリットデメリットを説明していきます。
メリット
判断能力があるときから利用でき自由度が高い
成年後見制度をは異なり、利用するための特別な要件が定められていないので、本人の判断能力があるときから利用できます。取り決めする範囲も委任者が自由に決められるので、自分にとって必要な内容だけを契約することができます。
時間がかからず作成できる
成年後見制度であれば家庭裁判所に申し立てを行う必要があり審判までは2~3か月程度かかります。財産管理委任契約はそこまで時間はかかりません。公正証書にする場合でも、日程の調整次第ですが、約2週間~1ヵ月以内で作成できるでしょう。
頼まれている証明になる
正式に法律行為を行う契約を結んでいることで、他の身内から怪しまれたり誤解されることを防ぐ効果が期待できます。
デメリット
社会的信用が十分とはいえない
金融機関などではこの契約だけでは手続きができない場合が多いです。
取消権はつけられない
たとえば、本人が詐欺の被害にあった場合、委任者が代わりに契約の解除をするような法律行為の取消権を付与することはできません。
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成年後見制度と財産管理委任契約の違い
成年後見制度の目的は、認知症を含む、精神上の障碍を理由に、著しく判断能力が衰えた人を犯罪などから守り、生活を維持することです。そのため、利用するためには家庭裁判所に申し立てをおこなうなど、手続きが厳格に決められています。しかし、その分、本人に代わってできる代理人としての社会的信用は高く、銀行などの手続きもできます。(成年後見についての詳細は「成年後見制度とは?成年後見人への報酬や申立ての費用までわかりやすく解説」を参照してください。)
取消権
成年後見制度は本人が契約してしまった借金など一定の行為(種類によって内容は異なる)を取消することができる取消権を有しますが、財産管理委任契約にはそもそも取消権を付与できません。
判断能力の有無
成年後見制度は判断能力の減退が認められなければ利用できませんが、財産管理委任契約は双方の合意がなされていれば有効です。
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家族信託と財産管理委任契約の違い
家族信託とは、信託法という法律を利用して、財産や財産の運用などの権限を信頼する家族に信託して、財産管理と資産承継を行う方法です。(家族信託についての詳細は「家族信託とは?|遺言との比較や手続き、メリット・デメリットもわかりやすく解説!」参照してください。)
信託口座
家族信託は、金融機関に信託口座を作り受託者が管理することができます。財産管理委任契約で信託口座を作ることが認められることは今のところありません。なお、現時点では信託口座開設は全ての銀行が対応しているわけではないので身近な銀行では対応していない場合もあるでしょう。
遺言機能
家族信託は財産に関しては遺言代わりに活用することができます。財産管理委託契約は本人が死亡した時点で終了しますので、遺産分割や葬儀の取り扱いなどは対応できません。
財産管理委任契約から任意後見契約への移行
財産管理委任契約の懸念に対する備えとして、委任者の判断能力が低下したときには財産管理委任契約から任意後見契約へと移行することを契約内容にしておくとよいでしょう。
任意後見契約とは
認知症や障害の場合に備えて、あらかじめご本人自らが選んだ人(任意後見人)に、代わりにしてもらいたいことを契約(任意後見契約)で決めておく制度です。
任意後見契約では、後見人の後見事務を監督する後見監督人が就くため、財産管理委任契約と比べて、後見人が財産を不適切に管理することを防止できる可能性が高まります。
ただし、財産管理委任契約から任意後見契約に移行するためには、委任者の判断能力が不十分な状況になったことに気が付いて、任意後見監督人選任の申立てをする必要があります。
適切なタイミングで任意後見契約に移行させるためには、さらに、見守り契約を加えておくとよいでしょう。
見守り契約とは、任意後見契約締結後、後見監督人選任までの間に、任意後見契約の受任者とは異なる見守り契約の受任者が、定期的に委任者と連絡をとったり、委任者の自宅を訪問して面談することにより、委任者の判断能力等を確認し、任意後見を開始させる(=任意後見監督人選任の申立てをする)タイミングを判断するための契約のことをいいます。
見守り契約の受任者として、委任者の推定相続人(その時点で相続が開始された場合に相続人となる人)の中に適任者がいれば、その人に委任するとよいでしょう。
適任者がいない場合は、弁護士、司法書士、行政書士等の専門家に依頼するとよいでしょう。
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財産管理委任契約から死後事務委任契約への移行
財産管理委託契約は本人が死亡した時点で終了します。もし、死後の葬儀の手配や病院等への支払いや手続きなどもその人に依頼したい場合は、死後事務委任契約を別に締結しておきます。
死後事務委任契約とは、死後の手続きを生前に依頼する契約をいいます。
遺品整理などの死後の手続きも契約内容に含めることができます。
財産管理委任契約のよくある疑問
財産管理委任契約の費用は?
報酬については、委任者と受任者との間で自由に決めることができます。
一般に、親族に委任する場合は、無報酬のことが多いでしょう。
専門家に依頼する場合の報酬は、専門家によっても契約内容によっても異なるので、電話して確認してみるとよいでしょう。
一般的には月額1万円~5万円の範囲に収まることが多いと思われます。
ちゃんと財産を管理してるか不安
受任者が適切に財産を管理しているかどうかを監督することが難しい方は、財産管理監督人を指定するとよいでしょう。
財産管理監督人には、委任者の推定相続人の中に適任者がいれば、その人にお願いするとよいでしょう。
適任者がいない場合は、報酬が必要になりますが、税理士、弁護士、司法書士、行政書士等の専門家に相談してみるとよいでしょう。
まとめ
以上、財産管理委任契約について説明しました。
財産管理委任契約、死後事務委任契約などは行政書士に依頼することができます。
不明な点は、一度、専門家に相談してみることをお勧めします。
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