孫への不動産相続で生前贈与か遺言書か迷う
相談者は、80代の父親が所有する複数の不動産を子や孫に相続させるための方法に悩んでいました。父親は遺言書の作成を考えているものの、生前贈与が適しているのかも分からず、専門家の意見を求めていました。預貯金は少なく、主な財産は不動産であるため、適切な相続対策が必要でした。
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生前贈与は、相続税対策のなかでも生きているうちに自分の意思で、財産の分配を調整したり、遺産(=相続財産)の総額を減らして相続税を減額させられる有効な手段です。贈与の基礎控除や非課税特例も多く、是非とも検討したい相続税対策のひとつです。
ただし生前贈与を考える際に確認しておきたいのが遺留分のことです。生前贈与や遺言書などによって相続財産の分割方法に著しい不公平があったとしても、相続人には最低限の取り分、遺留分が保証されています。遺留分さえもらえない相続人は、遺留分侵害額請求をして遺留分を取り返すことができます。
今回は遺留分の基本と、2019年に改正された遺留分侵害額請求についてご紹介します。
この記事では、遺留分の計算方法、遺留分権利者、遺留分侵害額請求の方法などについてまとめています。
目次
遺留分とは、相続の際に相続人に法律上保証された最低限の取り分のことです。
例えば遺言書に「遺産はすべて長男に譲る」などと書いてあっても、ほかの相続人にも最低限相続できる相続財産が法律で保障されています。これを遺留分と呼びます。生前贈与などで特定の誰かが贈与を受けていた場合も同様に、生前贈与された財産に対しても遺留分が発生することもあります。
このように相続財産の分割方法が公平でなかった場合、相続人には最低限の取り分をもらえる権利があり、それを侵された場合は、その分を取り返すことができます。遺言書を書いたり、生前贈与をする際には、無用なトラブルを起こさないためにも、相続人の遺留分について十分考慮しておく必要があります。

遺留分は、残された遺族の生活や権利を保障するものなので、民法で定められた法定相続分とは異なる配分になります。法定相続分は、相続財産を法定相続人で分割して算出しますが、遺留分はその1/2になります(ただし、相続人である兄弟姉妹には遺留分なし。相続人が両親のみの場合は、遺留分は法定相続分の1/3)。
一般的には、家屋や土地などの不動産、銀行の預貯金や株券などのプラスの遺産と、借金や未払いの医療費などのマイナスの遺産を差し引いて相続財産を算出し、それを法定相続人で分割して法定相続分を割り出します。その1/2、もしくは1/3が遺留分に(生前贈与された財産があれば、その額が加わります)。相続財産が多ければ、その分、遺留分も増えるというわけです。
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相続人の中でも、遺留分の保障がされている人は、遺留分が侵害された時に請求する権利を持つ人という意味で遺留分権利者と呼ばれます。該当するのは、以下の法定相続人のうち、兄弟姉妹を除いた人達です。
遺留分権利者は、遺留分が侵害された際に、遺留分侵害額請求をできる権利がありますが、必ずしもその権利を行使しなければならないわけではありません。例えば特定の誰かに偏った相続があったとしても、それを許容しているのであれば、とくに何も行う必要はありません。
遺留分権利者は、相続財産に著しい不公平があり、自分がもらえるはずだった最低限の取り分(遺留分)さえもらえず、それを取り返したいという意思がある場合に、遺留分侵害額請求をして、遺留分を取り返す権利がある人なのです。
ここ数年、相続に関しての民法の決まりが大きく変わってきています。これは2018年に可決された民法の改正案が施行されているからです。その中から、遺留分に関わる変更点について抽出し、ご紹介します。
遺留分侵害額請求をされた側には、金銭を支払う必要が出てきました。家屋や土地を相続した場合でも、遺留分侵害額請求をされたら、侵害額相当の現金を支払わなければいけないので、注意が必要です。
相続人に対する生前贈与で特別受益にあたるものは、相続開始前10年以内になされたものだけが持ち戻しの対象になりました。
相続人の一部が、本来であれば5000万円の土地を、被相続人から1000万円で譲り受けていたとします。その場合、従来は遺留分権利者が1000万円を一旦償還して、5000万円を減殺の対象とする取扱いでしたが、改正により差額分の4000万円を請求対象とすることができるようになりました。
2019年7月の改正によって新設されたのが、相続債務の弁済の控除です。遺留分侵害額請求をされた側の相続人が、被相続人の債務を弁済していた場合、遺留分の算出をする際に、弁済額が控除されるようになりました。
被相続人の配偶者の居住権が認められるようになり、被保険者が亡くなったあとも、配偶者は引き続き、住居に住み続けられる制度が設けられました。また婚姻期間が20年以上あった夫婦が配偶者に住居を贈与した場合、特別受益の持ち戻しの免除対象になります。

では実際に、遺留分がいくらになるのか考えてみましょう。まずは、遺留分の算出に必要な相続財産を洗いだす必要があります。
洗い出された財産の1/2に相当する遺留分の全体額を算出し(相続人が両親のみの場合は、遺留分は1/3)、それに法定相続割合を乗じたものが各相続人の遺留分となります。
遺留分の対象となる財産を洗い出すには、まず相続財産を算出する必要があります。プラスの財産とマイナスの財産を洗い出し、それぞれを差し引きして相続財産を割り出します。

次に、持ち戻される生前贈与を加算します。
一部の相続人が、土地や建物、現金などの資産を生前に贈与され、それが特別受益とみなされた場合は、相続財産として加算されます(=特別受益の持ち戻し)。
結婚や養子縁組のための贈与、住宅取得資金や子育て資金などの贈与も、生前贈与として特別受益に含まれます。教育資金の贈与に関しては、一般的には特別受益とはみなされませんが、その家庭の生活水準と照らし合わせたときに著しく多いものや、相続人の間で著しい不公平があった場合など、特別受益とみなされる場合もありますので注意が必要です。
遺言書による遺贈で、一部の相続人が土地や建物、現金などの資産を受け取った場合も、特別受益になります。特別受益とみなされた場合、相続財産に持ち戻されて加算されます(=特別受益の持ち戻し)。
いずれの場合でも特別受益と判断されるのは、相続人のうちの一部が特別な贈与を受けた場合のことです。相続人でない第三者が受けた生前贈与、遺贈に関しては原則、特別受益の対象にはなりません。ただし、相続開始前1年以内に贈与された場合や、被相続人と贈与を受けた人との間で、ほかの相続人の遺留分を侵害するという認識があったと証明できる場合、生前贈与で受け取ったものは遺留分の対象になります。
また生前贈与、遺贈の場合でも被相続人から特別受益の持ち戻しの免除の意思が遺言書に記載されていた場合、持ち戻しは免除されます。
しかし、遺留分が侵害された場合は持ち戻し免除の効力は失われ、必ず持ち戻されて、相続財産に加算されます。
特別受益は、相続財産に持ち戻されるのが原則ですが、2019年7月の民法の改正により、遺留分算出の際の、特別受益の持ち戻しには、制限が設けられるようになりました。相続開始10年以上前の特別受益に関しては、原則として遺留分算出に加算されません。
では実際に、遺留分を計算してみます。先述の相続財産に特別受益の持ち戻しを加算して、遺留分の対象財産を洗い出し、以下の割合を加味して遺留分を算出します。
まず、遺留分全体の合計額は対象財産の1/2となります(相続人が両親のみの場合は1/3)。これに法定相続割合をかけたものが遺留分となります(ただし兄弟姉妹に遺留分はありません)。
子供、直系尊属がそれぞれ2人以上いるときは、原則として均等に分割します。
では、遺留分が侵害された場合、遺留分権利者は具体的にどのような手段を取れば良いのでしょうか。順を追ってご説明します。
遺留分侵害額請求をどのように行うかは、法律などでは決められていません。ここでは、一般的な流れをお伝えします。
まずは、遺留分を侵害している相続人に対し、遺留分侵害額請求をする旨、伝えます。口頭で伝える手段もありますが、証拠を残すために、書面で「遺留分侵害額請求書」を作成し、内容証明付き郵便で請求するのが一般的です。その後、相手と交渉し、具体的な遺留分の返還方法を話し合わなければなりません。
合意が得られない場合は、家庭裁判所にて遺留分侵害額請求の調停を申し立てます。
ここでも調停が不成立となった場合は、訴訟によって解決する必要があります。請求金額が140万円以下なら簡易裁判所、140万円を超える場合は、地方裁判所に訴訟を起こします。
専門知識も必要なため、すべてを弁護士に依頼することもできます。
遺留分侵害額請求については、いつでもできるわけではなく、時効があります。
以下の期限の前に請求を行う必要があるので、注意が必要です。
遺留分侵害額請求をされた人は、それを無視することはできません。侵害した分を遺留分権利者に金銭で返済する必要があります。
ただし、遺留分侵害額請求をされた場合に、気を付けなければいけないのが、請求された内容が正当なものかということ。遺留分の請求金額が正しく算出されているのか、そもそも請求者が本当に遺留分権利者なのかどうかなど、遺留分侵害額請求書の内容を鵜呑みにせず、弁護士に相談するのが望ましいでしょう。

では実際には、どのような場合に遺留分トラブルが生じるのでしょうか。よくあるトラブルについて一例をご紹介します。
例えば離婚歴のあるAさんが、後妻に土地と家屋を生前贈与して、亡くなったとします。この場合、後妻の所有物となった土地と家屋は、Aさんの相続財産に加算されません。そうすると、ほかの相続人には、土地と家屋を相続することができなくなってしまいます。後妻との間には子供がおらず、前妻との間に子供がいた場合など、前妻の子供からすると、本来もらえるはずだった相続分が目減りしてしまいます。
Aさんが残した預貯金などの資産が少なく、ほかの相続人が相続できるものがほとんどなかった場合は、土地や家屋を相続していた場合にもらえるはずだった遺留分が侵害されていることになります。
ほかの相続人が遺留分侵害額請求した場合は、後妻の所有物になった家屋や土地は、特別受益(=一部の相続人が受け取った特別な利益)とみなされ、相続財産として加算されます。これを特別受益の持ち戻しと言います。
この場合、後妻は家屋や土地を含めた相続財産から割り出された遺留分侵害額を、ほかの相続人に請求される可能性があります。
※ただし、婚姻期間が20年以上あった夫婦が住んでいた住居の贈与に関しては、2019年7月の民法改正により、特別受益の持ち戻しの免除対象になっています。
2人姉妹のAさんBさんは、長女のAさんだけが父親から生前贈与で現金を受け取っていたとします。二女のBさんは生前贈与を一切受けておらず、遺留分が考慮されていなかった場合、トラブルに転じるパターンがあります。
Bさんの相続分がAさんの生前贈与でもらった金額よりも著しく少なかった場合など、本来もらえるはずだった遺留分が侵害されたとして、Bさんは遺留分侵害額請求をすることもできます。
遺留分侵害額請求された場合は、Aさんが生前贈与でもらった現金が父親の相続財産に加算され(特別受益の持ち戻し)、Bさんは遺留分を取り返すことができます。
生前贈与の特徴のひとつに、法定相続人以外の人にも自分の意思で贈与できるということがあります。例えば愛人や相続人でない第三者に、マンションや自動車を贈与することも可能です。しかし、そういった第三者への生前贈与が、被相続人が亡くなった後に、トラブルに転じるケースもあります。
通常であれば、法定相続人以外の人が受けた生前贈与に関しては、特別受益とみなされず、たとえ遺留分が侵害されていたとしても、遺留分侵害額請求の対象にはなりません。
しかし、相続開始前1年以内に贈与された場合や、被相続人と贈与を受けた人との間で、ほかの相続人の遺留分を侵害するという認識があったと証明できる場合、生前贈与で受け取ったものは遺留分の対象になります。
遺留分侵害額請求がされ、権利が認められた場合、生前贈与を受けた人は、遺留分権利者に遺留分の返金をする必要があります。
生前贈与ではありませんが、遺留分トラブルで多い遺言書による不公平な相続についてもご紹介します。
例えば「遺産はすべて長男にゆずる」などと遺言書に書かれていた場合、ほかの兄弟や法定相続人は、遺言書に準じて、遺産が一切もらえなくなってしまいます。
このように遺留分が侵されていた場合でも、生前にほかの相続人が遺留分放棄の手続をしていたり、遺言書の内容を許容するのであれば、問題はありません。
しかし、ほかの相続人の間で「長男だけズルい!」というように異議を唱える人が出てきた場合は、遺留分侵害額請求をして、最低限の取り分である遺留分を取り返すことができます。その場合、遺産を受け取った長男は、ほかの相続人に遺留分を返金しなければなりません。受け取った遺産が不動産だけだったとしても、その不動産が相続財産として金額換算され、ほかの相続人には、遺留分を現金で支払う必要があります。
ただ、遺留分侵害額請求に関しては、相続人の間でも意見が合致しないときもあります。「私は遺留分はいらない」という場合は、家庭裁判所に申し出て、遺留分放棄することも可能です。その場合、遺留分放棄した人は遺留分権利者から外され、その人以外の相続人で相続財産を分割することになります。

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ここまで、遺留分侵害額請求についてお伝えしてきましたが、請求する側も請求される側も、双方にとって金銭や時間、精神的な負担が大きいのが現実です。
遺留分侵害額請求を避けるために、被相続人が気を付けておきたいポイントをまとめました。
まず大切なのが、生前贈与をする際や遺言書で遺贈する場合でも、必ず遺留分を考慮することです。遺留分を侵害しない額に収めておけば、無用なトラブルが生じるのを防ぐことができます。
また生前贈与する際の手段を工夫するという手もあります。例えば生命保険を使った生前贈与は、遺留分侵害額請求を防ぐ手段としても活用できます。
被相続人がなくなった時に、相続人の誰かが死亡保険金を受け取るようになっていた場合でも、受け取った死亡保険金は、受け取った人の資産になるため、被相続人の相続財産には加算されません。そのため相続の分割の対象にならず、遺留分を算出する際にも原則加算されないのです。
ただし相続人の間で不公平が著しい場合は、特別受益に当たるので注意が必要です。
ここまでご紹介してきたように、遺産の分配がたとえ不公平だったとしても、当事者の遺族の間で合意が取れていれば、なんら問題にはなりません。
生前贈与をする際や遺言書を書く前に、家族会議などで取り決めをしっかりと作っておけば、トラブルは回避につながります。
ただし、一旦決まったはずの取り決めを守ってもらえないケースも出てくるかもしれません。家族会議で同意したはずの内容が撤回され、遺留分を請求されてしまった…といったようなトラブルもありえます。
そういったトラブルを事前に防ぐために、遺留分を家庭裁判所に申し立てて放棄してもらう手もあります。一度遺留分を放棄した場合、その時点で遺留分権利者ではなくなりますので、遺留分侵害額請求もできなくなります。
いずれにしても、遺族が争族にならないように、きちんと取り決めを作っておくことが大切です。
相続人同士が遠方に住んでいたり、忙しかったりと、なかなか全員で顔を合わせて家族会議などができない場合もあります。そんな場合でも、遺言書には付言事項といって、遺言書を書くに至った心境や事情を追記でしたためることができます。不公平な分配の遺産配分を要求した遺言書であっても、遺族が納得してくれれば、問題はありません。
例えば被相続人である父親が障害がある長男に遺産を遺してあげたいと思っていた場合、ほかの法定相続人に向けて、「長男の生活のために、家屋と不動産はすべて遺してあげたい」という思いをつづることができるのです。
付言事項には、法的な効力はありませんが、遺された遺族の心情に訴えかけることで、遺留分侵害額請求などの争いごとに転じないように、気遣うことはできます。
生前贈与の際に気をつけておきたい遺留分侵害額請求。相続開始した途端、仲が良かった親族の間で相続争いが始まったり、良かれと思ってやったはずの生前贈与で無用なトラブルを生まないためにも、遺留分については必ず考慮しておきたいものです。
また民法の改正は、順次なされているので、都度チェックするのは、素人には至難の技です。生前贈与を考えている場合、専門家に相談するのが安心です。
ご相談される方のお住いの地域、遠く離れたご実家の近くなど、ご希望に応じてお選びください。
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相談者は、80代の父親が所有する複数の不動産を子や孫に相続させるための方法に悩んでいました。父親は遺言書の作成を考えているものの、生前贈与が適しているのかも分からず、専門家の意見を求めていました。預貯金は少なく、主な財産は不動産であるため、適切な相続対策が必要でした。
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相談者は母親を亡くし、相続税申告が必要な状況でした。相続財産には、評価額が土地約345万円、建物約637万円の不動産と、複数の銀行預金が含まれていました。さらに、長年にわたり長女、次女、孫に年間110万円ずつ贈与していたため、生前贈与を考慮した相続税の申告が課題でした。
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